Lenin (Telugu)

2.5
Lenin
「Lenin」

 2026年7月10日公開のテルグ語映画「Lenin」は、南インドのドラウパディー信仰を下敷きにして練り上げられた復讐劇である。題名は、ロシア革命の指導者ウラジミール・レーニンから来ているが、そのレーニンと直接の関係はない。南インドでは歴史上の著名な指導者や革命家の名前が好まれる傾向にあり、レーニン、スターリン、ナポレオンといった個人名が散見される。「Lenin」の主人公も、レーニンを名乗るインド人であって、ウラジミール・レーニンとは無関係である。

 プロデューサーはナーガールジュナなど。監督は「Vinaro Bhagyamu Vishnu Katha」(2023年)のムラリー・キショール・アッブール。音楽はタマン・S。主演は、ナーガールジュナと2番目の妻アマラーとの間の子アキル・アッキネーニ。親の七光りがあったものの、2015年の本格デビュー以来なかなかヒットに恵まれず、「Most Eligible Bachelor」(2021年)でようやく興行的な成功を経験した。ヒロインは、「Chandu Champion」(2024年)などに出演のバーギヤシュリー・ボールセー。

 他に、プラモード・パンジュ、ラメーシュ・インディラ、イーシュワリー・ラーオ、ラーンキー、シヴァージー、スニール、ブラフマージー、ラヴィ・マリヤー、ゲットアップ・シュリーヌ、シュラヴァニー・レッディーなどが出演している。

 1976年、アーンドラ・プラデーシュ州チットゥール県シュリーラームプラム村では、ドラウパディー女神を祀る18日間の大祭バーラタム・ミッタ祭が開催されようとしていたが、誰が祭りの開始を告げる旗を掲げるかで揉めていた。そこへ現れた孤児レーニンが勝手に旗を揚げると、雨が降り出す。村の顔役であるジャヤンティー(イーシュワリー・ラーオ)はレーニンを気に入り、育てることにする。ジャヤンティーの実の息子ヴァサントとは兄弟同然の仲になった。

 1989年、成長したレーニン(アキル・アッキネーニ)は、バーラタム・ミッタ祭で旗揚げを担当していた。地元選出の州議会議員ラーガヴァ・レッディー(ラメーシュ・インディラ)は自身の巨大なカットアウトを祭り会場に立てようとするが、レーニンがそれを拒絶し、倒してしまう。このとき、レーニンはバーラティー(バーギヤシュリー・ボールセー)と出会い、恋に落ちる。バーラティーは、ジャヤンティーの兄ニーラカンタム(ラーンキー)の娘で、マドラスで学んでいた。バーラティーはレッディーの手下ダモーダラン(ブラフマージー)やトゥラスィーに誘拐されるが、レーニンは彼女を救出する。マドラスで医学を修め帰郷したヴァサント(プラモード・パンジュ)もレーニンに加勢した。ヴァサントはシュリーラームプラム村に病院を建て、その開所式で、招待したレッディーを侮辱する。

 バーラティーにはヴァイデーヒー(シュラヴァニー・レッディー)という姉がいた。ジャヤンティーとニーラカンタムは、ヴァサントとヴァイデーヒーの結婚を決める。だが、ヴァイデーヒーは恋人と駆け落ちし姿をくらましてしまう。そこでバーラティーはヴァサントがバーラティーと結婚することを認める。レーニンは、大恩のあるジャヤンティーや親友のヴァサントに反対できなかった。だが、結婚式の日、バーラティーはレーニンと結婚したいと言い出す。ヴァサントはバーラティーをレーニンのところへ連れて行く。だが、そのときヴァサントは何者かに襲われ負傷する。バーラティーはヴァサントを病院に連れて行き、レーニンは刺客を倒す。

 ジャヤンティーには腹違いの弟エティラージュル(シヴァージー)がいた。エティラージュルは妾の子だったため差別されており、結婚できず独身だった。彼は周囲を見返すため、バーラタム・ミッタ祭の主役ダルマラージュの座を狙っていた。エティラージュルは、ジャヤンティーがヴァイデーヒー暗殺を主導したのを知り、ジャヤンティーを追い落とすネタを掴んでいた。後はヴァサントさえ消し去れば、彼がダルマラージュになるのを止められる者はいなかった。ヴァサントとバーラティーの結婚式の日に彼に刺客を送ったのもエティラージュルだった。エティラージュルは、ラーガヴァ・レッディー、トゥラスィー、ダモーダランと密約を結び、協力してヴァサントを暗殺することにする。ところがヴァサントはその計画を事前に掴んでおり、彼らを逆に仲間に引き入れる。実はヴァサントはかなり前からバーラティーに片思いしており、マドラス時代にもストーカーをしていた。ジャヤンティーにヴァイデーヒー暗殺をけしかけたのも彼だった。だが、公衆の面前でレーニンへの愛を暴露したバーラティーを恨むようになり、彼女が一番幸せなときに彼女を殺す計画を立てていた。最近、バーラティーの妊娠が分かった。今こそ彼女を殺すときであり、ヴァサントはラーガヴァ・レッディーたちに協力を求めた。

 バーラタム・ミッタ祭の最終日となった。ヴァサントはレーニンの友人たちをほぼ皆殺しにし、ムラリー(ゲットアップ・シュリーヌ)だけを残す。妻を人質に取られたムラリーはレーニンの目に化学物質を投げつけ視力を失わせる。レーニンはヴァサントと手下たちに囲まれる。レーニンが闇雲に刀を突き刺すと、それはバーラティーに刺さっていた。バーラティーはレーニンの腕の中で息を引き取る。その後、レーニンは逮捕され、完全に視力を失った。

 2001年、パールタサラディー刑務所長(スニール)はレーニンの早期釈放を決める。レーニンはカンナイヤーという名前の犬と共にシュリーラームプラム村へ赴く。彼はまず、エティラージュルを血祭りに上げ、次に酒場でトゥラスィーやその仲間たちを殺す。彼は盲目ながらわずかな物音を察知して攻撃や防御をする術を身に付けていた。そして、そこにやって来たヴァサントと死闘を繰り広げ、最後に彼をめった刺しにする。村人たちは血まみれになって倒れたレーニンをドラウパディー女神寺院へ運ぶ。

 物語の中で「現代」になっているのは2001年、妻バーラティーを殺してしまい服役していた主人公レーニンが刑務所から釈放されたときである。そして、レーニンとは何者なのか、なぜ彼が刑務所に入っていたのかなどが回想シーンによって説明されるのだが、過去のシーンは1976年と1989年に分かれている。1976年は、舞台となるシュリーラームプラム村に孤児の少年レーニンが現れた年であり、プロローグに近い。メインとなるのは1989年だ。この年、レーニンは地元政治家の横暴をはねのけ、バーラティーと結婚し、そしてバーラティーを自らの手で刺し殺してしまうというドラマがあった。そして、1989年の恨みをレーニンが晴らすのが2001年となる。

 では、復讐の相手は誰なのか。それが「Lenin」最大のサスペンスとなる。当初、悪役として、州議会議員のラーガヴァ・レッディー、賭博師のダモーダラン、チンピラのトゥラスィーなどが顔を出すのだが、実は彼らは悪の親玉ではない。バーラティーの死の原因となったのは、なんと少年時代から兄弟同然に育ったヴァサントであった。ヴァサントはバーラティーに片思いしており、それを拒絶されたことで、彼女を殺そうとしたのだった。彼の怒りはバーラティーと結婚したレーニンには向かわず、バーラティーに向かったという設定だった。

 一度はバーラティーをレーニンに潔く譲って男気を見せたはずのヴァサントが、実はそのことを深く根に持っていたというのは意外であったし、その恨みの矛先がレーニンではなくバーラティーの方に向くというのも違和感があったが、それ以外にもかなり無理のある展開が続き、納得感を持って咀嚼するのが難しい映画だった。インド映画にはよく孤児の主人公が登場するが、実はすごい人物の子供だったというのがお約束になっている。それにもかかわらずレーニンはずっと孤児のままであり、肩透かしであった。妾の子であるエティラージュルの立ち回りは非常に重要だったが、彼の劣等感をもっと時間を掛けて熟成するべきだったと感じたし、そのためにはヴァサントの母親ジャヤンティーの人物描写ももっと深める必要があった。人間関係を複雑にしすぎていて、2時間半の上映時間の中で消化し切れていなかった。

 映画の冒頭では「マハーバーラタ」の中の1エピソードが語られる。それは、パーンダヴァ五王子が13年間の追放生活を送っていたときの13年目のことで、彼らは身分と正体を隠してマツヤ国に潜伏していた。もし正体がばれたら、決まりにより、また追加で12年間の追放生活を送らなければならなかった。パーンダヴァ五王子のライバルであるカウラヴァ百王子の長男ドゥリヨーダナは、パーンダヴァ五王子がマツヤ国にいるのではないかと疑い、軍勢を差し向ける。マツヤ国のヴィラータ王は息子のウッタラを送って迎撃するが、ウッタラの御者を務めたパーンダヴァ三男アルジュナの活躍によりカウラヴァ軍を敗走させる。戦勝の報告を聞いたヴィラータ王は喜ぶが、パーンダヴァ長男ユディシュティラはアルジュナの活躍だと言ったため、ヴィラータ王は怒って彼の顔にサイコロを投げつけた。ユディシュティラの額にサイコロが当たり、血が流れ落ちたが、妻ドラウパディーはそれが地面に落ちないように受け止めた。そして、マツヤ国に帰還しようとしていたアルジュナにユディシュティラの傷を見せないように配慮した。アルジュナは、ユディシュティラを傷付けた者を皆殺しにすると誓っていたからであった。

 以上が「マハーバーラタ」該当箇所の一般的な内容だが、「Lenin」では、チットゥール県で祝われるドラウパディー女神祭の伝承も混ぜ込まれていた。ユディシュティラは王族であり、彼の血は特別だった。もし彼の血が地面に落ちたら、一滴ごとに一年間の干魃が起こることになっていた。ドラウパディーはそれを防ぐため、ユディシュティラの額からしたたり落ちる血が地面に落ちないように受け止めたのだった。それを感謝するため、当地ではマハーバーラタ戦争の期間と同じ18日間、ドラウパディー女神を祀るバーラタム・ミッタ祭が行われているという。この祭りの期間、最大のタブーとなっているのは、血を地面に落とすことだった。祭りの最中に争い事は厳禁だった。

 ところが、「Lenin」ではまさにこの祭りの最中に血生臭い殺し合いが起こる。血を地面に落としてはいけないはずだが、かなりの数の血が地面に落ちたはずである。自分でタブーを設定しておいて、それが守られておらず、さらに守られなかったからといって特に何も起こらないという謎の展開だった。

 「マハーバーラタ」を熟知している人ならば、「Lenin」からはさらに多くの「マハーバーラタ」オマージュを見つけることができるだろう。たとえば中盤、刺されたヴァサントを救おうと、レーニンが車輪を持ち上げて敵と戦う場面があるが、これはアルジュナの息子アビマンニュがチャクラヴューハ(円陣)に突入した後、脱出できなくなり、取り囲んできた敵たちに対して、車輪を武器にして戦った場面と重なる。

 「Lenin」は、テルグ語映画界のスーパースターの一人ナーガールジュナが、息子のアキル・アッキネーニをスターダムに押し上げるためにプロデュースしたハイボルテージのアクション映画だ。典型的なスター中心映画で、アキル演じる主人公レーニンの出現から台頭、没落から再起までを描いているが、主役よりも脇役キャラにもっと時間を割いた方が深みが出た脚本だと感じた。興行的にも大きなヒットにはなっていないが、市場からのこの評価は妥当だと感じる。