Calcutta Mail

2.5
Calcutta Mail
「Calcutta Mail」

 2003年9月5日公開の「Calcutta Mail」を観に行った。数ヶ月前から予告編がTVなどで流れていたのだが、やっと公開となった。PVRアヌパム4で鑑賞した。

 「Calcutta Mail」とは、別に手紙のことではなく、列車の名前である。調べてみたが、このような名前の列車は見当たらなかったので、架空の列車だと思われる。監督はスディール・ミシュラー。主演はアニル・カプール、ラーニー・ムカルジー、マニーシャー・コーイラーラー。メジャーだが渋い俳優が揃っている。

 一人の男がコルカタのハーウラー駅に降り立った。男の名はアヴィナーシュ(アニル・カプール)。アヴィナーシュは下町の安宿に宿泊するが、そこでブルブル(ラーニー・ムカルジー)という小説家志望の女の子と出会う。

 アヴィナーシュはラカン・ヤーダヴという男を躍起になって捜していた。毎日どこかへ出掛けるアヴィナーシュを見て不思議に思ったブルブルは、アヴィナーシュの秘密を探ろうといろいろちょっかいを出す。その内アヴィナーシュは、誘拐された自分の息子を探しにコルカタへ来たことを打ち明かす。しかしラカンの方もアヴィナーシュを殺すために刺客を送り、アヴィナーシュは瀕死の重傷を負ってしまう。

 病床でアヴィナーシュはブルブルに全てを語る。アヴィナーシュは道中偶然にサンジャナー(マニーシャー・コーイラーラー)という女性に出会った。サンジャナーはビハールの有力者スジャーン・スィンの一人娘で、乱暴者のラカン・ヤーダヴと無理矢理結婚させられそうになり、ラカンから逃げていた。アヴィナーシュはサンジャナーを助け、そのまま彼女と結婚して故郷で暮らしていた。二人の間には息子も生まれた。ところが彼らはスジャーン・スィンに見つかり、サンジャナーはラカンに殺害され、息子は誘拐されてしまった。そこでアヴィナーシュは単身コールカーターへ息子を探しにやって来たのだった。

 息子の救出に焦るアヴィナーシュの元に、スジャーン・スィンがコンタクトを取ってくる。スジャーン・スィンも娘を殺したラカンを恨んでおり、またラカンは息子の身代金を要求していた。だからスジャーン・スィンはアヴィナーシュに力を合わせて息子を取り戻そうと提案して来た。

 身代金を用意したアヴィナーシュは、ラカンを駅に呼び寄せる。しかしこれはラカンとスジャーン・スィンが共謀した罠だった。実はサンジャナーを殺したのもスジャーン・スィン自身だった。罠の中を生き残ったアヴィナーシュはスジャーン・スィンの邸宅に忍び込んで息子を取り戻し、またスジャーン・スィンはラカンに殺させて、ラカンも警察に殺させた。こうしてアヴィナーシュは再び息子と共に田舎で暮らし始めた。彼らの元にブルブルも小説を書きにやって来る。

 期待していた割には案外大したことのない作品でガッカリした。なぜ主人公の男はコルカタに来たのか、それが分からない前半は割とサスペンスに満ちていて引き付けられるが、要はマフィアに誘拐された息子の救出劇であり、一般的なインドのアクション映画の王道を行っていた。

 題名の通り、駅や列車が重要な舞台となる映画で、インドの駅の様子や列車の様子が生々しく描かれていたのはよかった。普通のインド映画は案外列車の旅などのシーンを映さないことが多い。移動するときは全部飛行機でビューンと行ってしまうことがほとんどだ。しかしインドの国内移動といったら何といっても列車の旅である。ブルーのシートが並ぶ寝台車がスクリーンに出てくると、無性に旅に出たくなる。

 これまた題名通り、西ベンガル州の州都コルカタも主な舞台になっていた。コルカタといえばベンガリー語の本拠地。この映画はヒンディー語映画ながら、ベンガリー語も少し混じっていた。インド映画のすごいところは、他の言語が出てきても字幕なしでそのままやり過ごしてしまうところだ。ヒンディー語とベンガリー語くらいだったら何とか少しは理解できるくらいの共通性があるようで、観客もベンガリー語を理解して反応していたようだった。ヒンディー語圏の人にとってベンガリー語は、東京弁に対する関西弁ぐらいの違いなのかもしれない。その辺の感覚は日本人の僕には未だによく分からない。ちなみにコールカーター名物のドゥルガー・プージャーもちゃんと映画の隠し味に使われていた。コールカーターの雑踏もよく表現されていたと思う。

 主人公のアヴィナーシュがコルカタで泊まった安宿は、パハールガンジの安宿ナヴラング・ホテルやブライト・ゲストハウスなどを思い起こさせた。僕もインドに来たての頃はあんな宿に泊まっていたなぁと懐かしい気分になった。それにしても1ヶ月500ルピーの宿泊料は安い!何かとインド独特の旅情のある映画だったと思う。

 主演のアニル・カプールは最近ヒット作に恵まれていない。この映画もそんなにヒットはしないだろう。しかもいつからかアニル・カプールは子持ちの男ヤモメ役が多くなってきたように思える。いい俳優だと思うので、もう1、2本くらい大ヒット作に出演しておいてもらいたい。

 マニーシャー・コーイラーラーがいきなり出演していたが、マニ・ラトナム監督の「Bombay」(1995年/邦題:ボンベイ)の頃を思わせるような清楚な雰囲気が漂っており、近年のマニーシャー映画の中では一番印象がよかった。一方のラーニー・ムカルジーは伸び悩んでいる感じがした。ブルブルという役も焦点が定まっていない輪郭のぼけた役で、ちょっと失敗のような気がした。