ヒンディー語映画の題名や台詞の中に時々「420」という数字が出て来る。ヒンディー語では「チャール・サォー・ビース」と読む。「チャール(चार)」が「4」、「サォー(सौ)」が「100」、「ビース(बीस)」が「20」で、「四・百・二十」だ。「420」が入った映画の題名で有名なものは、ラージ・カプール監督・主演の「Shree 420」(1955年)だ。これは「ミスター420」という意味だが、インドにおいて「420」という数字は「詐欺師」という意味になるため、つまりは「ミスター詐欺師」という意味になる。
「Raja Hindustani」(1996年)では、主人公ラージャー・ヒンドゥスターニーはタクシー運転手であったが、彼のタクシーのナンバーは「420」であった。この数字だけで運転手は怪しい人間ということが暗示される。
なぜ「420」が「詐欺師」という意味になるかと言うと、インド刑法(IPC)第420条が「Cheating and dishonestly inducing delivery of property」、つまり「詐欺および不正に財産の引き渡しを誘発する行為」と規定されているからである。題名に限らず、映画の中で「420」という数字が出て来た場合は、何らかの詐欺行為が行われると見て間違いない。
2024年7月1日から「Bharatiya Nyaya Sanhita(BNS)」が施行され、IPCに置き換えられた。こちらも「インド刑法」と訳せるため、略称のBNSで呼んだ方が良さそうだ。新しいBNSでは詐欺罪は第318条に規定されており、番号が変わってしまった。今後、「318」が新しい「詐欺師」のナンバーになるのだろうか。
「420」ほど慣用句化したインド刑法の条文は他にないが、よく話題に上る条文はある。例えば第377条は同性愛の禁止を規定した有名な条文であった。この条文があったために、インドでは同性愛者は潜在的な犯罪者として肩身の狭い生活を送る必要があった。ただ、時代の変遷に合わせて条文の見直しも進み、2018年に至って遂に最高裁判所によってこの条文は「憲法違反」として無効化された。
「377」と聞くと、インド人なら同性愛を思い浮かべるだろうが、この数字が「420」のように「同性愛」と同義になるまで普及していると断言する自信はない。ただ、「377 Ab Normal」という映画はあった。この題名にある「377」とは、この条文のことを指している。
また、「Section 375」(2019年)という映画があるが、この「375」とはやはりインド刑法第375条のことである。この条文は強姦罪を規定している。2012年のデリー集団強姦事件を受けて第375条は改正され、強姦の定義拡大や厳罰化が行われた。また、2024年のBNS施行により、強姦罪を規定した条文は第63条から第73条までに変化した。
インド映画を観ていると、インドの刑法にも詳しくなれる。