Shabnam Mausi

3.0
Shabnam Mousi
「Shabnam Mousi」

 インドには「हिजड़ाヒジュラー」とか「किन्नरキンナル」と呼ばれるコミュニティーが存在する。表向きは両性具有者であるが、実際には大半がトランスジェンダーだとされている。かつては宮廷で宦官を務める者もいたが、現代では生殖を司る異形の生き神として崇拝されると同時に、侮蔑の対象にもなっている。

 2005年5月20日公開の「Shabnam Mausi」は、州議会議員になった実在するヒジュラー、シャブナム・バーノーを半生をベースにフィクションを交えて脚色した伝記映画である。タイトルは「Shabnam Mousi」と綴られることもあるが、どちらでもいいようだ。

 監督はヨーゲーシュ・バーラドワージ。主役シャブナムを演じるのはアーシュトーシュ・ラーナー。他に、ヴィジャイ・ラーズ、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、ムケーシュ・ティワーリー、ラシュミー・デーサーイー、ヴィシュワジート・プラダーン、ヴィヴェーク・シャウクなどが出演している。

 舞台はマディヤ・プラデーシュ州。両性具有者として生まれたシャブナム(アーシュトーシュ・ラーナー)は、ヒジュラーの一団を束ねるアンマー(ヴィシュワジート・プラダーン)がもらい受け、その弟子のハーリマー(ヴィジャイ・ラーズ)が母親代わりに育てる。シャブナムが成長すると、アンマーは彼女に売春をさせようとするが、ハーリマーがそれを止める。アンマーとハーリマーが乱闘する中でハーリマーは死んでしまい、アンマーは濡れ衣をシャブナムに着せる。シャブナムはアンマーの元を去る。

 シャブナムはソーハーグプルに流れ着き、人々から尊敬を集めるようになる。当地の選挙区ではラタン・スィンが4回連続で当選しており、選挙が迫っていた。シャブナムは政治の駆け引きに巻き込まれ、立候補することになる。ラタンは殺し屋マダン・パンディト(ムケーシュ・ティワーリー)を送ってシャブナムを暗殺しようとするが、シャブナムの度胸を見てマダンは一転して彼女を応援し始める。

 ラタンは懲りずに別の殺し屋たちをシャブナムに差し向けるが、マダンが彼らを一網打尽にする。だが、マダンも反撃を受けて死んでしまう。投票日、シャブナムはラタンに勝ち、州議会議員となる。

 シャブナム・バーノーは、ブラーフマン階級に属する警察官の家族に生まれたが、半陰陽だったためにヒジュラーに預けられ、ヒジュラーとして育てられた。インド中を旅行したおかげで、12言語に精通するようになったといわれる。1998年から2003年までマディヤ・プラデーシュ州ソーハーグプル選挙区選出の州議会議員として活躍し、その後はAIDS活動家として活動している。「マウスィー」とは「おばさん」という意味で、シャブナムの愛称である。

 「Shabnam Mausi」は、伝記映画とはいいながら、後半は主役のシャブナムよりも、改心した殺し屋マダンの方に焦点が移り、大衆に迎合した、ほぼ完全フィクションのアクション映画と化す。選挙に出馬したシャブナムの勝利も予想通りの展開で意外性がなく、しかも彼女が勝った理由が丁寧に説明されていたわけではない。プロフェッショナルな作りの映画ではなく、編集が荒い部分も多い。

 しかしながら、前半は、ほとんどの人にとって未知の存在であるヒジュラーがどういうものなのかをかなり事細かに描写しており非常に興味深い。ヒジュラーは子供が生まれた家庭に祝福を与えに訪れるが、そこで子供が半陰陽であることが分かると、「我々の家族の者だ」と言って連れ去っていってしまう。ヒジュラーは子供を生むことができないため、こうやって一般家庭に生まれた半陰陽の子供を連れ去って家系を存続させているのである。

 また、ヒジュラーの普段の仕事は市場の店などからみかじめ料を取って回ることである。結婚式などの慶事があると、そこに押しかけて歌ったり踊ったりし、やはりお捻りをいただく。堕落したヒジュラーになると、身体を売って金を稼ぐ。ヒジュラーを好む性癖を持った男性たちもいるのである。

 劇中でシャブナムが一人前のヒジュラーになるときに「結婚」をしていたが、結婚相手はおそらくイラヴァーンと呼ばれる神である。タミル・ナードゥ州のクーヴァガムという街でイラヴァーンを祀る大規模な祭りが行われ、ヒジュラーたちが集う。また、ヒジュラーたちが「ムルガー・マーター(鶏の女神)」を信仰していたが、これはグジャラート州ベーチャラージーにあるバフチャラー女神寺院で祀られている女神のことだ。やはりヒジュラーから信仰を集めている。

 ヒジュラーのことを理解する手助けになる教材的な映画であると同時に、主役シャブナムを演じたアーシュトーシュ・ラーナーや、シャブナムの育ての母親となったハーリマー役のヴィジャイ・ラーズなど、俳優たちの好演も目立つ映画だった。

 「Shabnam Mausi」は、実在するヒジュラー政治家シャブナム・バーノーの伝記映画という立て付けではあるが、実際にはかなりフィクションが入っており、後半はほとんどシャブナムとは関係ないアクション映画と化す。ただ、ヒジュラーの生態がよく映像化されており、ヒジュラーのことを知ろうと思った際にはいい素材となる作品である。