Pukar (1983)

2.5
Pukar
「Pukar」

 1983年11月18日公開の「Pukar(呼び声)」は、インドのゴア併合を時代背景にした愛国主義的クライム映画である。1947年にインドが英国から独立した後も、インド亜大陸の一部には、ポルトガルやフランスの領土が残っていた。インドはゴアと併合に向けて交渉を行ったがまとまらず、1961年に軍を侵攻させて力尽くでゴアを併合した。当時、ポルトガル領ゴアの中では反体制派の組織がいくつか活動しており、「Pukar」にもそれをモデルにしたと思われるグループが登場する。

 監督はラメーシュ・ベヘル。音楽はRDブルマン。主演はアミターブ・バッチャン、ヒロインはズィーナト・アマーン。他に、ランディール・カプール、ティーナー・ムニーム、プレーム・チョープラー、スディール・ダールヴィー、シュリーラーム・ラーグー、オーム・シヴプリー、チャーンド・ウスマーニー、ピンチュー・カプール、スジート・クマール、ヴィージュー・コーテー、シャラト・サクセーナー、ラーダー・バールタケーなどが出演している。

 2025年7月4日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 ラームダース(アミターブ・バッチャン)の父親ディーナーナート(スディール・ダールヴィー)はポルトガルの支配からゴアを解放するために抵抗運動をする活動家だった。だが、警察に追われ、怪我を負ってしまう。組織のリーダー、プラーンダレー(シュリーラーム・ラーグー)はディーナーナートの願いを聞き入れ、彼を殺す。だが、それを目撃してしまったラームダースはプラーンダレーと抵抗運動を憎悪するようになった。

 ラームダースはロニーを名乗り、成長すると密輸業で財を成して、村人から慕われるようになっていた。ジュリー(ズィーナト・アマーン)という恋人もいた。抵抗運動を毛嫌いしていたロニーは、警察官モンテイロ(プレーム・チョープラー)と組んで、プラーンダレーをおびき出して殺害する。プラーンダレーを慕っていたシェーカル(ランディール・カプール)はプラーンダレーの後を継いで抵抗運動に身を投じる。

 ロニーはシェーカルを追うようになっていた。ロニーが支配する村にシェーカルは潜んだが、村人たちは抵抗運動に従事するシェーカルをかくまった。ジュリーもシェーカルに共感し、彼らの武装蜂起を助けるために武器を横流しするようになる。シェーカルはカーニバルのときに警視総監を暗殺して逮捕される。

 ジュリーの裏切りを知ってショックを受けるロニーだったが、やがてシェーカルの大義に賛同するようになる。シェーカルは絞首刑を言い渡されるが、ロニーはジュリーと共に彼を救出する。そのときインド軍がゴアに向けて進軍を開始した。ロニーとシェーカルは協力して内部から反乱活動を起こし、インド軍を手助けする。ロニーは命を落とすが、彼の活躍により、ゴアにインドの国旗がはためくことになった。

 1947年のインド独立後もポルトガル領のままだったゴアが1961年にインドに併合されたことは歴史的事実だが、「Pukar」が下敷きにしているのはその出来事のみである。それ以外は完全なフィクションだ。歴史上実在する人物が登場するわけでもないし、史実にのっとった解放運動の過程が語られるわけでもない。しかも、全体的にいかにも1980年代の大衆向け娯楽映画といった安っぽい作りであり、アミターブ・バッチャンの人気に乗っかって作られた作品で、映画としての完成度は高くない。ゴアはヒンディー語映画産業の本拠地であるボンベイから近いこともあってよくロケ地になるが、ゴアの解放運動が取り上げられている映画はほとんどない。過去に「Saat Hindustani」(1969年)があったくらいである。そういう点でユニークなところがまず目を引く。

 いくつかのアクションシーンには異常なほど力が入っている。特に空中アクションが見どころであり、飛行機やヘリコプターを飛ばして迫力あるアクションシーンを撮っている。序盤のカーチェイスも、自動車がぶつかり合い、車体がボコボコになりながらも派手に走りまわっていた。アクション監督はアジャイ・デーヴガンの父親ヴィールー・デーヴガンである。

 さらに、ヒンディー語映画界の元祖「セックス・シンボル」ズィーナト・アマーンの色気が加わる。海辺で白い水着を着て悩ましいポーズを取ったり、軽快な踊りを見せたりする。ズィーナトは「Pukar」のときには結婚と離婚を経て円熟期に入っているが、色気は失われていない。また、単なる色気要員ではなく、彼女は主体的に抵抗運動の協力者になり、さらにはロニーを改心へと導く重要な役割を果たす。

 後にリライアンス・グループのアニル・アンバーニーと結婚することになるティーナー・ムニームがシェーカルの許嫁ウーシャー役で出演していたが、彼女の方は伝統的かつ従順なインド人女性像を体現していた。

 1970年代にスターダムを駆け上がったアミターブ・バッチャンは、1980年代には「ワンマン・インダストリー」と揶揄されるほど支配的な人気を誇るようになっており、「Pukar」も彼の人気にあやかって彼を前面に押し出した作品だ。ただ、終盤まで彼は密輸マフィアのドンという悪役的な立場であり、また、幼少時のトラウマから、ポルトガル当局の協力者でもあって、いわばネガティブヒーローであった。ただ、やはり最後にはインドへの愛国主義に目覚め、ゴアの解放に一役買うことになる。

 アミターブの相棒となるのが、名監督かつ名優ラージ・カプールの長男ランディール・カプールである。米国留学を夢見ながら、抵抗運動の指導者プラーンダレーが警察に殺されたことで彼の後継者となり、抵抗運動に身を投じる役で、実は彼の方が正統派ヒーローに近い。

 「Pukar」はゴアのインド併合から20年後に作られた映画であり、いうまでもなくこのときにはゴアはインド領として確定していた。よって、インドの立場から見たらポルトガル領時代のゴアで反体制派だった人々は愛国者であり、ポルトガル当局に協力していた人々は売国奴であった。だが、ポルトガル側から見たら、反体制派こそが売国奴であり、反体制派の撲滅に手を貸す者が愛国者であった。さらによく見てみると、どちらの側も民族的にはインド人であった。つまり、インド人同士がポルトガルの支配を巡って2つのグループに分かれ、自分を「愛国者」、相手を「売国奴」と罵りながら戦っていた。そういうアイロニーを醸し出すのが目的の映画ではなかったと思うが、空しさも感じた。

 映画の背景として見える風景はゴアのものに見えるが、実際にはダマン&ディーウ準州で撮影が行われたようである。ダマンとディーウも元々ポルトガル領で、1961年にゴアと共に解放され、インドに併合された。

 「Pukar」は、ヒンディー語映画としては珍しく、まだポルトガルの支配下にあったゴアを舞台にした映画であり、インドによるゴア併合が結末に置かれている。ただ、史実にのっとった歴史映画ではなく、その歴史的出来事を時代背景にして作り上げられた完全なるフィクション映画である。アクションシーンには格別に力が入っているが、全体的には安っぽい作りであり、21世紀の観客が真面目に観ることのできるような作品とはいえない。


Pukar - Full Movie 4K - Amitabh Bachchan, Zeenat Aman, Randhir Kapoor - 80s BLOCKBUSTER ACTION FILM!