明日から旅行へ行くため、今日は2004年5月14日から公開のヒンディー語映画2作をまとめて鑑賞した。どちらも一級品には思えなかったが、気になる映画ではあったので、2作とも観てみようと思っていた。まず最初に見たのは「Lakeer」。映画館はDTシネマ。監督はアハマド・カーン、音楽はARレヘマーン、キャストはサニー・デーオール、スニール・シェッティー、ソハイル・カーン、ジョン・アブラハム、ナウヒード・サイルスィー。ちなみに「Lakeer」とは「線」という意味。
アルジュン・ラーナー(サニー・デーオール)は地元の人々から畏怖されているマフィアのボスだった。アルジュンには弟のカラン(ソハイル・カーン)と妹のビンディヤー(ナウヒード・サイルスィー)がいた。三人とも元々孤児で、今は亡き父親が養子にしたのだった。アルジュンは特に、何不自由ない生活を送るカランを溺愛していた。 一方、アルジュンの支配下にあるスーラジナガルには、サンジュー(スニール・シェッティー)とその弟サーヒル(ジョン・アブラハム)が住んでいた。サンジューはメカニックの仕事をしており、アルジュンを非常に尊敬していた。サーヒルは、カラン、ビンディヤーと同じ大学に通っていた。 しかし、サーヒルがビンディヤーに恋してしまったことから事件が巻き起こる。実はカランはビンディヤーのことを密かに恋しており、ビンディヤーに付きまとうサーヒルに対して暴行を加える。大怪我を負ったサーヒルを見たサンジューは、カランに対して復讐して瀕死の重傷を負わせる。しかしサンジューはカランがアルジュン・ラーナーの弟だとは知らなかった。カランを半殺しにされて怒ったアルジュンの部下たちは、サンジューの住むスーラジ・ナガルを焼き討ちにする。また、サンジューは自らアルジュンのもとを訪れ、リンチを受ける。 それから1ヶ月が過ぎた。サーヒルは大学を辞め、レストランで働いていた。アルジュンはスーラジナガルをすぐに復興させ、サンジューは以前の通りメカニックの仕事をしていた。ところがサーヒルとビンディヤーの恋愛は終わっておらず、遂にサーヒルは兄のサンジューにビンディヤーを引き合わせる。サンジューも2人を祝福する。 しかし退院したカランは黙っていなかった。カランは自分の退院パーティーを口実にビンディヤーを人気のない教会に呼び出し、プロポーズする。ビンディヤーが断ると、カランは怒って無理矢理彼女に結婚をOKさせようとする。そこへサーヒルが現れ、2人は殴り合いのケンカをするが、カランがサーヒルを血まみれにする。だが、カランの強引なやり方をアルジュンはよく思っていなかった。サンジューと共に教会に駆けつけたアルジュンたちだったが、カランはそれを見るとまるで狂人のようになり、ビンディヤーを盾に、尊敬する兄アルジュンにすら銃口を向ける。アルジュンは仕方なくカランを撃ち殺す。
心優しいが怒ると怖いマフィアと、チンピラのボスみたいな庶民との間のケンカが描かれた暴力映画の割には、恋の三角関係を軸とした人間関係の絡み合いが最大のテーマとなっている、ちょっと変わった映画だった。主演男優の四人は皆、血の似合う武闘派男優。しかし殴り合いのシーンでごり押しする映画ではなく、あくまで人間のドラマを俳優の演技力で魅せていく映画だった。
まずキーポイントとなるのは、アルジュン、カラン、ビンディヤーの兄弟が、お互いに血のつながりのないこと。これにより、カランとビンディヤーの恋愛が正当化される。また、アルジュンもサンジューも、兄弟を何より大切にする性格であることも重要である。サンジューはアルジュンを尊敬していたが、サーヒルとビンディヤーの恋愛を成就させるため、アルジュンとの決闘も辞さない構えを取る。そして後半で急にクローズアップされるのが、カランのプッツンぶり。ビンディヤーへの恋は、サーヒルに対する殺意に変わり、最終的にはアルジュンに対してすら銃を向けるまでプッツンしてしまう。その他、脇役になるが、カランの親友ロニー(アプールヴァ)と、サーヒルの親友ビルジュ(ヴラジェーシュ・ヒルジー)も人間関係の潤滑油として無視できない役割を果たす。
この映画をただの暴力映画に貶めなかった要因のひとつは、暴力と忍耐の葛藤があったことだ。ビンディヤーは常に暴力を恐れていたが、アルジュンも自分を自制しようと努力し、サーヒルも、公衆の面前で自分を侮辱したカランに対して怒りを抑えていたし、サンジューもすぐには腕力に訴えなかった。これら主人公の自制心が、復讐が復讐を呼ぶマフィア同士の抗争という陳腐な筋に陥るのを防いでいた。唯一、カランだけが次第に暴力に訴えるようになり、自滅していく。暴力と非暴力の葛藤を象徴するシーンは、映画の冒頭で見られる。アルジュンの誕生日に、カランとビンディヤーはそれぞれプレゼントを用意する。カランは銃を、ビンディヤーは花を、兄に贈る。「どちらのプレゼントが気に入ったか?」という質問に答えて、アルジュンは、ビンディヤーのプレゼントをカランのプレゼントよりも優れていると言う。なぜなら銃は人を殺すことしかできないが、花は周囲を幸せにするからだ。また、題名の「Lakeer(線)」も、人間と人間の間の、越えてはいけない「線」という意味があるみたいだ。
サニー・デーオール、スニール・シェッティー、ソハイル・カーン、ジョン・アブラハムは、4人とも素晴らしい演技をしていたと思う。特にジョン・アブラハムは、まだデビューして1年ほどなのに、サニーやスニールといったベテラン筋肉男優に負けず劣らずマッチョな活躍をしていた。ヒロインのナウヒード・サイルスィーは、最初イーシャー・デーオールが痩せたのかと思ってしまった。目の辺りがイーシャーと似ている。イーシャーと同じく、コギャル女優という感じがしたのだが・・・。
音楽監督はARレヘマーンで、印象的な曲がいくつかあった。ダレール・メヘンディーの歌う「Nachley」、VIVAの歌う「Rozana」、シャーンとカヴィター・クリシュナムールティの歌う「Paighaam」、クナール・ガンジャーワーラーの歌う「Shehzade」などがよかった。踊りも悪くなかった。
なかなか変わったストーリーの映画で、観て損はないだろうが、必見映画というわけでもない。