Zameen

3.0
Zameen

 21世紀に入り、国際市場を視野に入れた上品な映画作りが主流になったヒンディー語映画界において、ド派手なアクション映画やコテコテのコメディー映画を送り出し続け、独自路線を歩んでいる人気映画監督がローヒト・シェッティーである。2003年9月26日公開の「Zameen(国土)」は、シェッティー監督の記念すべきデビュー作だ。

 当時、インドでは2001年の国会議事堂襲撃事件や2002年のアクシャルダーム寺院襲撃事件など、パーキスターンからの越境テロリストによる事件が相次いでいた。「Zameen」はそんな時代を背景に、インドの軍人と警察が力を合わせてテロリストを打ちのめす痛快アクション映画になっている。2022年9月13日に鑑賞しており、過去を振り返ってのレビューになる。

 主演はアジャイ・デーヴガンとアビシェーク・バッチャン。ヒロインはビパーシャー・バス。他に、パンカジ・ディール、ムケーシュ・ティワーリー、サンジャイ・ミシュラーなどが出演している。また、劇中では使われていないが、アイテムソング「Dilli Ki Sardi」ではエイジャーズ・カーンとアムリター・アローラーがアイテムボーイ/アイテムガール出演している。

 2001年、パーキスターン政府の支援を受けたテロ組織アル・ターヒルのテロリストたちがインドの国会議事堂を襲撃した。それを受けてインド陸軍のランヴィール・スィン・ラーナーワト大佐(アジャイ・デーヴガン)は、アル・ターヒルの首領バーバー・ザヒール・カーン(ムケーシュ・ティワーリー)をジャンムー&カシュミール州で捕獲した。

 一方、ムンバイーではジャイディープ・アフラーワト警部(アビシェーク・バッチャン)が、テロリストの協力者ファリード(サンジャイ・ミシュラー)のガレージを急襲し、インド陸軍から流出した大量の武器を発見する。インド陸軍に裏切り者がいる証拠だった。また、パーキスターンと密通するサンターナム教授は、4人のテロリストを迎え入れ、彼らを空港まで届ける。4人の内1人はジャイディープ警部に殺されるが、3人は買収されたクルーの協力で飛行機内に武器を持ち込み、インディアン・エアライン機をハイジャックする。その飛行機には、ジャイディープ警部の許嫁で客室乗務員のナンディニー(ビパーシャー・バス)も乗っていた。

 ハイジャックされたインディアン・エアライン機はパーキスターン領カシュミール(POK)に降り立つ。テロリストたちはザヒールの釈放を求めた。ジャイディープ警部は交渉役としてPOKを訪れるが、スパイ活動をしていたことがばれ、暴行を受ける。ラーナーワト大佐はザヒールを連れてPOKに降り立つ。だが、コマンドー部隊も連れており、ザヒールを受け渡す前に攻撃を開始した。ラーナーワト大佐とジャイディープ警部は、飛行機が飛び立つまで時間を稼ぎ、ザヒールを殺してPOKを飛び立つ。

 インドにとってもっとも衝撃的なハイジャック事件といえば、1999年のIC814ハイジャック事件であった。カトマンズのトリブヴァン国際空港を飛び立ったデリー行きのインディアン・エアラインIC814は、5人のパーキスターン人テロリストにハイジャックされた。176名の乗客乗員を乗せた飛行機は、アムリトサル、ラホール、ドバイなどを経て、最終的にターリバーン支配下にあるアフガーニスターンのカンダハールに着陸した。そして、テロリストたちは、インドの刑務所に収容されているテロリストたちの釈放を求めた。インド政府は人質の人命を優先してテロリストの要求を呑み、3人のテロリスト、アハマド・オマル・サイード・シェーク、マスード・アズハル、そしてムシュターク・アハマド・ザルガルを釈放した。このとき釈放されたテロリストたちは、その後インドに対して、2001年に国会議事堂事件や2008年のムンバイー同時多発テロなど、多くのテロ攻撃を主導し、インドにとって頭痛の種となった。

 「Zameen」はまず、インドにとって悪夢だったIC814ハイジャック事件を意識した内容になっている。ただし、IC814ハイジャック事件における歯切れの悪い結末とは異なり、ハッピーエンドによって観客を満足させる使命がある「Zameen」では、軍人と警察が力を合わせて人質を救出し、テロリストの釈放も防いでいる。

 ハイジャック事件を軍事的に解決したという点では、1976年にイスラエルが実行したエンテベ空港奇襲事件を想起させる。テルアビブ発パリ行きのエールフランス139便がパレスチナ人テロリストなどにハイジャックされ、ウガンダに行き先変更をさせられた。エンテベ空港に降り立ったハイジャック犯たちは、イスラエルなどの刑務所に収容されているテロリストたちの釈放を求めた。イスラエル政府はハイジャック犯と交渉を続けながら、イスラエル国防軍コマンドー部隊をウガンダに派遣し、隙を見てエンテベ空港を攻撃し、制圧した。人質の大半は無事に救出され、ハイジャック事件を軍事作戦によって解決した成功例として語り継がれることになった。「Zameen」の結末はこちらに近い。

 ローヒト・シェッティー監督の作風は、劇中にいくつか用意されているカーチェイスシーンにその萌芽を見ることができる。車両が面白いように転がったり吹っ飛んだりし、後のシェッティー映画につながる派手な演出を垣間見ることができる。また、クライマックスでは飛行機やヘリコプターを使って撮影しており、デビュー作からスケールが大きい。

 その代わり、登場人物の心情描写には深みはなかった。アジャイ・デーヴガン演じるラーナーワト大佐と、アビシェーク・バッチャン演じるジャイディープ警部に個性がなく、ビパーシャー・バス演じるナンディニーにもこれといった特徴がなかった。

 音楽監督はヒメーシュ・レーシャミヤー。彼の人気は、同年公開されたサルマーン・カーン主演の「Tere Naam」(2003年)あたりから加速し始めており、「Zameen」の頃はまだそれほど有名ではない状態だったと記憶している。「Zameen」の中で、その後の彼の作風をもっとも強く感じさせる曲は「Dilli Ki Sardi」だ。ただ、音楽が特別にいい映画というわけではなかった。

 「Zameen」は、1999年に発生したIC814ハイジャック事件を下敷きにして、パーキスターンからの越境テロリストにインドが果敢に立ち向かう様を描きだした愛国主義的なアクション映画である。後に売れっ子監督となるローヒト・シェッティーのデビュー作という点で一定の価値がある。