2014年10月17日公開のヒンディー語映画「Sonali Cable」は、ムンバイーの一地区で小規模なインターネットケーブル会社を営む女性を主人公にした、一風変わった映画である。監督は、主にTV業界で活躍するチャールーダット・アーチャーリヤ。主演はリヤー・チャクラボルティー。他に、アリー・ファザル、ラーガヴ・ジュヤール、アヌパム・ケール、スミター・ジャイカル、スワーナンド・キルキレー、ファイサル・ラシードなどが出演している。
ソーナーリー(リヤー・チャクラボルティー)は、ムンバイーの一地区で小規模なインターネットケーブル会社「ソーナーリー・ケーブル」を運営していた。ソーナーリー・ケーブルは地元選出の女性政治家ミーナー(スミター・ジャイカル)から出資を受けていた。ミーナーの息子ラグ(アリー・ファザル)は米国に留学していたが帰って来る。ソーナーリーとラグは幼馴染みであった。ラグはソーナーリーのビジネスを助けるようになる。 折しも、ヴァゲーラー(アヌパム・ケール)の経営する大手多角化企業シャイニングがインターネットケーブルのビジネスにも進出し、ムンバイー中のインターネットを手中に収めようとしていた。遂にソーナーリーのテリトリーにもシャイニングがやって来る。担当者のボビー(ファイサル・ラシード)はソーナーリーを閉業に追い込もうとするが、彼女は抵抗する。すると、ソーナーリー・ケーブルのオフィスに悪漢が押しかけてきて機材を破壊する。そのとき、ソーナーリーの片腕だったサダー(ラーガヴ・ジュヤール)が殺されてしまう。 シャイニングの仕業であることは明らかだったが、警察は動こうとしなかった。そうこうしている内に今度はソーナーリーが銃撃されるが、銃弾を受けたのはラグだった。ラグが怪我をしたことでミーナーはソーナーリーをラグから遠ざけようとする。シャイニングのあの手この手の圧力により、ソーナーリー・ケーブルは風前の灯だった。ソーナーリー・ケーブルのオフィスのすぐ隣にシャイニングのオフィスが建ってしまう。ソーナーリーは腹いせにボビーの鼻を傷付け、逮捕されるが、すぐに釈放される。だが、ソーナーリー・ケーブルは閉業せざるをえなかった。 ソーナーリーはシャイニングに一泡吹かせるためにボビーの自宅に忍び込み、パソコンからデータを盗み出す。その中には、シャイニングにとって都合の悪い動画が入っていた。ソーナーリーはそれをYouTubeにアップロードする。こうしてヴァゲーラーは逮捕され、ソーナーリー・ケーブルは「サダー・ケーブル」として再生した。
「Mere Dad Ki Maruti」(2013年)でヒンディー語映画デビューしたリヤー・チャクラボルティーは、元々MTVなどでVJをしていた。まだ女優としては駆け出しのリヤーはこの「Sonali Cable」で、物語の中心となる女性主役を演じた。かなりのスピード出世である。とにかくリヤーがしゃべりまくる映画であった。だが、彼女のハスキーな声は必ずしも聞き心地がよくなかった。それに、ストーリーは混沌としており、まとまりが悪かった。
「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)のチョイ役で注目を集めたアリー・ファザルは、今回は母親のミーナーと主役のソーナーリーという女傑の間に挟まれ、肩身狭そうにしていた。一応彼も主役の扱いであろうが、リヤーに全く圧倒されてしまっていた。それより以前に、彼の演じるラグが何を考えているのかよく分からなかった。
アリーよりも目立っていたのは、ソーナーリーの忠実な部下サダーを演じたラーガヴ・ジュヤールである。ラーガヴはスローモーションダンスの名人で、リアリティーショーなどで人気を博しているTVタレントである。そのラーガヴが今回初めて映画に出演した。彼の柔らかい身のこなしが必要以上に強調されており、まるでラーガヴの方がメインのヒーローであるかのようだった。エンドロールでメインの踊りを踊るのもラーガヴであった。
地元零細企業のソーナーリー・ケーブルが、全国規模でビジネスを展開し国際的にも知名度のある大企業シャイニングに呑まれて行く様子は、激変するインド社会をよく体現しているのかもしれない。ソーナーリー・ケーブルは地域の人々にインターネットを提供し、しかもトラブルに対して懇切丁寧に対応していた。だが、シャイニングのサポートに電話しても機械音声が流れるだけで、トラブルを解決しようとする姿勢が見られなかった。顧客にとってはソーナーリー・ケーブルのような、地元密着型のサービスの方が何かあったときには安心できるのだろうが、シャイニングのような大企業が押し寄せてくると、零細企業にはひとたまりもない。そういう現状はよく表現されていたといえる。ちなみに、シャイニングのモデルとなっているのは明らかに新興財閥リライアンスであろう。
「Sonali Cable」は、少し変わった風情を感じる題名の映画だが、監督や俳優の力不足のため、まとまりの悪い映画で終わってしまっている。興行的にも大失敗に終わり、さもありなんといった感じである。無理して観る必要のある映画とは思えない。