Sumo Didi

3.0
Sumo Didi
「Sumo Didi」

 「Sumo Didi」は、2023年10月27日に東京国際映画祭でプレミア上映されたヒンディー語映画である。実在するインド人初の女性相撲力士ヘータル・ダヴェーを主人公にした伝記スポーツ映画だ。博報堂のグループ会社インドMA&TH Entertainment Networkがプロデュースした。映画再上映時の邦題は「相撲ディーディー」だった。「Didi」とは「お姉さん」という意味だ。インドでは2026年10月23日からZee5で配信開始された。

 監督は新人のジャヤント・ローハトギー。音楽はアマル・マングルールカル。キャストは、シュリーヤム・バグナーニー、チャイタニヤー・シャルマー、ニテーシュ・パーンデーイ、アヌバー・ファテープリヤー、ラーガヴ・ディール、ミーナル・カプール、佐藤和政(豊後錦政之進)、スチター・トリヴェーディー、カイザード・コートワール、ディヴィヤーシャー・ダース、ランジニー・ゴーシュなどである。

 コールカーター在住のヘータル・ダヴェー(シュリーヤム・バグナーニー)は思春期頃から急激に太り、父親ラージェーンドラ(ニテーシュ・パーンデーイ)の勧めで柔道を始め、州チャンピオンになった。だが、母親のスダー(アヌバー・ファテープリヤー)は娘のその業績も喜んでおらず、ダイエットさせて早く結婚させたがっていた。

 ある日、コールカーターに元横綱のタオシ(佐藤和政)がやって来て相撲を披露する。太った人物が尊敬されるのを見て感銘を受けたヘータルは力士になることを決め、幼馴染みのアクシャト・シャルマー(チャイタニヤー・シャルマー)をトレーナーに付けて訓練を始める。苦労してスポンサー(カイザード・コートワール)を見つけ、台湾で開催された国際試合に出場する。初戦でモンゴル代表を破り一躍注目されるが、2戦目では敗北し、その後も国際試合で敗北を重ねた。

 ヘータルはタオシから専門的な訓練を受ける必要性を感じ、アクシャトはタオシと連絡を取ろうとする。タオシはヘータルを日本に呼び、個人的に訓練をする。ヘータルは香港で行われた国際試合に出場し、インド人女性力士としては初めて銅メダルを勝ち取る。

 まず、相撲映画やスポーツ映画という観点からこの映画を分析する前に、「Sumo Didi」は、肥満など身体的コンプレックスを抱えた女性の物語であるということがいえる。特に取り上げられていたのは肥満であった。どこの国でもそう変わりないと思われるが、「サイズ・ゼロ」がもてはやされるインドにおいても、肥満体型の女性は子供時代には周囲からからかいの対象になり、結婚適齢期になると結婚相手がなかなか見つからないという苦労をする。「Sumo Didi」の主人公ヘータルも、PCOD(多嚢胞性卵巣疾患)によるホルモン異常によって思春期から急速に太り始めた。ちなみに、太った女性が主人公の映画としては、過去に「Dum Laga Ke Haisha」(2015年)、「Fanney Khan」(2018年)、「Double XL」(2022年)などがあった。

 ただ、ヘータルの場合は、本人が自身の体型をコンプレックスとして抱えていたというよりも、母親が彼女に劣等感を植え付けていたところがある。母親は肥満体型の娘の行く末を案じ、痩身効果のあるものなら何でも試させた。ヘータルはそんな母親の押しつけに辟易していたのである。ヘータルには父親と兄弟がいたが、家族の男性メンバーは意外にヘータルのことを理解しており、協力的だった。また、幼馴染みのアクシャトもヘータルの良き理解者であった。監督と脚本家が男性であることとも関係しているのかもしれないが、「Sumo Didi」においてヘータルの劣等感を刺激するのはほとんどが女性である。

 父親の勧めによりヘータルは柔道を始め、州チャンピオンにまで登り詰める。だが、柔道には体重によって階級があり、体重の管理が重要で、それが育ち盛りのヘータルには負担になっていた。そんな彼女が出会ったのが相撲であった。日本からやって来た元横綱タオシが、太っているにもかかわらず周囲から尊敬を受けているのを見て、肥満でも尊敬を勝ち取れると感動し、自身も力士になろうと決意するのである。

 もちろん、インドにおいて相撲はほとんど普及していない。日本で、インドのクシュティーと似たスポーツが国技になっていることは、多くのインド人はよく知っている。また、ターター社が「Sumo」というSUV車を長らく販売しているので、「Sumo」という名前も知れ渡っている。だが、インドでいざ相撲取りになろうと決意したとしても、一体どうやって相撲取りになればいいのか。ただ、最近はインターネットなどもあるので、以前よりは不可能が可能になっているのかもしれない。ヘータルはアクシャトと共に見よう見まねで訓練を始め、苦労の末にスポンサーも見つけて、国際試合にインド代表として出場し、初戦で勝利を収めるのである。ここまでは一本調子なサクセスストーリーであった。

 ただ、その後ヘータルは全く勝てなくなる。柔道チャンピオンであり、体重もあり、力もあったが、相撲の専門的な訓練は受けていなかったので、技術力で他の代表選手に比べて圧倒的に劣っていた。そこでヘータルは元横綱タオシから直々に手ほどきを受けることになる。その訓練方法は、技術的なものというよりは精神的なものだった。タオシはヘータルに、土俵の掃き掃除をさせ、太鼓の音を数えさせた。それでもヘータルは黙々と鍛練を続け、とうとう精神的に準備が整った。その段階で初めてタオシはヘータルに技術を教えた。

 生まれ変わったヘータルは国際試合で勝ち進むが、準決勝戦でロシア代表に敗れ、3位決定戦に回る。そこで台湾代表に勝利し、インド人女性力士としては初めてのメダルとなる銅メダルを獲得したのである。

 「Sumo Didi」は日本ロケが行われたインド映画のひとつでもある。日本ロケのシーンは全体の4分の1にも満たないが、千葉県香取市の佐原を中心に撮影が行われたようである。

 「Sumo Didi」は、インド人女性として初めての相撲の国際試合でメダルを勝ち取ったヘータル・ダヴェーの苦闘を描いたスポ根映画である。インド社会において何かと制約の多い女性が自らのコンプレックスを強みに変え、夢をかなえる過程が描かれており、非常に刺激的な作品だが、純粋に映画としては一本調子で特筆すべきことはない。インド人女性が相撲に人生を捧げるという筋書きが日本人にとって興味深いことは確実だが、映画としての完成度は高くない。そんな作品である。