Khwaabb

3.5
Khwaabb

 ヒンディー語映画界においてスポーツ映画は既に珍しいジャンルではなくなっているが、2014年5月9日公開の「Khwaabb(夢)」は、女子スイマーを主人公にした変わった映画だ。水泳の国際試合を観戦すると白人が多いことにすぐ気付く。水泳はある程度の経済力が必要なスポーツであり、インドでは、川や池などで泳いでいる子供たちは多いものの、スポーツとしての水泳はそれほど盛んではない。

 監督は新人のザイド・アリー・カーン。キャストは、ナヴディープ・スィン、スィマル・モーティヤーニー、バジラングバリ・スィン、リシ・ミグラーニー、ナフィーサー・アリーなどである。ほぼ無名の俳優たちばかりだが、特別出演扱いになっているナフィーサー・アリーだけは政治家としても活躍している著名な人物である。実はナフィーサーはミス・インディアでもありながら、1972年から76年まで水泳のナショナルチャンピオンという才色兼備の女性であり、その縁でこの映画に出演することになったと思われる。

 スポーツアカデミーのコーチ、ラーム・プラサード・ラクシュマン、通称RPL(バジラングバリ・スィン)は、たまたま立ち寄った村でキラン・ミシュラー(スィマル・モーティヤーニー)という水泳の才能を持った若い女性を発見し、彼女をアカデミーにスカウトする。アルコール中毒の父親はRPLを追い返すが、キランは家出の形でRPLに付いて来る。キランに片思いをしていた青年サンジャイ・クマール(ナヴディープ・スィン)も追い掛けてくる。彼は思いのほか俊足で、RPLは彼もアカデミーに入れる。

 キランはアカデミーで特訓を受け、才能を開花させる。水泳のコーチからセクハラの被害に遭うが、サンジャイの活躍もあってコーチの解任に成功し、新しくナフィーサー・アリー(本人)がコーチとしてやって来る。キランは潜在性を見出され、ナショナルチャンピオンシップにも出場するが、ドーピングの疑いを掛けられ失格となる。彼女のルームメイトから肌の薬として渡されていたものがドーピングに引っ掛かったのだった。RPLやナフィーサーに支えられ、キランは嫌疑を晴らし、再び水泳選手に復帰する。

 一方、サンジャイも陸上競技選手として特訓を受け、ナショナルレベルの選手に成長する。キランに言い寄るサミール(リシ・ミグラーニー)という恋敵も現れるが、キランのドーピング疑惑の際に彼女から距離を置き、キランの信頼を失う。サンジャイは常にキランの味方をし続け、彼女の心を勝ち取る。

 サンジャイとキランはインド代表として国際試合への出場権を獲得するが、協会は国際試合のための予算を役員の家族旅行に費やし、選手たちからは一人15万ルピーの支払いを求める。サンジャイは土地を売って金を作るが、二人分の金は用意できず、キランの出場のために使う。キランはナフィーサーと共にドバイへ飛び、試合に臨む。そこでキランはインド人女子水泳選手として初めて銀メダルを獲得する。

 父親から日常的に暴力を振るわれ、家事以外の仕事を許されず、夢を持つことすらできなかった農村の女性が、水泳選手になるチャンスを与えられ、それを見事にモノにするというシンデレラストーリーであった。

 主人公キランのサクセスストーリーは実話なのかもしれないと思い調べてみたが、実在するインド人女子水泳選手にモデルを求めることはできなかった。2004年のアテネ五輪に出場したシカー・タンダンや、2016年のリオ五輪に出場したシヴァーニー・カターリヤーなど、何人かの選手を合わせたキャラなのかもしれない。

 低予算映画の作りで、技術的にも未熟な点が多々見られたが、その脚本からは、インドのスポーツの問題点になるべく多く触れようとする意気込みが感じられた。女子アスリートが主人公なので、セクハラ問題には当然のように触れられていたし、ドーピング問題、協会汚職問題、縁故主義問題など、一通りの問題に触れられていた。ただ、それぞれが軽く流されてしまっていたので、問題提起としては弱かった。

 サンジャイのキランに対する一途な恋は映画に色を加えていた。キランは純粋に水泳で身を立てたくて日々の練習に打ち込んでいたが、サンジャイの原動力はキランへの恋心だった。コーチのRPLもそんなサンジャイの気持ちを知っており、それをうまく利用してサンジャイの才能を引き出す。キランには水泳選手として天賦の才能があったが、サンジャイも陸上競技選手として頭角を現す。そして、キランの身にどんなことがあっても彼女をひたすら支える。自らの国際試合出場を犠牲にしてもキランの成功を後押しする。そんなサンジャイの健気な行動に胸を打たれてしまう。

 キランを演じたスィマル・モーティヤーニーという女優は初めて観たが、水泳のシーンで見せた泳ぎはかなりのもので、もしかしたら元々水泳経験があったのかもしれない。水泳の試合をスリリングな形で映し出すのは難しいと思うのだが、その点については「Khwaabb」はよく出来ていた。

 「Khwaabb」は、女子水泳選手を主人公にしたストレートなスポーツ映画である。インドのスポーツが抱える問題点にも一通り触れており、監督の真面目さがうかがえる。決して完成度の高い映画ではないが、筋が追いやすく、極度に不幸なシーンも皆無で、気持ちよく観ることのできる映画である。