Kiss Kis Ko

2.5
Kiss Kis Ko
「Kiss Kis Ko」

 インドの音楽シーンは映画音楽に支配されており、ヒット曲の大半はヒット映画から生まれる。だが、1990年代からMTVやChannel Vといった音楽チャンネルの勃興に伴い、「インディーポップ」と総称される独立系ミュージシャン群が現れ、映画音楽以外の音楽シーンが開拓され始めた。バーバー・セーガル、アリーシャー・チナイ、ラッキー・アリーなどのシンガーたちや、ユーフォリアやコロニアル・カズンズなどのバンドなどが代表的だ。そして2000年代になるといくつかの「アイドルグループ」が誕生し、注目を集めるようになった。

 「ア・バンド・オブ・ボーイズ(A Band of Boys)」は、米国のバックストリート・ボーイズやアイルランドのボーイゾーンなどに影響されて結成された男性5人組のアイドルグループで、2001年にオーディションによって選ばれた男性5人で構成されている。メンバーは以下の通りである。

  • カラン・オベロイ
  • シェリン・ヴァルギーズ
  • チントゥー・ボースレー
  • スダーンシュ・パーンデーイ
  • スィッダールト・ハルディープル

 この内、リーダー格はカランである。また、チントゥーは著名なプレイバックシンガー、アーシャー・ボースレーの孫だ。2000年代前半には非常に人気のあったグループであった。

 2004年10月29日公開の「Kiss Kis Ko」は、ア・バンド・オブ・ボーイズのメンバーたちを主人公にした映画であり、インドでは非常に珍しい試みだ。ビートルズの「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」(1964年)や「ヘルプ!4人はアイドル」(1965年)の手法を真似たプロモーションの一種だと思われる。ちなみに、この頃のア・バンド・オブ・ボーイズは人気絶頂期にあった。監督はシャラド・シャラン。音楽は、ア・バンド・オブ・ボーイズの産みの親の一人、コロニアル・カズンズのレスリー・ルイスやメンバー自身によって作曲されている。

 キャストは、ア・バンド・オブ・ボーイズのメンバーに加え、ブーミカー・プリー、アパルナー・クメーシュ、ラージ・ズトシー、アリー・カーン、シュレーヤス・ダースなどである。

 題名を直訳すると「キスを誰に」という意味になるが、ヒンディー語で書くと「किस किस को」になり、これは「誰と誰に」とも解釈できる。それらを合わせると「誰と誰にキスをするのだろう」といった意味になる。

 この映画の公開時、インドに滞在していたが、何らかの理由で見逃した。2026年6月22日にこの映画を鑑賞し、レビューを書いている。

 ア・バンド・オブ・ボーイズはデビュー前のアイドルグループだった。BD社長(アリー・カーン)は社運を賭けてア・バンド・オブ・ボーイズを売り出していたが、なかなか実を結ばず、副社長のカニカーからはア・バンド・オブ・ボーイズの解散を提案されていた。一方、ライバルのマックス(ラージ・ズトシー)はシャーイラー(アパルナー・クメーシュ)というソロの女性アーティストをセクシーさを前面に押し出して売り出していた。

 スィッダールトは、ディヴィヤー(シュレーヤス・ダース)という女の子からしつこく言い寄られていた。ディヴィヤーから解放されたかったスィッダールトは、バンドの仲間たちの助けを借りて彼女との関係を清算する。バンドの中ではチントゥーだけが女性に奥手で、よく仲間たちからからかわれていた。だが、ある日本屋でリヤー(ブーミカー・プリー)という女性と出会い、恋に落ちる。だが、バレンタインデーのときにスィッダールトが彼女の家に呼ばれて行ってみると、そこにはカラン、シェリン、チントゥー、スダーンシュがいた。実は残りの四人も同時にリヤーを口説いていたのだった。リヤーの家で五人はケンカを始め、追い出されてしまう。

 実は、リヤーはディヴィヤーの友人であり、ディヴィヤーの心をもてあそんだ五人に復讐しようと考え、五人に同時に接近していたのだった。ア・バンド・オブ・ボーイズは、56公演、3,500万ルピーの契約を狙っていたが、リヤーを巡ってバンドの人間関係に亀裂が生じ、イベント会社を経営するバールガヴァの前で最悪のステージパフォーマンスをしてしまう。この契約はシャーイラーに取られそうになる。

 リヤーは五人の将来を閉ざしてしまったことに罪悪感を抱き、一転して彼らの協力し始める。シャーイラーは、歌をライブで歌わせてくれないマックスの方針に反発しており、それをうまく使って、シャーイラーを暴走させる。そのパフォーマンスを見ていたバールガヴァはシャーイラーとの契約を中止する。シャーイラーの公演が失敗したのを好機と見て、ア・バンド・オブ・ボーイズが近くの会場でパフォーマンスを始める。観客は彼らのパフォーマンスを気に入り、バールガヴァもア・バンド・オブ・ボーイズとの契約を決める。

 リヤーは役目を終え、立ち去ろうとするが、スィッダールトが彼女を追い、告白をする。二人は付き合い出す。

 メジャーデビューを切望しながら、場末のディスコなどで知名度獲得のための無料パフォーマンスをして回る男性5人組アイドルグループのサクセスストーリーを描いた作品かと思いきや、物語の大半は色恋沙汰で埋め尽くされている。完全にア・バンド・オブ・ボーイズのファンのための映画であり、一人一人のメンバーについて改めてあまり説明はされていない。少なくとも顔と名前が既に一致していることを前提に物語が進んでいく。

 五人の中で明確な主演は設定されていなかったが、あえて主演級のメンバーを選ぶとすればスィッダールトになる。スィッダールトは女性に奥手という設定であり、彼が意中の人と結ばれるまでが「Kiss Kis Ko」の核になっている。ヒロインのリヤーと実際にキスをするのもスィッダールトのみである。

 映画の中でア・バンド・オブ・ボーイズのライバルになるのが、シャーイラーというソロの女性シンガーである。ア・バンド・オブ・ボーイズのマネージャーを務めるBDは、歌唱力やダンス力などのパフォーマンスによってグループを売り出そうとしていた。一方、シャーイラーのマネージャーであるマックスは、歌などはどうでもよく、とにかく彼女のセクシーな容貌のみで売り出そうとしていた。「近頃は誰も歌を聴いていない。見ているだけだ」というのがマックスの持論であった。

 また、男性のみのアイドルグループというコンセプトがなかなかインドの娯楽業界で理解されなかった。現実世界のア・バンド・オブ・ボーイズ自体がインド初の本格派男性アイドルグループであり、同様の偏見と戦ってきたことがうかがわれる。

 「Kiss Kis Ko」は、ア・バンド・オブ・ボーイズのプロモーションを目的にした映画であり、通常の映画とは評価の観点が異なるだろう。だが、純粋に映画として観たときに大きな問題だと感じたのは、ア・バンド・オブ・ボーイズが成功のために相手を蹴落とす行為をしたことだ。3,500万ルピーの契約を勝ち取るため、シャーイラーの公演を巧妙に妨害し、彼女の成功をかすめ取るという卑劣な行為をしている。リヤーが罪滅ぼしに提案した計画だったとはいえ、ヒーローが採るべき手段ではない。よって、後味の悪さが残った。

 音楽は、シャーイラーをフィーチャーしたPV「Mast Kalandar」を除けば、ア・バンド・オブ・ボーイズらしいポップな曲ばかりだ。冒頭、彼らの登場シーンで披露される「Meri Neend」は、ア・バンド・オブ・ボーイズの実際のデビュー曲である。

 映画の中ではインドを舞台にした物語ということになっているが、実際にロケが行われたのはインドネシアのバリ島である。

 「Kiss Kis Ko」は、インド映画としては珍しく、実在するアイドルグループのプロモーションの一環で作られた、ファンのための映画だ。純粋な映画としては今ひとつだが、インド映画史の中でユニークな位置を占めているといえるだろう。


Kiss Kis Ko Hindi Full Movie | Romantic Comedy Movie | Karan Oberoi, Sherrin Varghese (HD)