Padmashree Laloo Prasad Yadav

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Padmashree Laloo Prasad Yadav
「Padmashree Laloo Prasad Yadav」

 インドで一番面白い政治家は誰かと聞かれたら、僕は真っ先にラールー・プラサード・ヤーダヴの名前を挙げるだろう。ラールーは、ビハール州を拠点とする国民党(Rashtriya Janata Dal, RJD)の党首で、1990年~97年に渡ってビハール州の州首相を務め、現在は中央政府の鉄道大臣を務めている。インドを代表する汚職政治家として知られており、贈収賄スキャンダルにより州首相の座を下りざるをえなかったときも、ただの主婦に過ぎなかった自分の妻ラブリー・デーヴィーを代わりに州首相に任命してしまうという珍事件を起こした。現在でもラブリー・デーヴィーがビハール州の州首相を務めているが、実質的な支配者はラールーをおいて他にいない。ビハール州が最貧州のまま停滞しているのは、ラールーのせいだとする見方が強いが、州内の低カースト層やヤーダヴ族(牛飼いカースト)からの圧倒的な支持を受けており、選挙のたびに失脚が噂されながらも不死鳥の如く蘇るしぶとい政治家である。日本の政治家に例えるならば、田中角栄あたりか。ラールーに関するこんな冗談も有名だ。「あるとき、日本の首相がビハール州を訪れた。首相はラールーに『私だったら、3年でビハール州を日本のようにしてみせます』と言った。それに対し、ラールーは、『私だったら、3ヶ月で日本をビハール州のようにしてみせます』と答えた。」

 ここ最近、ラールーの名前が新聞やニュースに踊らない日はない。なぜなら、ラールーと彼の率いるRJDがビハール州の政権に就いて以来、4度目の州議会選挙が行われるからだ。果たしてラールーは政権を続行させられるか、それとも今度こそ失脚するのか。メディアはビハール州の州議会選挙に大いに目を光らせている。投票日が近付くにつれて、州内で学童の誘拐事件が頻発したりしたことも、報道合戦に火を注いでいる。そんな中、本日ビハール州の州議会選挙の第一期投票が行われた。この慶事を記念して(?)、2005年1月28日にインド全土ではラールーの名前とそっくりな題名の映画「Padmashree Laloo Prasad Yadav」が公開された。ビハール州の選挙にピッタリ合わせて公開したとしか思えないタイミングだ。その心意気を買って、ちょうど第一期投票日の今日、この映画をPVRナーラーイナー観ることにした。

 題名の中の「Padmashree」とは、毎年1月26日の共和国記念日に大統領により功績のあったインド人に送られる勲章のひとつである。上からバーラト・ラトナ(インドの宝石)、パドマ・ヴィブーシャン(蓮の大宝石)、パドマ・ブーシャン(蓮の宝石)、パドマ・シュリー(蓮の美)の4つがある。ラールー・プラサード・ヤーダヴの名前の前に受勲名が付くことにより、「~伯爵」みたいな尊称になるのだが、ラールーはまだそのような勲章は受け取っていないため、それが苦笑を誘う。だが、この題名は実は4人の主人公の名前である。ヒロインの名前がパドマシュリー、ヒーローや脇役の名前がラールーとプラサードとヤーダヴなのだ。

 監督はマヘーシュ・マーンジュレーカル、音楽はアーナンド・ラージ・アーナンド、スクヴィンダル、ニティン・ライクワルの3人。キャストは、スニール・シェッティー、マースーミー、グルシャン・グローヴァー、ジョニー・リヴァー、マヘーシュ・マーンジュレーカル、キム・シャルマー、シャラト・サクセーナー、カニーカーなど。そしてなんと驚くべきことに、ラールー・プラサード・ヤーダヴ自身が特別出演しているのだ。現役の政治家がヒンディー語映画にのこのこと出演するなど、あまり考えられないことだ(映画スターが政治家に転身することは多いが・・・)。これだからラールーは面白い。映画自体は低予算のコメディー映画であまり観る気がしなかったが、スクリーン上で是非ラールーの雄姿を見てみたくて、映画館に足を運んだ。

 ラールーはムンバイーのマフィアのボス、トム叔父さん(シャラト・サクセーナー)の家に居候していたが、ある日トムの愛人リター(キム・シャルマー)といちゃついているところを見つかり、逃げ出した。ラールーにはパドマシュリー(マースーミー)というガールフレンドがいた。女好きなラールーに愛想を尽かしていたパドマシュリーは、父の友人サクセーナーに奪われた5億ルピーの価値のあるダイヤモンドを取り返すため、南アフリカ共和国のケープタウンへ発つ。それを知ったラールーも、同じくケープタウンへ飛んで、パドマシュリーと共にダイヤモンドを探すことにした。

 サクセーナーは簡単に見つかったが、ラールーが脅したことにより心臓麻痺で死んでしまう。サクセーナーの言い残した言葉により、ダイヤモンドは銀行の金庫に保管されていることが分かる。ラールーとパドマシュリーは、ケープタウンを牛耳るマフィア、ジョン・トニア・ブッシュ(グルシャン・グローヴァー)とその部下ヤーダヴ(ジョニー・リヴァー)を仲間に引き入れ、銀行強盗をしてダイヤモンドを手に入れる。ラールーたちは警察に密告してジョンを逮捕させるが、ジョンはあらかじめダイヤモンドを誰も知らない場所に隠していた。パドマシュリーは色仕掛けでヤーダヴや、ジョンの弁護士プラサード(マヘーシュ・マーンジュレーカル)を騙してダイヤモンドの情報を引き出そうとするが、なかなかうまくいかなかった。その内、ラールー、プラサード、ヤーダヴの三人の男がパドマシュリーに恋してしまう。また、トム叔父さんとリターもラールーを追ってケープタウンに降り立った。

 ダイヤモンドの在り処が分かると、それを巡ってラールー、パドマシュリー、プラサード、ヤーダヴ、裁判所から脱走したジョン、そしてトム叔父さんとリターの間で争奪戦が起こる。最後にはジョンは逮捕され、ラールーとパドマシュリーはダイヤモンドを手に入れ、無事にインドに帰る。

 監督のマヘーシュ・マーンジュレーカルといえば、「Hathyar」(2002年)や「Rakht」(2004年)など暴力映画やホラー映画の監督であり、「Kaante」(2002年)や「Run」(2004年)などで怖いマフィアやチンピラ役を演じた俳優である。そのマヘーシュ・マーンジュレーカルが、このようなコメディー映画を作り、このようなコメディーな役柄を演じたことには驚きを隠せえない。コメディーの作風は、「Hungama」(2003年)や「Hulchul」(2004年)のプリヤダルシャン監督と似ており、インドのよくあるコメディー映画という感じだった。つまり、単発的お笑い優先で、全体的なストーリーの流れは二の次となっていた。特に下流層のインド人はこういうお気楽なコメディー映画が大好きだが、日本人の鑑賞に耐えるような作品ではないと言わざるを得ない。とは言え、こういうインド映画の楽しさが分かるようになると、インド映画の理解度が深まったような自己満足感も得られるのは確かだ。

 コメディー映画としての質はいまいちだったものの、やはり現役の政治家ラールー・プラサード・ヤーダヴが特別出演していることは、この映画を何よりもユニークなものとしている。ラールー・プラサードの登場シーンは冒頭と最後のみで、はっきり言ってストーリーと直接関係ないが、特に最後のシーンで俳優たちに、「若者たちよ、国の名声を高めることをしないといけないぞ」と説教するところは、皮肉なのか真面目に言っているのか、苦笑が漏れた。

 ジョニー・リーヴァルを久し振りにスクリーンで見た。一昔前は見る映画見る映画全てにジョニー・リーヴァルのあの一度見たら忘れられない顔が出ていたと記憶しているが、最近は出演作が少なくなっている。だが、今でもヒンディー語映画界を代表するコメディー俳優であることには変わりない。この映画では準主役級の役を演じていたため、彼の面白いアクションをじっくり堪能することができた。スニール・シェッティーやグルシャン・グローヴァーもよかった。ヒロインのマースーミーは、アルファベットで「Masumi」と綴るため、一見すると日本人の名前っぽい。だが、おそらくムスリムの女性名だろう。大きな目と分厚い唇が印象的な新人女優で、恥じらいを捨てた演技力があった。

 「Padmashree Laloo Prasad Yadav」は、批評家の評価も低く、興行的にも成功していないが、映画中でラールー・プラサード・ヤーダヴを見るというレアな体験をさせてくれるため、話のネタにはなるだろう。