Bhoomi

3.0
Bhoomi
「Bhoomi」

 2012年12月にデリーで発生した集団強姦事件は、インドにおいて強姦に対する危機意識を高め、強姦関連の法整備が急ピッチで進むことになった。また、6人いた犯人の内、1人は獄死し、4人には死刑が執行された。だが、残りの1人は未成年だったため、少年院に送られ、その後釈放された。犯人の全員を裁けなかったのはインドの司法の限界であった。

 この事件をきっかけに、ヒンディー語映画界でもレイプを題材にした様々な映画が作られることになった。2017年9月22日に公開された「Bhoomi」も、デリー集団強姦事件の影響を感じさせる、レイプを主題とした復讐劇である。監督は「Mary Kom」(2014年)のオーマング・クマール。主演はサンジャイ・ダットとアディティ・ラーオ・ハイダリー。他に、リッディ・セーン、シャラド・ケールカル、スィッダーント・グプター、プルー・チッバル、シェーカル・スマンなどが出演している。また、サニー・リオネがアイテムナンバー「Trippy Trippy」でアイテムガール出演している。撮影監督は、日本人女性の中原圭子である。

 ウッタル・プラデーシュ州アーグラーで靴屋を営むアルン・サチュデーヴァ(サンジャイ・ダット)の一人娘ブーミ(アディティ・ラーオ・ハイダリー)は、恋人ニーラジ(スィッダーント・グプター)と結婚することになっていた。だが、結婚式の前日、彼女に片思いをしていたヴィシャール(プルー・チッバル)の一味に誘拐され、レイプされる。家に帰ったブーミは、結婚式当日にニーラジにレイプされたことを打ち明ける。結婚式はキャンセルとなる。

 アルンは警察に被害届を出す。家に戻ってみるとブーミがいなかったため、辺りを探す。ブーミは再びヴィシャールの一味に誘拐されており、川に落とされた。だが、ブーミは生き残り、病院に搬送される。ブーミの証言があったため、彼女をレイプしたヴィシャール、従兄のダウリー(シャラド・ケールカル)、そしてグラームが逮捕され、裁判が行われるが、弁護士がブーミを「ふしだらな女」などと呼んで侮辱することに我慢ならなくなったアルンは、被害届を取り下げ、ブーミと共に裁判所を後にする。

 ブーミのレイプに、彼女を姉と慕っていたジートゥー(リッディ・セーン)も関わっていたことが分かり、証拠のビデオも残されていた。アルンは激怒し、ジートゥーを幽閉する。だが、ジートゥーは未成年だったため、彼が成人するまで待つことにする。ジートゥーは恐れをなし、18歳の誕生日に自ら命を絶つ。

 その後、アルンはグラームを殺し、ヴィシャールも殺す。最後にダウリーと死闘を繰り広げるが、何とか彼を殺すことにも成功する。

 娘をレイプした犯人たちに対し、サンジャイ・ダットが演じる父親が次々に復讐して行く物語であった。一旦は正当な司法手続きを踏んで犯人たちに正義の鉄槌を下そうとするが、裁判所では弁護士によるセカンドレイプが行われ、父親は耐えられなくなる。筋肉に物を言わせたアクションが得意なサンジャイであるが、前半はかなり我慢の演技をしていた。しかしながら、近所の人々からサポートが得られなかったこと、また、信頼していた少年までレイプに関わっていたことが分かると、怒りが爆発する。そこからはいつも通りのサンジャイ映画となり、犯人に次々に引導を渡して行く。

 「Bhoomi」では、強姦犯に対するインド国民の怒りが凝縮され、表現されていた。サンジャイ演じるアルンが行ったことは私刑であり、法治国家においては到底許されることではないが、強姦犯に対する憤りはインド全土に渦巻いており、それを正当化する国民感情があることは確かである。さらに、デリー集団強姦事件では未成年の犯人を裁けなかったことが失望を生んでいた。あの事件において最も残酷な行為をしたのが未成年者だったとの情報もある。だが、「Bhoomi」では、アルンは未成年の犯人ジートゥーに対しても容赦なく罰を与える。しかも、ジートゥーの家族も彼を見放した。レイプ犯はたとえ未成年であっても相応の罰を受けるべきだという国民感情を体現した映画であった。

 この映画は、1993年のボンベイ連続爆破テロへの関与を疑われて逮捕され、武器の不法所持で有罪となって2013年から2016年まで服役したサンジャイ・ダットが、刑期終了後に初めて主演した映画となる。映画の中には彼が警察署で拘留されるシーンも出て来る。悪いイメージの付いた俳優は、それを払拭するために、正義の味方型の主人公を演じたがる傾向にあるが、「Bhoomi」にも彼のイメージ回復戦略を感じずにはいられなかった。

 もう一人の主演アディティ・ラーオ・ハイダリーは、セカンドヒロインをよく演じる印象があるが、今回はメインヒロインであった。ただ、レイプ被害者ということで、難しい役柄である。一般的なイメージでは、レイプの被害に遭った女性は塞ぎ込み、泣いて過ごすという役柄になりがちだが、アディティが演じたブーミは、残酷な過去を乗り越えて、父親と共に未来へ歩んで行こうとする力強い女性像を表現していた。

 タージマハルで有名なアーグラーが舞台の映画であり、アーグラーの観光名所が効果的に背景として使われていた。中心となるのはやはりタージマハルで、白亜の霊廟をあらゆる角度から映し出し、ストーリーに華を添えていた。ただ、映画の最後、悪役ダウリーが殺されるシーンはアーグラーではなく、ジャイプル近くのチャーンド・バーオリーで撮られていた。また、悪役の一人ヴィシャールは菓子屋の息子という設定であったが、アーグラーで有名な菓子と言えばペーター(冬瓜のソフトキャンディー)。もちろん、ヴィシャールの店は各種ペーターを取り揃えていた。

 「Bhoomi」は、デリー集団強姦事件の影響を受けて作られたと思われる、強姦を主題にした映画である。強姦被害者の娘の父親が犯人を次々に抹殺するという娯楽映画仕立てであり、シリアスな作りではない。それでも、強姦犯に対するインド国民の怒りが凝縮されており、世相を風靡した一本と評することができる。