Kaaka Muttai (Tamil)

3.5
Kaaka Muttai
「Kaaka Muttai」

 2014年9月5日にトロント国際映画祭でプレミア上映され、インドでは2015年6月5日に一般公開されたタミル語映画「Kaaka Muttai(カラスの卵)」は、ピザに憧れるスラム街出身の少年たちの物語である。日本では「ピザ!」の邦題と共にDVDが販売された。

 プロデューサーは「Raanjhanaa」(2013年)のダヌシュとヴェットリマーラン。監督はMマニカンダン。短編映画を監督した経験はあるが、長編映画は今回は初である。子供が主人公の映画であり、VラメーシュとJヴィグネーシュという2人の子役俳優が主演を務めている。どちらも新人である。他に、アイシュワリヤー・ラージェーシュ、バーブー・アントニー、ラメーシュ・ティラク、ヨーギー・バーブーなどが出演している。また、シンブが特別出演している。

 タミル・ナードゥ州の州都チェンナイにあるスラム街で生まれ育った2人の兄弟は、長男がペリヤ・カーカ・ムッタイ(大きなカラスの卵/Jヴィグネーシュ)、次男がチンナ・カーカ・ムッタイ(小さなカラスの卵/Vラメーシュ)と呼ばれていた。なぜなら二人はカラスの巣から卵を盗んでは食べていたからである。二人の父親は刑務所に入っており、母親(アイシュワリヤー・ラージェーシュ)は何とか夫を保釈させようと努力していた。家には年老いた祖母も同居していた。

 ところが、スラム街の子供たちの遊び場だった広場がピザ屋になってしまう。遊び場を奪われた子供たちだったが、ピザに興味津々だった。ペリヤとチンナはピザを買うために石炭を盗んでは売って金を貯め始める。ようやく300ルピーを貯め、意気揚々とピザ屋に入ろうとするが、ガードマンに追い払われる。新しい服を着ていないと中に入れてもらえないと聞いた二人は、今度は服を買うために金を貯め始める。

 二人はショッピングモールから出て来た裕福な少年たちから新しい服をもらい、再び意気揚々とピザ屋に入ろうとする。だが、やはり門前払いだった上に、今度はペリヤが店員から平手打ちをされてしまう。その様子を友人が動画に撮影していた。

 その動画を見たナイナ(ラメーシュ・ティラク)とその相棒(ヨーギー・バーブー)は、その動画を使ってピザ屋から金を脅し取ろうとする。ところがナイナが交渉している内に相棒がその動画をTV局に売ってしまい、ニュースになってしまう。この出来事は大きな問題になる。

 ナイナたちは今度は地元の議員をけしかけてピザ屋の前で抗議活動を扇動しようとするが、ピザ屋も議員と相談し、解決策を探る。結局、ペリヤとチンナをピザ屋に招待し、彼らにピザを食べさせることで一件落着となる。二人はようやくピザを食べることができるが、意外においしくなかった。

 インド社会の格差がよく再現された物語だった。「カラスの卵」とは変な題名だが、これは主人公である2人の兄弟を指す。彼らは鶏の卵が食べられないほど貧しく、カラスの巣から卵を盗んでは食べていたため、そんな名前が付いた。不思議なことに彼らの本名は映画中で全く出て来ない。母親も子供たちを名前で呼ぶことがない。長男は「大きな(ペリヤ)カラスの卵」、次男は「小さな(チンナ)カラスの卵」と呼ばれていた。

 貧しくて学校に行けず、列車から落ちる石炭を拾ってそれを売り、生活費の足しにしていたカラスの卵たちが憧れていたのはピザだった。インドではピザは舶来の高級料理であるが、都市部を中心にピザ屋のチェーンが乱立し広告合戦が繰り広げられている。よって、スラム街でもピザというものが存在するという情報は広まっているかもしれない。彼らが実際に食べる機会はほとんどないだろう。

 主人公の少年たちは、遊び場としていた土地に新しくピザ屋ができて、生まれて初めてピザの存在を知る。また、開店日にはスター俳優のシンブが来店し、おいしそうにピザを頬張っていたため、それを見た彼らはますますピザへの興味を募らせることになった。配給によって手に入れたTVからもピザの広告が垂れ流されていた。ところが、ピザは1枚299ルピー。彼らの稼ぎの1ヶ月分という高価な料理だった。

 二人は、とある裕福な家庭の子供とも親しくなっていた。もちろん彼はピザを日常的に食べていた。一度、食べ残しのピザを提供してもらったことがあったが、長男の方がそれを潔しとせず断る。彼らは貧しかったが、食べ残しの食べ物を恵んでもらわなければならないほどプライドを捨ててもいなかった。カラスの卵たちは、自分たちで稼いでピザを食べると決意する。

 ただ、実はピザはお金の問題だけではなかった。彼らとピザの間には、格差という大きな壁が立ちはだかっていた。カラスの卵たちは何とか300ルピーを貯めるが、ピザ屋の中に入れてもらえない。なぜなら彼らの風貌が明らかにスラム街の子供然としており、裕福な人々が訪れるピザ屋に入る資格がなかったのである。カラスの卵たちは、服装が悪いのだと考えて、今度は新しい服を調達し、再びピザ屋に入ろうとする。それでも彼らは入れてもらえない。スラム街の人間は、お金を持とうと服を新調しようとピザ屋からは排除される存在だったのである。

 カラスの卵たちは、まだ幼いながらも、インド社会の残酷な現実をうっすらと自覚し、ピザを諦める。だが、ピザ屋の店員がペリヤを平手打ちし、その動画がTVで放映されたことで、少年たちの潰えた夢は思わぬ方面へ飛び火していく。あまりに大騒動になったことでピザ屋も少年たちを賓客として迎えて火消しする方法を採る。おかげで彼らは憧れのピザを食することに成功する。

 あれほど恋い焦がれていたピザを食べたときの少年たちの反応は秀逸だった。どんなにおいしいものかと期待していたが、いまいちピンと来ない味だったのだ。二人は「ドーサの方がおいしい」と言い合う。おそらく、亡くなった祖母が、ドーサに野菜を載せて見よう見まねで作ってくれたピザを思い出したのだろう。人生において、切望していたものをいざ手に入れても、意外に期待外れということはあるものだ。

 ペリヤとチンナを演じた2人の子役俳優たちの表情が良かったし、母親役を演じたアイシュワリヤー・ラージェーシュの何か物言いたげな表情もよかった。JヴィグネーシュとVラメーシュを含む子供たちはスラム街から選ばれており、プロの子役俳優ではない。また、撮影はチェンナイにある実際のスラムで行われたと思われる。スラム街の生活が生々しく再現されていた。

 「Kaaka Muttai」は、ピザを切望する貧しい少年たちを主人公にした児童映画である。インド社会に存在する格差がピザという我々にとって身近な食べ物によって巧みに浮き彫りにされていた。子供向けの児童映画という側面と、大人向けの社会派映画という側面があるハイブリッドな作品であり、どちらの観点から観ても楽しめる。