ヒンディー語映画界でヒット映画の続編が作られるようになって久しいが、何十年も前のヒット作の「~2」が作られることがあるのには驚いてしまう。少し前には、1990年のヒット作「Aashiqui」の続編扱い(実際はリメイク)の「Aashiqui 2」(2013年)が公開された。
2020年8月28日からDisney+ Hotstarで配信開始された「Sadak 2」は、1991年のヒット作「Sadak(道)」の続編である。こちらは「Aashiqui」シリーズと異なり、完全にストーリーやキャラクターの連続性がある正真正銘の続編である。しかも、監督は「Sadak」と同じマヘーシュ・バットだ。
「Sadak」では、サンジャイ・ダットとプージャー・バットが主演だったが、「Sadak 2」ではサンジャイ・ダットがそのまま続投となり、アーリヤー・バットとアーディティヤ・ロイ・カプールが新たに主演として起用されている。もちろん、アーリヤー・バットはマヘーシュ・バットの娘である。また、プージャー・バットは異母姉となる。「Sadak 2」では、プージャー・バットは声のみの出演だが、「Sadak」の映像が回想シーンとして時々差し挟まれ、若い頃のプージャー・バットが、若い頃のサンジャイ・ダットと共に映し出される。
他には、ジーシュー・セーングプター、グルシャン・グローヴァー、マカランド・デーシュパーンデー、プリヤンカー・ボース、モーハン・カプール、アクシャイ・アーナンドなどが出演している。
ラヴィ・キショール・ヴァルマー(サンジャイ・ダット)は、妻のプージャー(プージャー・バット)と共にムンバイーでタクシー会社を経営していた。だが、最近プージャーを亡くし、失意のどん底にあった。彼は自殺をしようとするが、そこへアーリヤー・デーサーイー(アーリヤー・バット)という女の子がやって来る。3ヶ月前にプージャーに電話をし予約をしたと言う。プージャーから与えられた最後の仕事だと考えたラヴィはアーリヤーを乗せて走り出す。目的地はウッタラーカンド州のラーニーケートであった。そこからカイラーシュ山へヘリコプターで向かおうとしていた。 アーリヤーは、デーサーイー・グループ・インダストリーズの跡取りであった。アーリヤーの母親は死んでおり、父親ヨーゲーシュ(ジーシュー・セーングプター)は母親の妹ナンディニー(プリヤンカー・ボース)と再婚していた。母親は遺書に、会社の経営権は21歳になったアーリヤーに渡ると書いた。ナンディニーは、怪しげな宗教指導者グル・ギャーンプラカーシュ(マカランド・デーシュパーンデー)の熱心な信者であり、ヨーゲーシュも信者になってしまっていた。一方、アーリヤーは、迷信から人々を救うための活動をしており、ギャーンプラカーシュから目を付けられていた。アーリヤーは、母親を殺したのは継母のナンディニーだと信じていたが、周囲の人々はアーリヤーが発狂したとして精神病院に入れてしまう。アーリヤーは精神病院から抜け出し、ラヴィのタクシーに乗ったのだった。 アーリヤーにはヴィシャール(アーディティヤ・ロイ・カプール)という恋人がいた。ミュージシャンのヴィシャールは元々アーリヤーの反迷信活動に批判的だったが、彼女と出会って恋に落ち、一緒に活動をするようになった。アーリヤーはギャーンプラカーシュの手下に命を狙われるが、ヴィシャールはその暴漢を殺してしまう。そのため、刑務所で服役していたが、その日はちょうど彼が釈放されるところだった。アーリヤーはヴィシャールを刑務所まで迎えに行き、一緒にラーニーケートを目指す。 だが、ヴィシャールは最初からラヴィに懐疑的だった。ヴィシャールは別のタクシーを用意しようとするが、そこにはギャーンプラカーシュの手下ディリープ(グルシャン・グローヴァー)が待ち構えている。ラヴィの活躍によって彼らは助け出されるが、実はヴィシャールはギャーンプラカーシュの信者だったことが発覚する。ヴィシャールはアーリヤーを破滅させるためにギャーンプラカーシュから送り込まれたのだった。だが、ヴィシャールはアーリヤーに本当に恋してしまっていた。自ら自分の正体を明かしたヴィシャールは、アーリヤーに許される。 アーリヤーの父親ヨーゲーシュはナンディニーに洗脳されているだけだと思われた。ラヴィはヨーゲーシュに連絡を取り、アーリヤーを引き渡そうとする。ところが、全ての黒幕はヨーゲーシュであった。ヨーゲーシュはギャーンプラカーシュをも操り、会社の全権を握ろうとしていた。アーリヤーの母親をナンディニーに殺させたのも彼だったのである。再びラヴィたちはディリープたちに襲撃されるが、ラヴィ、ヴィシャール、アーリヤーは力を合わせて撃退する。アーリヤーにもヨーゲーシュの正体は分かってしまった。 アーリヤーは21歳になる。ヨーゲーシュに復讐を誓うが、ラヴィはヴィシャールとアーリヤーを睡眠薬で眠らせ、単身ヨーゲーシュの邸宅に殴り込む。そしてギャーンプラカーシュやヨーゲーシュを殺すが、自身も重傷を負って死んでしまう。 アーリヤーは、ヨーゲーシュではなくラヴィを自分の父親だと認め、ヴィシャールと共にカイラーシュ山へ行き、そこでラヴィの遺灰を撒く。
マヘーシュ・バットが娘のアーリヤー・バットの映画を撮るのはこれが初めてである。それもあってか、映画の主題は父と娘の関係であった。バット監督はエロティックなB級サスペンス映画を得意とするのだが、さすがに娘が主演の映画にはエロティックなシーンは入れ込んでいなかった。
父と娘の関係といっても、「血は水より濃い」とは真逆の結論になっており、家族の縁は血だけでは決まらないということが主張されていた。アーリヤーは母親の遺言により21歳になると大企業の経営権を手中にする運命にあった。だが、アーリヤーの実の父親はそれを我が物としようとし、怪しげな宗教指導者グル・ギャーンプラカーシュと結託してアーリヤーを破滅に追い込もうとする。そんなアーリヤーを助けたのが、知り合いでも何でもなかったただのタクシー運転手ラヴィ・キショール・ヴァルマーだったというわけである。
「Sadak」の結末ではラヴィはプージャーと結ばれ、めでたしめでたしとなったわけだが、最後まで幸せが続いたわけではなかった。ラヴィとプージャーの間にはミーシャーという女の子ができるがすぐに死んでしまい、以後、子供に恵まれなかった。また、二人はタクシー会社を立ち上げる。ガレージには何台ものタクシーが並んでいたが、それを見ると事業は成功していたと思われる。だが、プージャーは最近、交通事故で死んでしまう。ラヴィは孤独に耐えきれず何度も自殺をしようとするという暗い始まりとなっている。
そんなラヴィが、亡き妻から与えられた最後の仕事として、アーリヤーをムンバイーからラーニーケートまで送り届けることになる。ラーニーケートはウッタラーカンド州の山間部にある町で、ムンバイーからは陸路で1,600km以上ある。ラーニーケートからはヘリコプターに乗って、チベットにあるヒンドゥー教の聖地カイラーシュ山へ行こうとしていた。ラーニーケートから実際にカイラーシュ山へのヘリコプター・ツアーが出ているのかどうかは不明である。
ムンバイーからラーニーケートまでタクシーに乗って旅をするとなると、ロードムービー的な作りにすることもできたと思うのだが、「道」という意味の題名の割には、「Sadak 2」にロードムービー性は欠如していた。ほとんどのシーンからムンバイーという印象も受けなかった。どこか山間部の限られた地域で大部分が撮影されたに違いない。
アーリヤーの恋人ヴィシャールのキャラはうまく掘り下げられていなかった。ミュージシャンであり、ギャーンプラカーシュの信者であり、実はムンナーという名前のチンピラであった。そんな彼がアーリヤーと出会って真実の愛に目覚め、彼女と共にギャーンプラカーシュに対峙するようになる。ラヴィにスポットライトが当てられ過ぎていて、ヴィシャールの存在感は相対的に薄まってしまっていた。
ヒンディー語映画界の有力な一角を占めるバット一族の女優アーリヤー・バットは、映画カースト出身者の中では圧倒的な演技力を誇り、血統パワーを証明している。「Sadak 2」の彼女の演技も別次元のものだった。父親のマヘーシュ・バットも、彼女の演技力を最大限に引き出しており、ただただ圧倒されるばかりだった。特に最後、ラヴィの死の後に記者会見する姿では、表情のあらゆる要素を完全にコントロール下に置いていた。
「Sadak 2」は、マヘーシュ・バット監督が、30年前の自身のヒット作の続編を自らメガホンを握って作った作品である。初めて娘のアーリヤー・バット主演の映画を撮ったことも特筆すべきであるし、前作の主演サンジャイ・ダットを引き続き起用し、成熟した彼の演技と存在感を活用していたのもさすがであった。観て損はない映画である。