Do Dooni Chaar

3.5
Do Dooni Chaar
「Do Dooni Chaar」

 2010年10月8日公開の「Do Dooni Chaar」は、デリー在住の下位中産階級家庭が自動車を買う顛末を描いたドタバタ劇である。題名の「Do Dooni Chaar」とは「2×2=4」という意味で、スクーター(二輪車)から四輪車に乗り物をグレードアップしようとする様子を表していると同時に、主人公が数学の教師であることも掛けている。

 監督は新人のハビーブ・ファイサル。キャストは、リシ・カプール、ニートゥー・スィン、アディティ・ヴァースデーヴ、アルチト・クリシュナ、アキレーンドラ・ミシュラー、スプリヤー・シュクラーなどである。

 舞台はデリー。数学教師のサントーシュ・ドゥッガル(リシ・カプール)は、妻のクスム(ニートゥー・スィン)、長女のパーヤル(アディティ・ヴァースデーヴ)、長男のサンディープ(アルチト・クリシュナ)と共に暮らしていた。サントーシュの収入は高くなく、スクーターで通勤していた。パーヤルは自動車が欲しいと思っていた。サンディープは、闇賭博に関与して密かに小遣いを稼いでいた。

 メーラトに住む、サントーシュの妹ウルミー(スプリヤー・シュクラー)の家で結婚式があり、ウルミーはサントーシュに、見栄を張って自動車で来るように言う。サントーシュは隣人のファールーキー(アキレーンドラ・ミシュラー)から自動車を借りてメーラトまで行くが、その自動車を傷付けてしまい、彼の妻と口論になる。カッとなったサントーシュは、15日以内に自動車を買うと宣言してしまう。

 サントーシュはローンで自動車を手に入れようとするが、頭金が必要だった。そこで、点数を金で買おうとする学生と連絡を取って金を受け取ろうとする。だが、そこで偶然、教え子に会い、感謝される。考え直したサントーシュは金を受け取るのを拒否する。だが、その祖父からサントーシュはいい教師だと認められ、駄目な孫の家庭教師を頼まれる。1年間の家庭教師代を前払いで払ってもらえたおかげでサントーシュは自動車を買うことができた。

 4人家族のドゥッガル家は典型的なパンジャービー一家で、皆が自己主張を止めず、とにかく毎日家の中は騒々しい。細かい口喧嘩が絶えないが、それでも仲の良さが伝わってくるため、家族のやり取りを眺めているだけで微笑ましい気持ちになる。マイカーはインドにおいて小市民の夢であり、低所得の教師の身分ではなかなか実現できない夢だったが、一家が力を合わせてスクーターから自動車にアップグレードしようとする様子は、経済成長するインドの今を垣間見せてくれる。

 ただ、日本人の観点からすると驚くことも多い。まず何といっても衝撃的なのは、点数を金で買おうとする生徒がいることであり、それに乗ろうとしてしまう教師がいることである。これは決して荒唐無稽な話ではないだろう。インドならさもありなん、である。主人公のサントーシュは真面目な教師であったが、15日以内に自動車を買うと宣言してしまった手前、プライドのために普段のモットーを曲げる必要性が出て来てしまった。

 何としてでも自動車を手に入れるため、販促キャンペーンの賞品が自動車に設定された洗剤を買いまくるという展開にも腰を抜かしてしまう。数学の教師が大真面目にそんなことをするのは信じられない。結局、ひとつも当たらず、無駄遣いしただけだった。

 家族が金に困窮していた一方で、長男のサンディープだけは闇賭博で金を儲けていた。その元締めが警察に逮捕されたことでサンディープは自分も捕まるのではないかと怯え出すが、サントーシュは彼の儲けた金を全て乞食などにあげてしまい、それで一件落着とする。その解決方法もかなり斜め上である。いくら金に困っているとはいえ、正当な方法で手にしていない金は使わないという清廉潔白さの現れとも取れるが、後に生徒に点数を売ろうとしたところを見ると、サンディープの金を使ってしまわなかったことに疑問が残る。

 以上のように、サントーシュが中盤に、自動車を手に入れるために取った行動の数々には疑問符が多いのだが、とにかくドゥッガル家の和気藹々とした雰囲気が見ていて気持ちよく、それがこの映画を救っていた。そうでなければ支離滅裂な映画になっていた恐れがある。

 自動車を買うという一大イベントをコメディータッチで描いた映画であったが、この映画がもっとも訴えたかったのは、教師という職業の素晴らしさであろう。必ずしも収入は高くないものの、真摯に生徒と向き合う教師は、教え子たちからいつまでも慕われ、尊敬される。時には入り用になって間違った方法で金を手にしようとしてしまうこともあるかもしれないが、そんなとき、教え子の存在が教師を正しい道に引き戻してくれる。教師の生き甲斐みたいなものがよく表現された映画であった。

 リシ・カプールとニートゥー・スィンは実の夫婦であり、息はピッタリだ。二人はランビール・カプールの両親でもある。カプール家の毎日も、このドゥッガル家みたいにドタバタしているのだろうかと想像してしまう。サンディープを演じたアルチト・クリシュナは弱かったが、パーヤルを演じたアディティ・ヴァースデーヴは新人ながらとてもパワフルな演技を見せており、強い印象を残した。

 「Do Dooni Chaar」は、下位中産階級の数学教師が、乗り物をスクーターから自動車にアップグレードしようと奮闘するコメディー映画である。中盤は少し方向性を失うが、全体としては教師の生き甲斐がよく表現されていて、家族の仲の良さも微笑ましく、観て損はない映画に仕上がっている。