Videsh (Canada)

3.0

 インドの恥部を映像化し、問題提起し続けるカナダ在住インド人女性映画監督ディーパー・メヘター。彼女の最新作「Videsh」が2009年3月27日から公開中である。この映画の原作となっているのは、インド演劇界の重鎮ギリーシュ・カールナードがカルナータカ州の民話をもとに書いた戯曲「Nagamandala」である。この戯曲は1997年にカンナダ語で映画化された他、チャンディーガルの劇団ザ・カンパニーの十八番にもなっており、日本公演も行われた。映画自体は、「Heaven on Earth」という題名で2008年に公開されたカナダ映画で、インドで一般公開されるにあたってヒンディー語・パンジャービー語に吹き替えされ、「Videsh」に改名された。

監督:ディーパー・メヘター
制作:ラヴィ・チョープラー、デーヴィッド・ハミルトン
原作:ギリーシュ・カールナード「Nagamandala」
音楽:マイケル・ダンナ
出演:プリーティ・ズィンター、ヴァンシュ・バールドワージ、バリンダル・ジョーハル、ラジンダル・スィン・チーマー、ガウラヴ・スィハン、ギーティカー・シャルマー、オーヴィル・マシエル、ラーマンジト・カウル
備考:PVRセレクト・シティー・ウォークで鑑賞。

 インドのパンジャーブ州で生まれ育ったチャーンド(プリーティ・ズィンター)は、カナダのブランプトンに住むパンジャーブ人家庭に嫁いだ。夫の名前はロッキー(ヴァンシュ・バールドワージ)と言った。ロッキーにはアマン(ラーマンジト・カウル)という名の姉がおり、姉の夫バルデーヴ(ガウラヴ・スィハン)と2人の子供(ギーティカー・シャルマーとオーヴィル・マシエル)や、両親(バリンダル・ジョーハルとラジンダル・スィン・チーマー)とも同居していた。義母はロッキーを溺愛しており、チャーンドに冷たく当たるようになる。また、ロッキーも怒りっぽい性格で、事あるごとにチャーンドに暴力を振るう。チャーンドは実家の母親に電話をして助けを乞おうとするが、それすらも許されなかった。

 チャーンドは義姉の働く工場で働かされることになった。そこでジャマイカ人女性ローザと仲良くなり、彼女から媚薬をもらう。チャーンドは早速牛乳に媚薬を混ぜて夫に飲ませるが、その途端に彼は気を失ってしまう。幸い、ロッキーの命に別状はなかった。チャーンドは日を改めてもう一度彼に媚薬を飲ませようとするが、今度は急に牛乳が沸騰し出す。チャーンドは急いでそれを庭に捨てる。ところがそれを捨てた場所にはコブラの巣があった。ロッキーの家族は度々コブラを目撃するようになる。ロッキーたちは、カナダにコブラが出ることを不審に思いながらも、コブラを退治しようとするが、巣を見つけただけで、殺すことはできなかった。

 その頃からチャーンドは、夫が急に優しくなったり、前のまま暴力夫だったりと、性格が一定しないのに気付く。ある日、体調が優れずに仕事に出掛けなかった日、夫と家にいたはずだが、ロッキーはその日は家にいなかったと主張する。ロッキーは、チャーンドが他の男と家にいたと考え、彼女に暴行を加える。ロッキーはそのことを家族にも言う。

 チャーンドは、潔白を証明するためにナーガ・パリークシャー(蛇の試験)を行うことになる。それは、蛇の巣に手を入れて、噛まれなければ潔白であるというものだった。チャーンドは恐る恐る巣の中に手を入れるが、その瞬間に全てを悟る。今まで優しい夫として目の前に現れていたのは、実は媚薬によってチャーンドに恋したコブラが化けた姿だったのだ。チャーンドはコブラを掴み出す。コブラは決してチャーンドを噛もうとしなかった。

 夫や嫁ぎ先からの愛情を受けられず、結婚生活に幸せを感じられない想像力豊かな女性チャーンドが、現実から逃れるようにシーシュナーグ(蛇王)の物語の中に入り込んで行く。だが、その現実からの逃避は、ジャマイカ人女性からもらった媚薬をきっかけに、現実世界にも影響を与え始める。コブラがチャーンドに恋してしまい、彼女の夫に化けて彼女の前に現れるだけでなく、彼女が求めるような愛情溢れる夫となって彼女を優しく包み込むのである。映画の主軸はこのようなファンタジーであった。

 だが、当然のことながらディーパー・メヘターがそのような安易な映画を作るはずがない。舞台をカナダに置き、単身インドから外国に嫁ぐインド人女性を主人公に据えることで、映画はインド人間の「国際結婚」を巡る社会問題に鋭く切り込んでいた。チャーンドは地元での簡単なお祝いの後、一人でカナダへ渡り、そこで初めて顔を合わせたNRI(在外インド人)の夫と結婚式を挙げる。海外に住むインド人男性は、「海外で生まれ育ったインド人女性は西洋文明に汚染されている」という一方的な考えから、結婚相手を同国内ではなく、インド在住の伝統的なインド人女性の中から探すことがよくあるし、インド在住の家族にとっては、娘をNRIの男性に嫁がせることで、経済的にも助けになるし、あわよくば海外移住へのきっかけにもなる。よって、インド在住インド人とNRIの間の「国際結婚」は両家にとってウィン・ウィンなのである。しかし、その犠牲となるのは他でもない、知らない土地の知らない家族に嫁ぐ女性自身である。嫁ぎ先が温かい家族だったら問題ないが、「Videsh」で描かれているような冷酷な家族だった場合、女性にとってそこは監獄にも等しい。また、劇中で少しだけ触れられていたが、チャーンドの結婚は、彼女の兄弟をカナダで就職させるための政略結婚だった可能性が高い。舞台をカナダにすることで、コブラが場違いな存在になってしまっていたが、逆にそれがチャーンドの念の強さを代弁し、映画の異様さを強調していた。

 最近スクリーンから遠ざかっていたプリーティ・ズィンターであったが、ディーパー・メヘター監督によって今までとは全く違った一面を引き出されており、「Videsh」は彼女にとって大きく飛躍となりそうだ。かつて彼女が売りにしていた健康的はつらつさは、今ではジェネリア、アシン、カトリーナ・カイフ、ディーピカー・パードゥコーン、ソーナム・カプールなどの強力な若手女優の登場のおかげで独占市場ではなくなっており、この方向転換はいつかは行わなければならないものであった。

 夫のロッキー役を演じたヴァンシュ・バールドワージは、元々演劇俳優で、この「Videsh」が映画デビュー作となる。また、姉のアマンを演じたラーマンジト・カウルは、前述の劇団ザ・カンパニーの女優である。

 「Videsh」は、ディーパー・メヘター監督独特の陰鬱さがより暗さを増した作品で、万人向けではない。ファンタジー要素のある作品だが、それはとてもじゃないが明るいものではない。プリーティ・ズィンターのファンにとっては、久々の彼女の主演作であるが、彼女の全く違った演技を見ることになるだろう。