Darwaza

3.5
Darwaza
「Darwaza」

 1978年1月21日公開の「Darwaza(扉)」は、1970年代から80年代にかけてホラー映画の代名詞となったラームセー兄弟による第3作で、「インド初の成功したホラー映画」を銘打っている。第1作「Do Gaz Zameen Ke Neeche」(1972年)と第2作「Andhera」(1975年)には、ホラーシーンはあるものの、結局幽霊の類は登場しなかった。だが、この「Darwaza」には、呪いによって誕生した怪物が登場する。インドにおけるモンスター映画の先駆けといえる。

 監督はトゥルスィー・ラームセーとシャーム・ラームセー。音楽はサパン・ジャグモーハン。キャストは、アニル・ダワン、シャーマリー、サティエーンドラ・カプール、ラーケーシュ・パーンデーイ、アンジュ・マヘーンドルー、シャクティ・カプール、DKサプルー、ランディール・スィン、イムティヤーズ・カーン、シータル、クリシャン・ダワン、トリローク・カプール、クムド・トリパーティー、ドゥラーリーなどである。

 この中で、アニル・ダワンはヴァルン・ダワンの叔父にあたり、シャクティ・カプールはシュラッダー・カプールの父親にあたる。また、イムティヤーズ・カーンは「Sholay」(1975年)で悪役ガッバル・スィンを演じたアムジャード・カーンの弟である。

 2024年10月27日に鑑賞しこのレビューを書いている。

 タークル・プラタープ・スィン(トリローク・カプール)は傲慢な地主で、歯向かってきた若者ダルマー(ラーケーシュ・パーンデーイ)を焼き殺してしまう。ダルマーの母親(ドゥラーリー)はプラタープに呪いをかけながら絶命する。その後、プラタープの妻は死に、彼自身も死の床にあった。プラタープは、息子のスーラジを友人ガンガー(サティエーンドラ・カプール)に託す。だが、彼らがプラタープの邸宅を出ようとした際、謎の怪物に襲われる。ガンガーは死んでしまうが、プラタープの御者シャンブー(クムド・トリパーティー)はスーラジを救い出し、ボンベイに連れ出す。

 18年後。スーラジはプラタープの友人でボンベイ在住の弁護士クリシャン・プラサード(サティエーンドラ・カプール)に育てられ、ラチュナー(シャーマリー)と結婚する。だが、スーラジは時々悪夢にうなされており、父親の邸宅を一度訪れたいと叔父に訴えていた。スーラジはハネムーンにかこつけてラチュナーと共にシーマーゴーにある邸宅へ向かう。途中で彼らは、不気味な老婆の住む家や、かつてプラタープの親友だったサルダール(DKサプルー)の治める村に立ち寄りながら、邸宅にたどり着く。しかしながら、ラチュナーは怪物に襲われ、彼らの自動車は破壊される。スーラジはラチュナーを探しながら、ついにプラタープの邸宅に足を踏み入れる。ラチュナーは無事だった。また、邸宅の留守番をしてきたシャンカルにも会う。スーラジとラチュナーはプラタープの邸宅に住み始める。

 サルダールの村には、ダルマーの弟シャーカール(イムティヤーズ・カーン)もおり、村一番の力持ちとして知られていた。シャーカールはスーラジを兄と母の仇扱いするが、スーラジは彼の挑戦をはねのける。それでもシャーカールは復讐を止めようとしなかった。シャーカールの妻レーシュマー(アンジュ・マヘーンドルー)はスーラジに危険を知らせに行くが、シャンカルが秘密の扉から出て来るのを目撃し、彼女はその扉の奥に入る。そこは洞窟になっており、怪物の住処になっていた。レーシュマーは怪物に殺されてしまう。シャーカールはレーシュマーがスーラジに殺されたと勘違いし、スーラジを気絶させる。村の暴れん坊だったゴーガー(シャクティ・カプール)たちは邸宅に押し入ってラチュナーに乱暴しようとする。ラチュナーは偶然秘密の扉を見つけ、洞窟に隠れる。ゴーガーたちが洞窟に押し入ると、そこで怪物に皆殺しにされる。

 意識を取り戻したスーラジはサルダールや村人たちと共に洞窟に入る。そこで彼は死んだはずの父親プラタープと出会う。だが、彼は何もしゃべることができなかった。また、ラチュナーも無事だった。スーラジは秘密の扉を通して洞窟に出入りしていたシャンカルを怪しみ、彼を問いただす。一方、シャーカールはサルダールの娘シャーイラー(シータル)を殺し、スーラジが殺したと嘘を言って村人たちを焚き付ける。怒ったサルダールはシャーカールと村人たちにプラタープとスーラジの抹殺命令を出す。

 シャーカールは仲間を連れて邸宅を襲撃する。邸宅内に忍び込んだシャーカールは植物人間状態になったプラタープを見つけ、殺そうとするが、そのときプラタープは怪物に変身し、彼に反撃する。怪物はシャンカルを殺し、スーラジに襲い掛かる。スーラジとラチュナーは逃げ出し、カーリー女神寺院へ向かう。シャンカルの遺言通り、スーラジはカーリー女神のトリシュール(三叉戟)を使って怪物を指す。怪物は苦しみながら寺院を破壊し、瓦礫の下敷きになる。そしてプラタープの姿に戻る。プラタープはカーリー女神に許しを請いながら息を引き取る。

 ラームセー兄弟のそれまでの作品では、結局幽霊の類は登場しなかった。「Do Gaz Zameen Ke Neeche」では終盤に悪役たちに復讐する怪物が現れるが、それは結局人間が変装したものだった。「Andhera」では悪役に両腕を切り落とされた主人公が義手を付けて復讐に乗り出すだけで、ホラー映画ではあるが、幽霊映画ではなかった。つまり、一応科学的に説明が付くストーリーになっており、大衆に迷信を流布する内容にはなっていなかった。

 しかしながらこの「Darwaza」では初めて、呪いによって異形の姿になってしまった怪物が登場する。呪いの存在を肯定し、超常現象によってホラーを演出している。ホラー映画の代名詞としてカルト的な人気を博したラームセー兄弟だが、彼らが実際に超常現象を肯定する内容の映画を作ったのは、この「Darwaza」が初になる。

 ただし、前2作と同じく、「Darwaza」も決してホラーに特化した映画にはなっていない。基本はマサーラー映画であり、ロマンスシーンもあればアクションシーンもあるし、ちょっとしたコミックシーンもある。それに、歌と踊りも何の罪悪感もなしに入っている。西洋的な意味でのホラー映画とは少しズレがある。

 また、「Darwaza」において恐怖の現場になるのは、タークル・プラタープ・スィンの邸宅である。この邸宅については冒頭から何度も言及されるものの、主人公スーラジが実際に邸宅に足を踏み入れるのは終盤になってからだ。それまでかなりの時間もったいぶらされることになる。それまでにスーラジと妻ラチュナーはちょっとした冒険もすることになる。この場面になっていきなり多くのキャラが登場し、困惑する。この辺りの構成には未熟さを感じずにはいられなかった。

 それでも、プラタープが呪いによって変身した姿は特殊メイクによって実現していたが、当時としては観客の恐怖をあおるのに十分な外観をしていた。また、人間のプラタープが怪物に変身する様子、そして怪物から再び人間に戻る様子も、特撮によってしっかり表現していた。

 「Darwaza」は、ラームセー兄弟のホラー映画が次のステップに向かったことを示す重要な作品である。ラームセー兄弟の作品は主に地方の映画館を巡回していたため、その興行的な成否を見極めるのは困難だ。だが、ポスターに堂々と掲げられた「インド初の成功したホラー映画」というキャッチコピーは、相当な成功を収めたことを暗示している。あくまでB級映画ではあるが、インド製ホラー映画の発展史においてひとつの金字塔といってもいいだろう。