Hero (1983)

4.0
Hero
「Hero」

 21世紀のインドに一大バイクブームを巻き起こしたのは「Dhoom」(2004年)だが、その20年前に一本のバイク映画が存在した。スバーシュ・ガイー監督、ジャッキー・シュロフ主演の「Hero」である。

 1983年12月16日に公開されたこのロマンス・アクション映画では、印エスコーツ社がヤマハ発動機から技術供与を受け、日本で販売されていた名車Yamaha RD350Bをベースに作られたYamaha Rajdoot 350が大々的に使用された。「Hero」はブロックバスターヒットになり、デビューしたばかりだったジャッキーは一躍若者のアイコンとなって、彼が映画で乗り回していたYamaha Rajdoot 350も憧れの対象になった。ただし、排気量350ccのYamaha Rajdoot 350は一般人には高価格であり、人気は集めたが売上には直結しなかった。むしろ、その後に発売されたInd-Suzuki AX100、Hero Honda CD100、Yamaha RX100といった排気量100cc以下の小型バイクがこの時代のバイク人気を牽引した。

 「Hero」の頃のスバーシュ・ガイー監督は既に「Kalicharan」(1976年)や「Karz」(1980年)を当てており、売れっ子映画監督になっていた。音楽監督はラクシュミーカーント=ピャーレーラールで、作詞はアーナンド・バクシーである。

 主演のジャッキー・シュロフは「Swami Dada」(1982年)で端役を演じただけの無名俳優だったが、ガイー監督に大抜擢された。彼は「Hero」で本名を「ジャイキシャン」、ニックネームを「ジャッキー」という役を演じるが、これらは彼の本名およびニックネームそのままである。

 ジャッキーの相手役を務めるヒロインは「Painter Babu」(1983年)でデビューしたばかりのミーナークシー・シェーシャードリ。彼女は「Hero」の成功によりスターダムを駆け上がり、1980年代から90年代前半を代表するスター女優になった。

 他には、サンジーヴ・クマール、ニーター・メヘター、シャンミー・カプール、アムリーシュ・プリー、マダン・プリー、ビンドゥー、バーラト・ブーシャン、シャクティ・カプール、ウルミラー・バットなどが出演している。

 密輸王パーシャー(アムリーシュ・プリー)は逮捕され、元警視総監のシュリーカーント・マートゥル(シャンミー・カプール)は彼を死刑にするため法廷で証言しようとしていた。パーシャーはそれを阻止するため、子飼いのチンピラ、ジャッキー(ジャッキー・シュロフ)は、ジャナマーシュトミー祭の日にカンダーラーで家族と過ごしていたシュリーカーントを脅し、彼の娘ラーダー(ミーナークシー・シェーシャードリ)をチンピラ仲間と共に誘拐する。ただ、ラーダーは彼らのことをチンピラから守ってくれる警察官だと勘違いしていた。

 ジャッキーとラーダーは共に過ごす内に恋仲になる。ジャッキーはラーダーに正体を打ち明け、ラーダーはジャッキーに自首を勧める。ラーダーの言うことに従いジャッキーは警察に自首し、ラーダーは家に戻る。パーシャーは脱獄し、シンガポールに高飛びする。

 ジャッキーには2年間の懲役刑が言い渡され、模範囚だったために1年半の刑期を終えて釈放された。ジャッキーが服役している間、シュリーカーントはラーダーを、シンガポールからやって来たジミー・ターパー(シャクティ・カプール)と結婚させようとしていたが、ラーダーは拒否していた。シュリーカーントは、かつて娘を誘拐したジャッキーを娘の結婚相手とは絶対に認めようとしなかったが、ラーダーの兄ダーモーダル(サンジーヴ・クマール)は、ラーダーがジャッキーのことを真剣に愛しているのを知り、彼女に協力するようになる。ジャッキーはダーモーダルの紹介によりバラト(マダン・プリー)の経営するバイク工場で働き出し、真面目な働きぶりが評価され出世する。ジャッキーはYamaha Rajdoot 350を乗り回すようになる。

 ジャナマーシュトミー祭の日、ジャッキーはマートゥル家を訪れ、シュリーカーントにラーダーとの結婚を認めてもらおうとするが、シュリーカーントは彼を侮辱して追い出す。ジャッキーはラーダーを置いて出て行く。だが、ジミーがパーシャーとつながりのある犯罪者であることが分かり、シュリーカーントはラーダーの結婚式を中止する。パーシャーは亡命先のシンガポールからボンベイに戻ってきて、宿敵シュリーカーントと裏切り者ジャッキーを殺そうとする。ジャッキーはパーシャーの部下たちにリンチされ、瀕死の重傷を負い、入院する。そして、ラーダーは叔母のジャムナー(ビンドゥー)と共にジミーに拉致される。ラーダーはジャッキーが死にかけていることを知り、彼の命を助けるために、ジミーの言うことを何でも聞くことになる。ジャッキーのチンピラ仲間たちは、シュリーカーントを連れてパーシャーのアジトへ行く。変装したダーモーダルも同行した。

 復活したジャッキーはバイクに乗ってパーシャーのアジトに突入し、ジミーからラーダーを救い出す。そして、殺されそうになっていたシュリーカーントを助け、パーシャーを窓から投げ落とす。血まみれになったパーシャーは逃げようとしていたラーダーを捕まえ、海に投げ落とし、ジャッキーは後を追って海に飛び込む。

 ジャッキーはラーダーを救いだし、シュリーカーントのところへ連れて行く。シュリーカーントはジャッキーの愛と勇気に感服し、娘の結婚相手として認める。

 細かい部分が雑だったが、ロマンス、ファイトや豊富なダンスシーンに加え、バイクを使ったアクションやレースが盛り込まれていてユニークであり、マサーラー映画の名に恥じない、観客をひとときも飽きさせない作りになっていた。娯楽映画の名手スバーシュ・ガイー監督らしい作品だ。

 雑然としていた大きな理由は、キャラが多すぎたことであろう。たとえばパーシャーは、悪役の親玉のはずだが冒頭から逮捕されていてあまり凶悪さを発揮できておらず、最後まで見せ場を作れていなかった。主人公ジャッキーの恋敵であるジミーも行動がいまいちよく分からないキャラだし、ダーモーダルも中途半端な役回りだった。映画を撮っている内にキャラやストーリーがどんどん変化していったのか、それとも脚本がないまま撮影を始めてしまったのか、そんな裏事情をあれこれ推測したくなってしまう作りだった。それでも何とかまとまっていたばかりか面白い作品になっていたのは、ガイー監督の底力の現れなのだろう。

 味付けによっては殺伐とした映画にもなっていただろうが、不思議なほど雰囲気は明るい。太陽のように映画全体を照らしていたのは、ヒロインのラーダー役を演じたミーナークシー・シェーシャードリだ。特に序盤は彼女を中心に物語が動く。チンピラから誘拐されたのに、天性の天真爛漫さを振りかざしてチンピラたちを魅了し、ジャッキーを虜にしてしまう。ちょっとしたお色気シーンもあれば、持ち前の古典舞踊の素養を生かし、各ダンスシーンで見事な踊りも披露していて、彼女に引き付けられるのは決してスクリーン内のチンピラたちに限らない。「Hero」のブロックバスターヒットに彼女の存在も大きく貢献したであろうことが容易に推測できる。

 そして、まだ駆け出しの俳優だったジャッキー・シュロフも堂々とした演技をし、早くもスターの風格を見せている。チンピラ「ジャッキー・ダーダー」から、好青年「ジャイキシャン」への早変わりも彼の守備範囲の広さを披露するのに役立った。また、チンピラでありながら、ラーダーとの駆け落ちを選ばず、あくまで彼女の父親に結婚を認めてもらおうとする姿は、インド映画の良心を体現していて、好感が持てる。

 「Ding Dong」や「Tu Mera Hero Hai」など、ウキウキするような楽しい曲も多いのだが、「Hero」のサウンドトラックで秀逸なのは「Lambi Judaai」や「Pyar Karne Wale Kabhi Darte Nahin」などの恋心を歌った曲だ。ストーリーとシンクロしシナジー効果を生み出す挿入歌の使い方はさすがの一言である。

 劇中に小道具としてビデオが最新技術として登場していた。重傷を負って入院しているジャッキーの姿をビデオで録画し、それをジミーがラーダーに見せていた。インドでビデオ機器の輸入規制や関税が大幅に緩和されたのは1982年だったため、まさに当時のインド人にとっては時代の最先端だったのである。

 「Hero」は、娯楽映画の名手スバーシュ・ガイー監督の手腕が光る秀逸なマサーラー映画であると同時に、ジャッキー・シュロフとミーナークシー・シェーシャードリの出世作でもある。バイクを前面に押し出し、当時のインドの若者たちにバイク熱を植え付けた功績も無視できないが、この映画で大々的にフィーチャーされたYamaha Rajdoot 350の売れ行きはかんばしくなかった。同バイクは間もなく絶版になってしまうが、この映画にはしっかり焼き付けられており、映画と共にカルト的な人気を博している。