2005年10月14日公開の「Koi Aap Sa(誰か、あなたのような)」は、一見何の変哲もない学園ロマンス映画のように見えるが、レイプあり、妊娠ありの、かなりヘビーな内容の映画だ。興行的には全く振るわなかったものの、何の先入観もなしに観てみると、なかなか興味深い作品である。2022年6月29日に鑑賞した。
プロデューサーはエークター・カプールなど。監督は新人のパルトー・ミトラ。キャストはアーフターブ・シヴダーサーニー、ナターシャ、ディーパーンニター・シャルマー、ヒマーンシュ・マリク、ラージェーンドラ・グプター、マノージ・ジョーシー、スシュミター・ムカルジー、ヒマーニー・シヴプリーなど。ヒロインのナターシャは後にアニター・ハッサナンディニーを名乗るようになる。
ローハン(アーフターブ・シヴダーサーニー)は大学のサッカー部のキャプテンで、女子大学で芸術を学ぶプリーティ(ディーパーンニター・シャルマー)に恋をしていた。スィムラン(ナターシャ)はローハンの幼馴染みで、彼のラッキーマスコットだった。スィムランが応援に駆けつけると、必ずローハンのチームは勝利を収めた。 ローハンはスィムランの助言に従ってプリーティとデートをし、彼女と付き合うようになる。だが、プリーティはローハンとスィムランの仲を疑っていた。しかしながら、スィムランにはヴィッキー(ヒマーンシュ・マリク)という米国在住の許嫁がいた。ヴィッキーがインドに戻ってきてプリーティとも会ったことで、彼女もローハンとスィムランは単なる友人関係だと信じるようになる。 ところが、ヴィッキーが米国に帰った後、ローハンの親友ランジートがスィムランをレイプする。ローハンはランジートを追い掛けるが、彼は交通事故に遭って死んでしまう。レイプされたスィムランは落ち込むが、ローハンはプリーティそっちのけで必死に彼女を慰める。スィムランが事故に遭って入院したことから、彼女の妊娠が発覚する。ちょうど米国から帰ってきたヴィッキーは、スィムランのお腹にいる子供の父親はローハンだと勘違いし、スィムランを捨てて米国に去って行ってしまう。 スィムランの妊娠は大学でも噂になり、その父親はローハンだと信じられていた。ローハンはスィムランを助けるため、皆の前でスィムランの子供の父親は自分だと宣言する。そしてローハンはスィムランを一生支えると誓う。スィムランの両親も二人の結婚を認め、婚約式が行われる。当然、プリーティはローハンの元を去って行く。 もうすぐスィムランが臨月を迎えるというときになってヴィッキーがまたインドに戻って来て、彼女とよりを戻そうとする。スィムランは、ローハンがプリーティを今でも愛していると知っており、ヴィッキーと結婚しようとする振りをする。だが、プリーティもローハンがスィムランを愛していると知っており、彼女にそれを話す。サッカーの試合中、スィムランは産気づく。ローハンは試合を放り出して彼女を病院に担ぎ込む。元気な女の子が生まれた。スィムランはその子の父親をヴィッキーではなくローハンだと指名する。
レイプと妊娠という物語の転機がショッキングすぎて他がかすむが、冷静にストーリーを眺め渡してみると、友情と愛情の対立を軸に紡ぎ出した心温まるロマンス映画になっていた。インドのロマンス映画はとかく一目惚れで恋愛が始まるが、この「Koi Aap Sa」では、友情から育まれる恋愛が丁寧に描かれていた。
ローハンとスィムランは8歳の頃からの幼馴染みで、大の親友だった。周囲の友人たちは、二人の間に何かがあると勘ぐっていたが、当の本人たちはお互いに全く恋愛感情を抱いていなかった。スィムランにはヴィッキーという許嫁がいたし、ローハンはプリーティに恋していた。スィムランはローハンとプリーティの恋のキューピッドになったくらいだった。
だが、スィムランがヴィッキーの親友ランジートにレイプされ、身籠もってしまったことで、物語は重大な転機を迎える。ヴィッキーは、ランジートがスィムランをレイプしたなど信じられず、それはローハンの子供だと信じ込む。ローハンは落ち込むスィムランを必死で支えるが、二人の絆はローハンとプリーティの関係を悪化させた。遂にローハンは、スィムランの名誉を守るため、スィムランの子供の父親は自分だと嘘を付く。そしてスィムランと結婚しようとする。
このときローハンがスィムランに投げ掛けた台詞が印象的だった。「困ったときに一緒にいてくれない恋人よりも、困ったときに一緒にいてくれる友人の方がマシだ。」ヴィッキーもプリーティも、恋人が困窮しているときに無条件で支えるという行動が取れなかった。だが、ローハンは自分を犠牲にしてまでスィムランを助けようとする。二人は、友情を愛情に昇華させ、結婚することを決める。
主要キャラはローハン、スィムラン、プリーティの3人だが、どちらかといえば女性キャラ2人の心情描写が優れており、女性の共感を呼びやすい映画なのではないかと感じた。ローハンと付き合い出したプリーティがスィムランを邪魔者扱いする気持ちはよく分かるし、レイプ犯に身籠もらされたスィムランが2人の男性から父親候補を選ぶ立場になるラストは、女性側に非常に都合のいい終わり方だった。
優男のイメージが強いアーフターブ・シヴダーサーニーが演じたからであろうが、ローハンのキャラはチグハグに感じた。大学のサッカー部のキャプテンというプロフィールであり、本来ならばモテモテのはずだが、実際には相当奥手であり、女性の扱い方も慣れていない。二枚目役と見せ掛けて二枚目半というギャップが気になったが、キュートさは存分に出ていた。
音楽はヒメーシュ・レーシャミヤーだが、名曲と呼べるものは皆無である。1990年代のヒンディー語映画を思わせる古風な楽曲の数々であった。
「Koi Aap Sa」は、幼馴染みで親友の関係にある主人公の男女が、レイプや妊娠といったヘビーな事件をくぐり抜けて、お互いを愛するようになり、結婚に至るという波瀾万丈のロマンス映画である。興行的には大失敗だが、正当な評価とはいえない。「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)を先取ったようなプロットであり、十分に観るべきものがある。過小評価されている映画の一本である。