
2024年9月15日にSony Maxで放映された「Adbhut」は、探偵映画とホラー映画が融合したようなミステリー映画である。題名の「Adbhut」とはヒンディー語では「अद्भुत」と書き、「素晴らしい」というような意味である。
監督は「Baaghi」(2016年)や「Munna Michael」(2017年)などのサッビール・カーン。主演はナワーズッディーン・シッディーキー。他に、ダイアナ・ペンティー、シュレーヤー・ダンワンタリー、ヒマーンシー・パラーシャル、ローハン・メヘラー、プラディープ・クマール、ヴィクラム・ゴーカレーなどが出演している。
探偵ガジラージ・アワスティー(ナワーズッディーン・シッディーキー)は、シムラー近くの町アナントヴァンに住む医師アーディティヤ・ラーワト(ローハン・メヘラー)から依頼を受ける。若くしてグッドライフ病院の院長を務めているアーディティヤは、最近シムラーからアナントヴァンに妻シュルティ(シュレーヤー・ダンワンタリー)と共に引っ越してきたが、それ以来、彼らの周辺で異変が起こるようになったのである。急に周囲の電灯が点滅し始め、アーディティヤやシュルティを目がけてさまざまなものが飛んでくるようになった。それはアワスティーの目の前でも起こった。
アワスティーは、メアリー・マシューズ(ダイアナ・ペンティー)という女性が何か鍵を握っていると直感し、弟子のソーヌーに調査を命じる。メアリーは障害者のためのNPOアーシャー・ファウンデーションで働く信心深いキリスト教徒女性であった。ただ、アーディティヤもシュルティもメアリーに心当たりはなかった。彼女の写真を見せられたアーディティヤは、彼女はアンジャリ・マロートラーだという。
アンジャリは、裕福な実業家ラーケーシュ・マロートラーの娘だった。アワスティーはアンジャリの父親や友人に聞き取り調査をし、彼女が2年前に交通事故に遭い、重傷を負って、それから人が変わってしまったとの情報を得る。彼女が手術を受けたのはグッドライフ病院で、彼女を手術したのはアーディティヤだった。アワスティーはやはり何らかの関係があると勘付く。アワスティーがアーディティヤをメアリーと引き合わせてみると、メアリーは豹変し、超自然的な力を使ってアーディティヤを殺そうとした。アワスティーは何とか彼女を止めた。
アワスティーは、事故の記録や病院のカルテを捜査し、とうとう真実を突き止める。2年前、アンジャリは交通事故に遭い、グッドライフ病院に担ぎ込まれた。既に心肺停止しており、駆けつけたラーケーシュに対しアーディティヤはお手上げだと答えた。だが、当時同じ病院で医師をしていたシュルティは、植物人間状態になって長らく入院していた女性エイミー・R・マシューズを安楽死させ、彼女の心臓をアンジャリに移植することを提案する。ラーケーシュは娘を助けるためには何でもすると言う。アーディティヤは妻の言う通りにし、エイミーの心臓をアンジャリに移植した。だが、それ以来、アンジャリは慈悲深い性格だったエイミーのような行動を取るようになったのだった。そして、殺されたエイミーの亡霊が彼女を突き動かし、アーディティヤ、シュルティ、ラーケーシュに復讐しようとしていたのだった。
アーディティヤ、シュルティ、ラーケーシュの3人がそろっているのを見たアンジャリはエイミーに憑依され、彼らを攻撃し、シュルティを殺そうとする。アワスティーは、エイミーの両親を連れてきて、彼女をなだめる。通報を受けた警察がやって来て、アーディティヤ、シュルティ、ラーケーシュを逮捕した。
半年後、妊娠していたシュルティは出産し、服役中の彼女たちに代わって、アワスティーがその子供を育てることになった。
ポスターなどからホラー映画であることは分かるのだが、幽霊が出てくる系なのか、それとも実は幽霊などは最初から存在せず、全てを幻想、妄想、思い込みでまとめるサイコスリラーなのか、終盤に差し掛かってもどっちつかずではっきりしない。また、主人公のアワスティーは人並み外れた推理力を持った名探偵という設定なのだが、途中で透視能力のようなものを持っているような描写もあり、彼の推理力が果たして高い知能や鋭い観察力から来るものなのか、それとも超能力の一種なのか、これもいまいちはっきりしなかった。顧客のアーディティヤやシュルティの周辺で超常現象が起きている原因については理にかなったものだったので良かったのだが、ジャンルの確定がここまで先延ばしにされると落ち着かなかった。
おそらくこの映画は、この種のホラー映画、サスペンス映画、スリラー映画などをよく観ている人に向けて作られたのだと思われる。ストーリーの細かい部分から、定型を逆手に取って観客を惑わそうとする意図を強く感じたからだ。
たとえば、シュルティの妊娠が分かる場面がある。夫のアーディティヤはいつ彼女と性交をしたのか記憶にないという。彼女の妊娠が、彼らの身の回りに起こっている超常現象と何か関係あるのではないかと考えるのが普通だ。だが、実はあまり関係ない。アーディティヤの浮気も指摘されており、これも超常現象の原因として大いに関係がありそうだが、やはり本筋とは関係がなかった。
もっとも事件の真相につながりそうだったのは、アンジャリの整形である。アンジャリは交通事故に遭った後、顔を怪我し、ロサンゼルスで整形手術を受けた。観客は、手術によってアンジャリの顔が変わってしまったと早とちりする。ただでさえ、アンジャリを「メアリー」と呼ぶアナントヴァンの人々もいて、彼女のアイデンティティーは謎に包まれている。そこに、整形によって顔が変わったという情報が追加されることで、では本当のアンジャリは誰なのかという疑問が浮かぶ。シュルティが実はアンジャリという可能性まである。ただ、やっぱり整形も真相につながるものではなかった。
このように、一本筋ではなく、所々に推理モノの映画や小説が好きな人ほど引っ掛かるような引っ掛け要素をちりばめてあちこち振り回していたところは巧妙だった。
ヒンディー語映画界切っての演技派男優ナワーズッディーン・シッディーキーは今回も素晴らしい演技を見せていた。「Adbhut」で新たな挑戦をしていたのはダイアナ・ペンティーだ。「Cocktail」(2012年/邦題:カクテル 友情のトライアングル)でデビューし注目を集めたが、それ以来あまりいい映画に恵まれていない。だが、「Adbhut」では中心的な役柄を演じ、存在を印象づけた。もう少し粘り強く女優業を続けてほしいものである。
「Adbhut」は、名優ナワーズッディーン・シッディーキーを主演に据えた探偵映画兼ホラー映画だ。大筋はうまくまとまっていたし、仕掛けも巧みだったが、ジャンルの方向性確定がとても遅く、どうも落ち着かない時間帯が長かった。ホラー映画ならホラー映画と遅くても中盤くらいに提示してほしいし、幽霊の存在を認めないリアリズム重視の探偵映画ならそういうまとめ方もできたが、どっちつかずのままズルズルと終盤まで来てしまうのである。それに目をつむれば、悪くない作品だった。
