Mickey Virus

3.5
Mickey Virus
「Mickey Virus」

 2013年10月25日公開の「Mickey Virus」は、ハッカーを主題にしたコメディー風味のスリラー映画である。デリーを舞台にしており、ネルー・プレイスやカトワーリヤー・サラーイなど、デリーの地名がそのまま出て来るのが、デリー在住経験者には嬉しい作品だ。

 監督はサウラブ・ヴァルマー。元々、ヒンディー語映画業界でマーケティングを担当してきた人物であり、監督は本作が初となる。キャストは、新人マニーシュ・ポール、新人エリ・アヴラーム、マニーシュ・チャウダリー、ヴァルン・バドーラー、プージャー・グプター、ニテーシュ・パーンデーイ、ラーガヴ・カッカル、ヴィケーシュ・クマールなど。

 マニーシュ・ポールはTV番組の司会などで有名な人物で、本作が本格的な映画俳優デビューとなる。エリ・アヴラームはスウェーデン人で、「Devdas」(2002年)を観てインド映画にはまり、ムンバイーにやって来たという。母親は女優で、イングリッド・バーグマン主演の「ファニーとアレクサンデル」(1982年)に出演したことがあるという。

 デリー警察のスィッダーント・チャウハーン警部(マニーシュ・チャウダリー)は、外国人ハッカーがデリーに相次いで殺される事件が発生したのを受け、デリーで何か大きなことが起ころうとしていると直感し、ハッカーを雇うことにする。白羽の矢を立てられたのがミッキー・アローラー(マニーシュ・ポール)だった。また、ミッキーはカーマーヤニー・ジョージ(エリ・アヴラーム)という美女に一目惚れし、彼女の尻を追いかけていた。カーマーヤニーはエクスカリバー銀行に勤めていた。

 あるときミッキーは、仕事上で大きなミスを犯したカーマーヤニーを助ける。カーマーヤニーは誤って違う顧客の口座に10億ルピーもの大金を移動してしまったのである。ミッキーは銀行のシステムをハッキングして、その資金を元に戻すのに協力する。その夜、ミッキーとカーマーヤニーは一夜を共にする。

 翌朝、ミッキーが警察署に出向くと、チャウハーン警部が血相を変えていた。なんとエクスカリバー銀行のシステムがハッキングされ、ドバイのマフィア、アンワル・ラージャーの口座から10億ルピーが抜き出されてしまったのだ。さらに、カーマーヤニーが遺体で発見された。このままではミッキーがサイバー犯罪者かつ殺人犯にされてしまう恐れがあった。アンワルは現在、飛行機で移動中だったが、このことが知れたら、ミッキーの命はない。猶予はあと10時間だった。

 ミッキーは、フロッピー(ラーガヴ・カッカル)、ペーンチョー(ヴィケーシュ・クマール)、チャトニー(プージャー・グプター)、プロフェッサー(ニテーシュ・パーンデーイ)など仲間の助けを借りて真犯人を捜し出そうとする。その過程でミッキーは、チャウハーン警部が黒幕であることに気付く。彼はカーマーヤニーを使ってミッキーに10億ルピーを引き出させようとしたのだった。

 ミッキーはチャウハーン警部をネルー・プレイスの地下駐車場に呼び寄せるが、そこにはプロフェッサーとフロッピーも来ていた。なんと、ハッカーの殺人を行っていたブラム・ギャングという集団の幹部は、実はプロフェッサー、フロッピー、ペーンチョーであった。彼らは10億ルピーを手に入れるためにカーマーヤニーを殺した。ミッキーは彼らのやり取りを録音しYouTubeでライブキャストしていた。そこへ、チャウハーン警部の部下デーヴェーンドラ・バッラー警部補(ヴァルン・バドーラー)が駆けつける。バッラー警部補はあらかじめミッキーと打ち合わせていた。フロッピーは殺され、プロフェッサーとチャウハーン警部は逮捕された。

 全くスターキャストのいない低予算映画ではあるが、スリラー映画として重要な脚本がしっかりしている上に、チェイスシーンや台詞回しなど、要所要所がうまく作ってあり、なかなかの出来の映画だった。おまけにファイザーン・フサインとアグネル・ロマンによる音楽も良かった。興行的には失敗に終わった映画ではあるが、侮れない作品である。

 デリー南部、観光地として有名なロータス・テンプルの近くにネルー・プレイスという場所がある。ここは、「デリーの秋葉原」と呼ばれるインド随一のパソコン街であり、パソコン、周辺機器、ソフトウェアなど、正規品から海賊版まで、あらゆるものが揃うことで知られている。主人公のミッキーは、このネルー・プレイスを根城にするハッカーである。実際にネルー・プレイスで撮影が行われており、その雰囲気がそのままカメラに収められていた。

 警察が、ハッカーに対抗するために若いハッカーを雇うというのはよくある展開だ。口は達者で生意気だがコンピューターの腕前は一流というキャラになることが多く、ミッキーも正にそんな人物設定であった。それに加えてジェネレーションギャップが面白おかしく描かれる。チャウハーン警部は何度も「お前たちの世代は圧力を加えないと成果を出さない」と言い放つ。一方のミッキーは、コンピューターに疎い世代を尻目に、カーマーヤニー殺人事件の犯人にさせられないように彼女の携帯電話から不利な情報を超特急で削除したりする。

 カーマーヤニーをミッキーの人生に送り込んだのがチャウハーン警部だったのは伏線が張られていたので問題なかったのだが、警察が追っていたブラム・ギャングの正体がミッキーの仲間たちだったという終盤のどんでん返しは唐突すぎてご都合主義の誹りは免れないだろう。ヒロインと思われていたカーマーヤニーが途中で殺されてしまった一方、ミッキーとチャトニーの関係も生焼け状態だった。バッラー警部補が実は事件に関わっていなかったというオチはアリだった。

 コンピューターオタクたちが会話をするので、台詞の中には自然にコンピューター用語が織り込まれる。また、効果音も、Windowsのエラー効果音に似たものが使われていて面白い。

 このような低予算映画にしては、音楽が良くできていて、使い方も適切だった。特に美しいのはアリジート・スィンの歌う「Tose Naina」であるが、コミカルな「Pyaar China Ka Maal Hai」も楽しい曲だった。

 エリ・アヴラームをわざわざ起用したことについては疑問を感じないわけでもないが、外国人ながらヒンディー語映画のヒロインの座を仕留めたのは勇気づけられる。マニーシュ・ポールは新人とは思えない落ち着いた演技を見せていた。

 「Mickey Virus」は、全くスターキャストがいない地味な映画ではあるが、全体を貫く脚本、そして要所要所の部品、どちらもよく出来ており、スリラー映画としても一定のレベルに達している。観て損はない映画である。


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