Agyaat

1.5

 インド映画界の風雲児ラーム・ゴーパール・ヴァルマー。インドの典型的娯楽映画のスタイルを嫌い、海外の様々な映画から着想を得た、斬新な映画をプロデュース・監督し続けて来ている。インド映画の中では、カメラワークに強力な主張を持たせている数少ない監督でもある。しかし、あまりにへそ曲がりな創作スタイルであるため、彼の映画は当たり外れが大きい。本日(2009年8月7日)より公開のホラー映画「Agyaat」も、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督作品の中では外れの部類に入ると言っていいだろう。

監督:ラーム・ゴーパール・ヴァルマー
制作:ロニー・スクリューワーラー、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー
音楽:バーピー・トゥトゥル、イムラーン・ヴィクラム
歌詞:プラシャーント・パーンデーイ、サンディープ・スィン、サリーム・モーミン
振付:ヴョーマー・カヴディーカル
出演:ニティン・クマール・レッディー、プリヤンカー・コーターリー、ガウタム・ローデー、ラスィカー・ドゥッガル、ハワード・ローゼマイヤー、ラヴィ・カーレー、イシュラト・アリー、イシュテヤーク・カーン、カーリー・プラサード、ジョイ・フェルナンデス
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 助監督のスジャート(ニティン・クマール・レッディー)は、密かに人気女優アーシャー(プリヤンカー・コーターリー)に憧れていた。彼のアシスタント、サミーラー(ラスィカー・ドゥッガル)はスジャートに片思いしていたが、スジャートがアーシャーに憧れていることも知っており、彼を応援していた。

 ある日、スジャートはアーシャー主演の映画撮影に参加することが決まる。プロデューサーはムールティ(イシュラト・アリー)、監督はJJ(ハワード・ローゼマイヤー)、主演男優はシャルマン・カプール(ガウタム・ローデー)、アクション監督はラッカー(ラヴィ・カーレー)、撮影監督はシャッキー(カーリー・プラサード)であった。彼らは、ジャングルの奥地でロケを行うことになった。

 シャルマンは傲慢な男で、小間使いのラクシュマン(イシュテヤーク・カーン)をこき使っていた。彼はロクな宿泊施設もないジャングルに滞在することを拒否するが、アーシャーになだめられる。ラッカーはシャルマンを馬鹿にしており、撮影中に喧嘩にもなるが、周囲の人々の仲裁によって何とか事なきをえる。アーシャーが風呂場で何者かに盗撮されるという不気味な事件を起きる。このように何かと撮影は順調に進んでいなかった。

 そんな中、突然カメラが故障してしまう。修理には数日を要した。森林の案内役であるセートゥー(ジョイ・フェルナンデス)は、その間にキャンプをすることを提案する。ロケ隊はセートゥーのガイドによってさらにジャングルの奥地へ入って行った。

 夜、彼らは空に不気味な星を見る。その後、奇妙な鳴き声も聞く。セートゥーはその正体を確かめに暗闇の中へ入って行くが、帰って来なかった。翌朝残りの人々が捜索してみると、何者かに惨殺されたセートゥーの遺体が見つかった。彼らは動転して逃げ出すが、帰りの道を知っていたのはセートゥーのみであり、ますます迷うことになる。その間に、一人また一人と、謎の死を遂げて行く。

 映画公式ウェブサイトのディレクターズノートの中でラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督は「Agyaat」のインスピレーション源として、「エイリアン」(1979年)、「遊星からの物体X」(1982年)、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)の3作を挙げている。外界から隔離されたグループが一人また一人と殺されて行く様は、上記3作に代表されるホラー映画に共通の特徴で、それらを大いに参考にしたことは嘘ではないだろう。だが、「Agyaat」を見てまず思い付くのは他でもない「プレデター」(1987年)である。もし過去の名作ホラー映画に敬意を払うならば、ジャングルの中で透明な宇宙人と戦う「プレデター」の名を挙げずして、それは完結しないであろう。

 劇中で、主人公らを襲う「謎の生物」の正体は明かされない。透明で目に見えず、とてつもない力で人間を引きずったり、ものすごいスピードで地中を這って人間を地面の中に引きずり込んだりする。水が苦手だという特徴も明らかにされるが、それ以上のことは分からない。一応登場人物の間でのやり取りの中では、殺人鬼は夜に見た不気味な星と関連しており、宇宙からやって来た宇宙人なのではないか、と言う説と、この地球上にはまだ人間に知られていない未知の生物が存在するはずで、殺人鬼はそのひとつだろうという説と、お化けか何かという説が紹介されていた。だが、2時間弱の映画の中で、観客はその生物の姿を見ることはないし、正体の種明かしもされない。挙げ句の果てに「Coming Soon Agyaat 2」というテロップが出て終了となる。このままシリーズ化して行くつもりなのか?ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督は観客をなめているのか?最近「○部作」を銘打った映画が多いが、あくまで映画という媒体は一話完結が基本であって、このように謎を残したまま、作られるかどうか分からない続編に持ち越すような作り方はいい加減としか言いようがない。エンディングを考えずに撮影を始めてしまい、結局いいまとめ方が思い付かなかったために、このようにお茶を濁したのではないかと勘ぐってしまう。

 ちなみに、あらすじでは敢えてエンディングに触れなかったが、ジャングルに迷い込んだ10人のパーティーの中で生き残るのは2人のみである。また、死んだ人々が皆、「謎の生物」に殺される訳ではないことも追記しておきたい。

 これで肝心のホラーの部分が優れていたらまだ救いようがあったのだが、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の今までのホラー映画と同様に、うるさい効果音で観客を怖がらすという原始的手法に終始しており、日本の名作ホラー映画の足下にも及ばない。

 キャストの中で、ヒンディー語映画界で有名な俳優は皆無である。プリヤンカー・コーターリーぐらいが一部の熱心なヒンディー語映画ファンの記憶に残っているくらいか。彼女は元々ニシャー・コーターリーという芸名を使っていたが、いつ頃からか本名プリヤンカー・コーターリーに戻している。ちょっと恐怖におののきすぎではないか、というオーバーアクティングなシーンもあったが、このような低予算の映画の中で適度なセクシーさを出すには適切な女優だったと言えるだろう。

 主演のニティン・クマール・レッディーはテルグ語映画界の俳優のようである。脇役を演じていた俳優たちは、演技の力や方向に差がありすぎてチグハグな印象を受けた。ムールティを演じたイシュラト・アリーはコメディー気味の怖さを出すために突っ走っていたような感じであったし、JJを演じたハワード・ローゼマイヤーは全く大根役者であった。ラッカーを演じたラヴィ・カーレーがもっとも味のある演技をしていたと言える。

 「Agyaat」は、ヒンディー語の他、タミル語とテルグ語でも同時制作され、公開されている。タミル語版、テルグ語版はまた微妙に違うのかもしれない。少なくとも何人かの俳優のヒンディー語の台詞は棒読みに近くて、映画の雰囲気を損なっていた。

 ロケ地はスリランカの世界遺産シギリヤとその周辺のジャングル。シギリヤにはシギリヤ・ロックと呼ばれる巨岩があり、その中腹に壁画があったり、岩の上に5世紀の宮殿跡が残っていたりする。映画中にもシギリヤ・ロックが出て来たが、さすがに壁画や宮殿跡などは登場しなかった。

 「Agyaat」は、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督が得意とするホラー映画ではあるが、尻切れトンボかつ俳優の演技に統一性のない駄作であり、わざわざ観るに値しない作品である。エンディングで、「『Agyaat 2』へ続く」とされていたが、続編はこのまま作られないのではないかと思う。