Waar (Pakistan)

3.5
Waar
「Waar」

 パーキスターンで2013年10月10日にプレミア公開され、16日から一般公開されたパーキスターン映画「Waar(攻撃)」は、同国の映画史に残るヒット作となったアクション映画である。主な台詞は英語であり、部分的にウルドゥー語が使われている。

 監督は新人のビラール・ラーシャーリー。ミュージックビデオの監督から身を立て、名作「Khuda Kay Liye」(2007年)で助監督を務めた。アミール・ムナーワルが作曲しており、パーキスターンのプログレッシブ・ロックバンド、カヤースやインドのミュージシャン、クリントン・セレジョが歌を歌っている。

 キャストは全員パーキスターン人俳優であり、「Khuda Kay Liye」のシャーン・シャーヒドが主演である。他に、シャムーン・アッバースィー、「Bhaag Milkha Bhaag」(2013年/邦題:ミルカ)のミーシャー・シャフィー、スーフィー・ロックバンド、ジュヌーンのリードヴォーカリスト、アリー・アズマト、ハムザ・アリー・アッバースィー、アーイシャー・カーンなどが出演している。

 インドの諜報機関RAWの支援を受けたテロリスト、ラマル(シャムーン・アッバースィー)がパーキスターンで大規模なテロを計画しているとの情報を入手した対テロ部隊(CTG)は、以前の作戦でラマルと接触したことのあるムジタバー少佐(シャーン・シャーヒド)を仲間に引き入れる。ムジタバー大佐は有能な軍人だったが、家族にラマルを殺され引退していたのだった。ムジタバー少佐はラマルに復讐するため、CTGに加わる。

 折しも、ダムを建設しパーキスターンの電力不足を解消する夢の実現に向かって動いていた政治家エジャーズ・カーン(アリー・アズマト)とその妻が何者かに殺される。ムジタバー少佐はラマルの仕業だと直感する。実はエジャーズはインドの諜報部員ラクシュミー(ミーシャー・シャフィー)と愛人関係にあった。ラクシュミーはゾーヤーを名乗りエジャーズに近づいていた。だが、エジャーズは政治の道に集中するため、ラクシュミーとの関係を清算する。ラクシュミーはラマルにエジャーズを暗殺させたのだった。

 ラクシュミーは、陽動作戦としてテロリストに警察学校を襲撃させる。80人以上の警察官が殺害されるが、2人のテロリストが捕まる。ムジタバー少佐は彼らを尋問し、彼らの裏にターリバーンの長ムッラー・スィラージがいることを突き止める。スィラージは最近、パーキスターン軍との和平を提案した父親マウラーナーを殺し、ターリバーンのリーダーになっていた。

 ムジタバー少佐と、CTGの警察官エヘテシャーム・カッタク(ハムザ・アリー・アッバースィー)たちは、スィラージのアジトを急襲する。スィラージの殺害には成功するが、ラマルは傍に止まっていたトラックに強力な爆弾を仕掛けていた。エヘテシャームは仲間の命を救うためにそのトラックを遠くへ移動させ、自らは爆発に巻き込まれて死ぬ。

 もうひとつの爆弾はイスラーマーバードのジンナー・コンベンションセンターに仕掛けられていた。ムジタバー少佐と、エヘテシャームの妹でCTGの分析官ジャヴェーリヤー(アーイシャー・カーン)は現場に駆けつける。ムジタバー少佐がラマルと決闘を繰り広げている間、ジャヴェーリヤーは爆弾を解除する。ムジタバー少佐はラマルを殺し、復讐を果たす。そして、パーキスターンをテロの危機から救う。ラマルを雇っていたラクシュミーも殺される。

 インド映画では、インドの諜報機関RAWが善玉でパーキスターンの諜報機関ISIが悪玉になるが、やはりパーキスターン映画ではISIが善玉でRAWが悪玉になっており、興味深かった。しかも、インド映画ではISIが暗躍してインドでテロを起こさせていることになっているが、この「Waar」では、RAWがパーキスターン国内のテロ組織を支援し、パーキスターンでテロを起こさせていることになっていた。さらに、インド映画ではパーキスターンのテロ組織が標的にするのはインドであるが、この「Waar」では、パーキスターンのテロ組織はパーキスターン政府を敵視していた。国が異なると、この辺りの描写が正反対になる。

 ただし、「Waar」の中では「インド」という国名は一度も出て来なかった。「RAW」という固有名詞は出て来るし、そのRAWのエージェントであるラクシュミーはどう見てもヒンドゥー教徒の名前なので、誰が見てもインドのことを指していると分かるのだが、敢えて国の名指しは避けられていた。これはおそらく、あわよくばインドでも公開しようと計画していたからだと思われる。現に、ほとんどの台詞が英語のこの映画は、英国やオーストラリアを含む世界25ヶ国で上映された。しかしながら、インドで公開されたという情報はない。

 インドにおいてもっとも成功したパーキスターン映画は「Khuda Kay Liye」だ。だが、もしこの「Waar」がインドで公開されていたら、「Khuda Kay Liye」以来の衝撃となっていたことだろう。画面が暗すぎる、音響のバランスが悪いなど、若干の未熟な点は散見されたものの、それらを補って余りあるスケールの大きなアクション映画に仕上がっており、普通に楽しめる。映像的な工夫があるところもあった。たとえばエジャーズが殺されるシーンやエヘテシャームが爆死するシーンなど、じっくり時間を掛けてエモーショナルに描き出していた。緩急の付け方がうまい監督だと感じた。クライマックスのムジタバー少佐とラマルの決闘シーンが実際にジンナー・コンベンションセンターで撮影されていたのも特筆すべきだ。

 「Khuda Kay Liye」で、パーキスターン映画は音楽が意外にいいことも広く認知された。「Waar」の音楽も良かった。アクション映画ということもあって、お気楽なダンスシーンはなかったが、ロック主体の渋い音楽がBGMとして使われ、映画を盛り上げていた。この辺りの趣向がインド映画とは異なる点も面白い。

 映画中、警察学校がテロリストに襲撃されるシーンがあった。これは、2009年3月30日にラホールで発生した警察学校襲撃事件をネタ元にしていると思われる。12人のテロリストが警察学校を襲撃し、8人が殺された。テロリストの内8人は駆けつけた警察のエリート部隊に殺され、4人は生け捕りになった。この事件の首謀者はパーキスターン国内のテロ組織だった。

 「Waar」は、パーキスターン映画のイメージをガラリと変える力のある正統派のアクション娯楽大作である。パーキスターン国内のみならず、国際市場を視野に入れて作られたと見え、ほぼ全編英語で作られている。インド映画ばかり観ているとどうしてもインド寄りの視点になってしまうが、たまにはパーキスターン側からの視点にも触れ、バランスを取る必要がある。そのために最適な映画だ。