Deiva Thirumagal (Tamil)

2.5
Deiva Thirumagal
「Deiva Thirumagal」

 2011年7月15日公開のタミル語映画「Deiva Thirumagal(神様の娘)」は、知的障害によって6歳児の知能しかない成人男性が行方不明になった5歳の娘を探すという物語である。米映画「アイ・アム・サム」(2001年)の翻案とされるが、ヴィジャイ監督は否定している。日本では「神さまがくれた娘」の邦題と共に2014年2月15日に公開された。タミル語オリジナル版では上映時間は166分だが、日本公開版は149分に短縮されている。日本で発売されたDVDで鑑賞したため、残念ながら短縮版を観ての感想になる。

 監督は前述の通りヴィジャイ。主演はヴィクラム。他に、子役サーラー・アルジュン、アヌシュカー・シェッティー、ナーサル、アマラー・ポール、サチン・ケーデーカルなどが出演している。

 舞台はチェンナイ。弁護士のアヌラーダー(アヌシュカー・シェッティー)は、ニラー(サーラー・アルジュン)という名の5歳の娘を探す知的障害を持った成人男性クリシュナ(ヴィクラム)の弁護士を務めることになる。ニラーは、大手学校チェーンの経営者ラージェーンドラン(サチン・ケーデーカル)の家にいることが分かる。

 クリシュナは、ウーティーのチョコレート工場で働いており、妻のバーヌとの間にニラーという娘をもうけた。だが、バーヌが死んだ後は彼が一人でニラーを育てていた。バーヌはラージェーンドランの長女で、クリシュナとの結婚を反対されたため、駆け落ち結婚していた。ラージェーンドランの娘シュエーター(アマラー・ポール)がクリシュナとニラーを見つけ、父親を呼ぶ。ラージェーンドランはクリシュナをチェンナイの道端に置き去りにし、ニラーを連れて行ってしまう。

 アヌラーダーはラージェーンドランに対し訴訟を起こす。ラージェーンドランはそれに対抗してベテラン弁護士のバーシャムを雇う。知的障害者は保護者になることができないため、アヌラーダーにとって不利な裁判だった。だが、アヌラーダーは、クリシュナは健常者だと嘘を言って、何とか裁判に勝とうとする。

 バーシャムはクリシュナを法廷に呼んで決着を付けようとする。アヌラーダーが彼を必死で隠そうとするため、クリシュナを誘拐してまで法廷に引っ張り出す。だが、バーシャムはクリシュナの心優しさや娘を思う気持ちに心を打たれていた。裁判の場でバーシャムはわざと負け、クリシュナとニラーが同居する道を作る。しかしながら、クリシュナは、自分と一緒にいたらニラーは夢である医者にはなれないと感じ、ニラーをシュエーターに託す。

 観ていて編集が非常に粗雑な印象を受けた。物語が急に飛んでいたり、不自然なカットがあったりした。だが、日本公開用に短縮されたバージョンを観てしまったため、もしかしたらその粗雑さはヴィジャイ監督の意図するところではなかったかもしれない。映画の質を維持しつつ適宜ハサミが入っていればいいのだが、せっかく日本で公開するのに、こんな雑な編集の仕方をしたら、日本の観客の評価が下がってしまうだろう。

 クリシュナとバーヌが出会い、恋に落ちて、駆け落ちするまでのサイドストーリーは、言葉で語られるだけだった。だが、知的障害のあるクリシュナとの結婚を選んだバーヌの物語は、クリシュナとニラーの物語に勝るとも劣らない波瀾万丈のものになったはずで、これを映像で語らないのにも疑問を感じた。もしかしたらこれも日本公開版でカットされた部分なのかもしれない。

 クリシュナとニラーの関係はとても微笑ましいものなのだが、弁護士アヌラーダーは法廷で嘘を付いてまで裁判に勝とうとしており、倫理的に認められるものではなかった。コメディータッチの映画ならばまだしも、感動作としての作りになっている「Deiva Thirumagal」においては、善玉の方がチープな手段を採っている点で感情的に距離を感じた。このような強引なストーリーは、ヒンディー語映画ではあまり見掛けなくなったものである。

 結末にも疑問を感じた。アヌラーダーが苦労して勝訴し、ニラーをクリシュナの元に取り返すが、クリシュナは自らニラーをシュエーターに託してしまう。その理由は、自分が育てていたのではニラーは医者になれないというものであった。だが、このエンディングはニラーの意思を全く無視したものである上に、クリシュナとニラーが一緒に住みながら彼女を医者にするための教育を施す道はいくらでも考えられたはずで、全く納得できないものだった。今までこれだけの時間を費やして映画を見せてきて、こんな結末はないだろう。

 主演のヴィジャイは、身振り手振りや台詞回しを駆使して、知的障害者を精いっぱい演じていたが、ヴィジャイの外見があまりに健康的で、とても知的障害者には見えない。ヒロイン扱いになるのはアヌシュカー・シェッティーとアマラー・ポールの2人であるが、彼女たちに大きな見せ場はなかった。むしろ、ニラーを演じた子役サーラー・アルジュンがとても良く、全体的にアンバランスなこの映画の中で救いになっていた。ベテラン俳優ナーサルは相変わらず貫禄の演技を見せている。また、ヒンディー語映画界で活躍するサチン・ケーデーカルがタミル語映画に出演していて驚いた。

 「Deiva Thirumagal」は、日本で劇場一般公開されたタミル語映画であるが、原作よりも17分ほど短い短縮版になっており、しかも非常に粗雑な編集が目立った。それが原作のものなのか短縮版のものなのか検証していないが、どちらにしろとても残念であった。結末の弱さをはじめ、チグハグな作りの映画であるため、せっかくの感動作が感動作になりきれずに終わってしまっている。