Noor

3.0
Noor
「Noor」

 2017年4月21日公開のヒンディー語映画「Noor」は、パーキスターン人作家サバー・イムティヤーズの小説「Karachi, You’re Killing Me!」を原作にした、インド映画としては変わった過程で作られた映画である。もちろん、舞台はカラーチーからムンバイーに移されている。

 監督はスンヒル・スィッピー。「Sholay」(1975年)のラメーシュ・スィッピー監督の甥にあたり、本作が監督2作目である。主演はソーナークシー・スィナー。他に、カナン・ギル、シバーニー・ダンデーカル、プーラブ・コーリー、スチトラー・ピッライ、マニーシュ・チャウダリー、MKラーイナー、スミター・ターンベー、ニキル・クラーナーなどが出演している。また、サニー・リオーネ、ディルジート・ドーサンジ、バードシャーが特別出演している。

 ムンバイー在住のヌール・ロイ・チャウダリー(ソーナークシー・スィナー)は、自分に自信が持てないジャーナリストだった。28歳になったが彼氏はなし。父親(MKラーイナー)は犬を溺愛してヌールのことは二の次だし、職場ではボスのシェーカル(マニーシュ・チャウダリー)から怒られてばかりだった。幼馴染みのサード(カナン・ギル)とザーラー(シバーニー・ダンデーカル)だけが心を許せる友人だった。

 ある日、ヌールは写真家アヤーン・バナルジー(プーラブ・コーリー)と出会い、恋に落ちる。アヤーンは戦場カメラマンとして戦場を渡り歩いた経験を持っており、ヌールはジャーナリストとして尊敬の念を感じるようになった。だが、アヤーンはヌールが見つけた特ダネを盗んで行ってしまった。裏切られたヌールはまたも落ち込む。

 ヌールの特ダネとは、著名な医者が貧困者から臓器を勝手に抜き取って横流ししているというスキャンダルだった。ヌールは、自宅で働くメイド、マールティー(スミター・ターンベー)の弟ヴィラースが腎臓を抜き取られたことを知って、その取材をしていたのだった。だが、このスキャンダルの闇は深く、ヴィラースは殺され、ヌールの家にも脅迫の電話が掛かってくるようになる。

 マールティーからも恨まれるようになってしまったヌールは、「Mumbai, You're Killing Me」と題し、ムンバイーの問題をあげつらって独白した動画を公開する。この動画は拡散され、ヌールは一躍有名人になる。マールティーからも許してもらえる。ヌールはサードからのプロポーズを受け入れ、人生が好転し始める。

 監督は男性だが、原作の作家が女性なだけあって、女性視点の映画だった。何かと思い通りに行かず、自信を喪失し、愚痴をこぼしてばかりの女性ジャーナリスト、ヌールの視点から、彼女のアンラッキーな日常生活が描かれる。ただし、それは前半のみで、後半になると、巨大なスキャンダルに関わることになり、映画らしい緊迫感が出て来る。また、それと平行して、何人かの男性との恋愛も描写される。しかしながら、テーマが拡散していてどれも中途半端で終わってしまっており、一体何を訴えたい映画なのか曖昧になってしまっていたのが残念だった。おそらく原作のエッセンスをあれもこれも詰め込んだためにこうなってしまったのだろう。

 ジャンルとしてはロマンス映画に分類していいだろう。ヌールは3種類の男性と付き合うことになる。1人目は大富豪ラーフル。だが、中産階級のヌールを見下す母親と反りが合わず、破局する。2人目は写真家アヤーン。ジャーナリストのヌールと近い職業であり、うまく行っていたかに見えたが、アヤーンはヌールから特ダネを盗んで消えてしまった。3人目はサード。ヌールの幼馴染みで、よき相談役でもあり、常に彼女を支え続けていた。ヌールはもてない女を自称していたが、実は結構いい男性たちとの出会いがあった。その中で最終的に彼女と結ばれることになったのは、幼少時からヌールに寄り添ってきたサードであった。エンディングでサードがヌールにプロポーズするシーンが添えられていたが、いかにも女性に受けそうなやり取りであった。

 この映画の最大の見所は、ヌールがカメラに向かって独白する「Mumbai, You’re Killing Me!」のシーンだ。信頼していた写真家アヤーンからの裏切りやマールティーの弟を死なせてしまった後悔などによって打ちひしがれたヌールは、行き場のない怒りを、ムンバイーという都市に対してぶつける。自分に自信を持てない女性ヌールを、女優として成長中のソーナクシー・スィナーが自信満々に演じていたが、その中でもこのシーンは白眉であった。ただ、ストーリーに一貫性が乏しいため、せっかくの彼女の名演技もぼやけてしまっていた。それに、動画がYouTubeなどのソーシャルネットワークで話題となって社会が動くという展開は、もう飽きてしまった。

 ヌールは太った女性という設定で、自分の体重を気にしていた。ソーナークシーは元々太めの女優であるが、この撮影に向けてより肉を付けたように見える。シャトルガン・スィナーの娘として、ヒロイン女優枠でデビューしたソーナークシーだが、最近は女優魂を感じさせる役柄を選んでいる。

 「Noor」は、パーキスターン人女性作家の小説を原作としたヒンディー語映画である。主演ソーナークシー・スィナーが熱演していたが、原作の内容もあれもこれも詰め込もうとしたと思われ、主題がはっきりしない映画になってしまっていた。興行的にも失敗に終わっている。