Murder 3

4.0
Murder 3
「Murder 3」

 「Murder」(2004年)は、タイのバンコクを舞台にし、不倫と殺人をテーマにした、エロティックなスリラー映画で、当時大ヒットした。音楽も非常に良かった。その続編「Murder 2」(2011年)では、前作とストーリー上のつながりはなく、前作にあったエロスや緊迫感も希薄だったのだが、やはり大ヒットした。そうなるとさらなる続編が作られるのは必然である。

 2013年2月15日公開の「Murder 3」は、「Murder」シリーズの第3作である。プロデューサーがムケーシュ・バットであることは変わりがないが、監督は変遷している。第1作がアヌラーグ・バス、第2作がモーヒト・スーリー、そしてこの第3作がムケーシュ・バットの息子で監督としては新人になるヴィシェーシュ・バットである。

 メインキャストは、ランディープ・フッダー、アディティ・ラーオ・ハイダリー、そしてサラ・ローレン。他に、ラージェーシュ・シュリンガールプレー、カルラー・スィン、バグス・バールガヴァなどが出演している。前2作で主演を務めたイムラーン・ハーシュミーは今回は起用されていない。

 写真家のヴィクラム(ランディープ・フッダー)は、南アフリカ共和国のケープタウンを拠点としていたが、インドでの仕事を得て、恋人のローシュニー(アディティ・ラーオ・ハイダリー)と共にムンバイーの古い邸宅を借りて住み始めた。ヴィクラムはインドで写真家として成功する。

 ところがローシュニーはヴィクラムがスタイリストのニヨーミーと必要以上に近い関係にあることを察知する。大家のフィールズ夫人(カルラー・スィン)に相談すると、彼女はその家の秘密を教えてくれた。その家には秘密部屋があり、家のあちこちをマジックミラーで覗くことができたのである。ローシュニーはヴィクラムの愛を確かめるため、家を出て行く振りをして秘密部屋に入る。ところが、彼女は鍵を外に置いてきてしまい、閉じ込められてしまった。

 家に戻ったヴィクラムは、ローシュニーが家を出て行ってしまったことを知ってショックを受ける。そして警察に捜索願を出す。しかしながら、警察官カビール(ラージェーシュ・シュリンガールプレー)はヴィクラムに疑いを掛ける。ヴィクラムはレストランで飲んだくれていたが、ウェイトレスのニシャー(サラ・ローレン)と親しくなり、彼女を家に連れて来る。そして彼女とセックスをする。秘密部屋に閉じ込められたローシュニーは一部始終を目撃することになった。

 ニシャーはヴィクラムの家に住むようになったが、家に誰かがいると感じるようになる。ローシュニーは必死でニシャーに訴えかけるが、なかなかニシャーは気付かなかった。しかし、あるときニシャーはローシュニーと交信しようとし、ローシュニーはそれに応える。その結果、ニシャーはローシュニーが秘密部屋に閉じ込められていることに勘付くが、ヴィクラムを独り占めしたかった彼女は敢えてローシュニーを助けようとはしなかった。

 実はニシャーはカビールの元恋人だった。ニシャーに未練のあったカビールは、ヴィクラムと恋仲になったニシャーに忠告するため、彼がニヨーミーと不倫関係にある証拠写真を彼女に渡す。ニシャーはヴィクラムの不倫をローシュニーに伝えるため、秘密部屋を開けるが、待ち構えていたローシュニーに襲われ、今度はニシャーが秘密部屋に閉じ込められてしまう。

 ローシュニーはヴィクラムを捨ててケープタウンに戻る。その後、ヴィクラムとニシャーがどうなったかは分からない。

 コロンビア映画「ヒドゥン・フェイス」(2011年)のリメイクであり、原作を忠実になぞっている。よって、インド映画らしさはほとんどない。映画中では舞台がケープタウンからムンバイーに移り、最後にまたケープタウンに移動しているが、実際にはほぼ全編がケープタウンで撮影されたようである。

 恋人の愛を確かめようと思って誤って秘密部屋に閉じ込められてしまった女性が、自分の恋人の情事を見せられることになり、しかも自分の恋敵に助けを求めることになるという筋書きである。「Murder」にあった不倫、殺人、エロスが揃っており、「Murder」シリーズを名乗るのにふさわしい作品だ。さらに、ホラー映画の要素も加わっていて、娯楽映画として完成されていた。ただ、それは第一に原作が優れていたためであろう。

 もし「Murder 3」の中に唯一インドの文脈を見出せるとしたら、それはローシュニーが秘密部屋で見つけた新聞記事だ。革命家ウダム・スィンが、ジャリヤーンワーラー庭園大量虐殺事件の責任者であるマイケル・オダイヤーを暗殺したニュースが報じられていた。1940年の出来事だった。インドにおいて反英運動が激化した頃であり、この邸宅のオーナーはインド人による襲撃を怖れて秘密部屋をこしらえたという設定になっていた。

 アディティ・ラーオ・ハイダリーは美女の多いヒンディー語映画界においても一二を争う美女であり、しかも物憂げな瞳や華奢な身体がこの映画の雰囲気にピッタリだった。相手役のランディープ・フッダーも影のある演技が得意な男優である。また、サラ・ローレンはパーキスターン人女優で、過去にヒンディー語映画「Karjaare」(2010年)に出演していた。「Murder」シリーズの売りであるエロティックなシーンにも果敢に挑んでいた。

 「Murder 3」は、ムケーシュ・バットがプロデュースする「Murder」シリーズの第3作である。第1作の特徴だった不倫、殺人、エロスが揃っており、しかもホラー要素もあって、思わず画面に釘付けになってしまうスリリングな映画だ。ただし、前2作ほどは興行的に成功しなかったようである。スターパワーの不足が響いたかもしれないが、出来は決して悪くない。