Andhera

2.5
Andhera
「Andhera」

 1975年4月8日公開の「Andhera(暗闇)」は、B級ホラー映画のパイオニアとして知られるラームセー兄弟の第2作である。とはいっても、彼らの初期の作品は、現代的な意味でのホラー映画とは少しズレがあると感じる。第1作「Do Gaz Zameen Ke Neeche」(1972年)は終盤の一部のみにホラー色が見出せたが、第2作「Andhera」には幽霊などは登場しない。どちらかというと、「怪人二十面相」(1936年)などで知られる江戸川乱歩の怪奇小説に似たノリの作品だ。

 監督はトゥルスィー・ラームセーとシャーム・ラームセー。キャストは、サミール・カーン、ヴァーニー・ガンパティ、スレーンダル・クマール、イムティヤーズ・カーン、ドゥラーリー、サティエーンドラ・カプール、トゥン・トゥン、クリシャン・ダワン、ムクリー、アーシュー、ヒーラーラールなどである。また、ヘレンがアイテムガール出演している。

 2024年10月26日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 ムンバイー在住のディーパク(サミール・カーン)は運転の腕を買われ、密輸マフィアのドン、ランジート(イムティヤーズ・カーン)の運転手になる。ランジートの娘アーシャー(ヴァーニー・ガンパティ)はディーパクを気に入り、彼を誘惑する。ディーパクはアーシャーと一夜を共にするが、その結果アーシャーは妊娠してしまう。怒ったランジートはディーパクの両腕を切り落とす。また、アーシャーは階段から突き落とされて流産し、カシュミールに飛ばされる。絶望したディーパクの母親(ドゥラーリー)は毒を飲んで自殺してしまう。

 ディーパクの兄アマル(スレーンダル・クマール)は警察官採用試験に合格し、警部補になっていた。訓練合宿から帰ると、母親は死に、弟は両腕をなくしていた。だが、アーシャーもムンバイーに戻ってきてディーパクに結婚を迫る。二人はランジートに内緒で結婚する。

 その頃から、ランジートの仲間たちが何者かに相次いで殺されていった。殺人犯は実はディーパクだった。彼は、リーター(アーシュー)に作ってもらった義手を使って復讐のために殺人をしていた。だが、ランジートの仲間は、まさか両腕を失ったディーパクが犯人だとは思わなかった。一方、アマルは連続殺人の事件を担当し、リーターから、犯人がディーパクだと聞かされる。だが、その直後にアマルはランジートに襲撃される。

 アマルが死んだと勘違いしたディーパクは、ランジートを郊外に連れ出して戦う。最後にディーパクはランジートを殺し、自殺する。

 この映画の主人公はディーパクであるが、ディーパクが何かにおびえる映画ではない。密輸マフィアのドン、ランジートの妹を妊娠させてしまい、罰として両腕を切り落とされるところまではディーパクが劣勢であったが、母親を自殺で失った彼は、一転して復讐の権化と化す。両腕を失ったのだが、金属製の義手を身に付けたことで殺人能力を持ち、ランジートの仲間たちを夜な夜な抹殺していく。異形の殺人マシーンになったディーパクの姿がこの映画の最大のホラーポイントだ。つまり、ディーパクが悪役にホラーを与える側に回っている。そして、観客は悪党たちが死におびえる姿を見て溜飲を下げることになる。

 ラームセー兄弟の映画は低予算・短期間・スター不在の映画製作に特徴がある。安っぽい映画ではあるのだが、期待していたほどの安っぽさでもなく、意外にしっかり作られていることに感心した。いくつか映像的に印象的なものもあった。たとえば、両腕を失ったディーパクが、床に置かれた食事を食べることができず、野良犬がやってきてそれを食べてしまうシーンがあった。彼の無力さがよく表現されていた。マサーラー映画のフォーマットもキチンと踏襲しており、歌と踊りにも力が入っている。

 不満を抱いたのは脚本や設定の混乱である。いくつも突っ込みたくなる点があった。たとえば、ディーパクは登場シーンで赤い派手なオープンカーを運転していた。その所有者から彼や兄のアマルは裕福であるように見えるのだが、その直後に彼らが金銭的に困窮していることが分かる。では、あのオープンカーは何だったのだろうか。ディーパクの義手についても謎が多すぎる。ナイフを握ったり自動車を運転したりできる、かなり高度な技術を使って作られた義手のはずだが、作成者は一介の女性リーターとのことだ。一体彼女は何者なのか、よく説明がされていなかった。最後にディーパクが自殺してしまう理由もよく分からなかった。兄のアマルが死んだものと勘違いし絶望したという説明は成り立つが、妻になったアーシャーを後に残して死んでしまうのは理不尽である。

 ところで、両腕を失ったディーパクの姿は、同年に公開された伝説的なヒット作「Sholay」(1975年)に登場するタークルを想起させる。ちなみに「Andhera」の方が公開は先である。また、「Sholay」で悪役ガッバル・スィンを演じたアムジャード・カーンの弟が、ランジートを演じたイムティヤーズ・カーンである。兄弟の俳優が同年公開の別々の映画で、主人公の両腕を切り落とす役を演じたのは、単なる偶然なのであろうか。

 さらには、兄が警察官になって正義の道を行き、弟が密輸王の運転手になって悪の道を行くという設定は、やはり同年公開の名作「Deewaar」(1975年)と酷似している。

 「Andhera」は、1970年代から80年代にかけてホラー映画を作り続け一世を風靡したラームセー兄弟の第2作である。ただ、前評判とは異なり、純粋なホラー映画ではなく、むしろ復讐劇である。低予算で作られていることもあって、決して上手な作りの映画ではないが、両腕を失った主人公が殺人鬼となって復讐するというプロットには、通常のホラー映画とは異なる怖さがあり、感心した。あなどれない作品である。