The Great Indian Butterfly

3.0
The Great Indian Butterfly
「The Great Indian Butterfly」

 2007年11月11日に印米芸術評議会映画祭でプレミア上映され、2010年4月2日にインドで劇場一般公開された「The Great Indian Butterfly」は、「グレート・インディアン・バタフライ」という幻の蝶を追い求めて旅をするカップルの物語である。ほぼ全編、台詞は英語で、一部ヒンディー語などが混ざる。ヒングリッシュ映画に分類していいだろう。

 監督はサールタク・ダースグプター。キャストは、アーミル・バシール、サンディヤー・ムリドゥル、コーエル・プリーなどである。

 ムンバイー在住の夫婦、クリシュ・クマール(アーミル・バシール)とミーラー(サンディヤー・ムリドゥル)は、長期休暇を取ってゴアへ旅行する計画を立てていた。しかし、目覚まし時計をセットするのを忘れて飛行機に乗り遅れてしまい、二人は自動車でゴアへ向かう。

 せっかくの休暇だったが、クリシュとミーラーはいつも通り喧嘩ばかりしていた。ミーラーは、クリシュが、かつて同棲していたリザ(コーエル・プリー)と未だに連絡を取り合っていることに不満を抱いていた。また、職場で後輩のプリヤーが上司ボビーに色気を使って自分より出世しようとしていることを知り、さらに気分を悪くする。

 ゴアに着くと、二人は「グレート・インディアン・バタフライ」が生息するというカルディゲス渓谷を探し出すが、見つからなかった。翌朝、ミーラーはクリシュがリザと電話で話しているのを見つけ、離婚の話をしていると思い、ホテルを飛び出してしまう。ミーラーはそのままムンバイー行きの列車に乗り込もうとしたが、乗り遅れてしまう。彼女はそのままゴアに滞在する。一方、クリシュは単身カルディゲス渓谷を探していた。その結果、彼は「グレート・インディアン・バタフライ」を長年探し求めてきた男性と出会い、カルディゲス渓谷と幻の蝶の真実を知る。

 ミーラーはボビーがクビになったと知らされ、ほくそ笑む。ミーラーがリザに電話をすると、彼女から、クリシュが銀行の副頭取の候補になっていることを知らされる。ミーラーはクリシュと連絡を取り、合流する。

 ベルギーの童話「青い鳥」を思わせる内容の映画であった。幻の蝶を探し求める不仲のカップルが、ゴア旅行を経て様々な体験をする中で、最後に幸せは自分たちの中にあると気付くという筋書きである。

 ありがちな童話を大人向けにスパイスの効いた物語に変えるため、特にミーラーの心理状態に焦点を置き、カットバックを多用して、彼女の精神不安定を描写していた。ミーラーの心理には主に3つの不安要素があった。ひとつは夫クリシュとの不仲である。クリシュは自分といるときに幸せそうに見えず、それが彼女を不安がらせた。夫は元恋人リザと未だに縁を切っておらず、いずれ彼女の方へ行ってしまうのではないかと怯えていた。もうひとつは職場のゴタゴタである。ミーラーが務める職場は出世競争が激しく、最近は後輩のプリヤーが色気で上司に取り入って、ミーラーを出し抜いて出世しようとしていた。最後のひとつは、子供である。クリシュとミーラーは長く夫婦生活を送っていたが、子供がいなかった。既にセックスレスになっており、すぐに子供ができる予定もなかった。だが、実は過去にミーラーは妊娠したこともあった。そのとき彼女はキャリアを最優先に考え、堕胎してしまった。それが今になってトラウマになって彼女に襲い掛かっているのである。

 久々に休暇を取ってゴアに羽を伸ばしにきた二人だったが、クリシュがリザと電話で話しているのを聞き、ミーラーは逆上する。会話の内容から、リザがクリシュに、彼女との離婚を急かしているのだと勘違いし、ホテルを出て行ってしまう。だが、後から、実はリザはクリシュにいい転職先を紹介していただけだったということが分かる。

 結局、幸せとは気の持ちようであった。ミーラーは、今回のゴア旅行で直面した一連の出来事からそれを悟る。それと並行して、単身「グレート・インディアン・バタフライ」を探し求めていたクリシュも、幻の蝶はどこか遠くに存在するものではなく、自分たちの中にあるものだと気付かされる。こうして二人は仲直りし、エンディングを迎える。

 アーミル・バシール、サンディヤー・ムリドゥル、そしてコーエル・プリーが主要な役を演じているが、これは非常に渋いキャスティングである。ヒンディー語のメインストリーム映画では単なる脇役を演じることが多いが、三人ともヒングリッシュ映画や一風変わった映画と縁の深い俳優たちであり、今回の「The Great Indian Butterfly」につながっている。

 英語の台詞の率はとても高く、ほとんど英語映画である。ただ、ここまで英語にしてしまうと、インド人同士の会話としては不自然になる。もう少し現地語の混合率を上げた方が、インド人同士の自然な会話になりやすい。

 「The Great Indian Butterfly」は、童話「青い鳥」に不倫や堕胎などの大人向け要素を混ぜてまとめ上げた、ほぼ全編英語のヒングリッシュ映画である。映像は古めかしく、英語率の高い台詞も不自然だが、文学的、詩的な雰囲気のある映画であり、楽しめる。観て損はない映画である。