Sardar (Tamil)

3.0
Sardar
「Sardar」

 2022年10月21日公開のタミル語映画「Sardar」は、中華人民共和国の支援を受けた民間企業による水道支配の恐怖を主軸にしたスパイ&ポリス・アクション映画である。題名の「サルダール」は一般に「首領」「大将」を意味するが、ここでは最強のスパイに与えられたコードネームになっている。

 監督は「Hero」(2019年)のPSミトラン。音楽はGVプラカーシュ・クマール。主演は「Kaithi」(2019年/邦題:囚人ディリ)のカールティで、一人二役を演じる。ヒロインはヒンディー語映画「Madras Cafe」(2013年)でデビュー以来、南インド映画界で活躍してきたラーシー・カンナー。他に、ラージシャー・ヴィジャヤン、チャンキー・パーンデーイ、ライラー、ムニーシュカーント、アシュウィン・クマール、ユギ・セートゥ、アヴィナーシュ、ヨーグ・ジャピー、モハンマド・アリー・ベーグなどが出演している。

 チェンナイ在住の警察官ヴィジャイ・プラカーシュ警部補(カールティ)は常にSNSで目立つことを考えてばかりいたが、それには理由があった。彼の父親チャンドラ・ボース(カールティ)はRAWエージェントだったが、国家を裏切り国防顧問PKアブラハム(モハンマド・アリー・ベーグ)を殺害した。ボースの家族は集団自殺し、残されたヴィジャイは警察官パーヴァダイサーミー(ムニーシュカーント)に育てられた。ヴィジャイは父親の汚名を払拭するため、過剰に人助けをして人気を得ようとしていたのだった。だが、ヴィジャイの幼馴染みで弁護士のシャーリニー(ラーシー・カンナー)は、そんな彼の浅はかな行動を冷たい視線で見ていた。

 ところで、マハーラージ・ラートール社長(チャンキー・パーンデーイ)が経営する大手水道会社オアシス社は、インド全土の水源をパイプラインで結ぶ巨大事業「ワン・インディア・ワン・パイプライン」プロジェクトを実行に移していた。社会活動家サミーラー・トーマス(ライラー)はこのプロジェクトの危険性を認識し、政府に中止を求めており、彼女の弁護人をシャーリニーが務めていた。だが、裁判所はサミーラーの訴えを棄却した。

 サミーラーは抗議活動の混乱に乗じてラージャージー・バヴァンの地下から極秘ファイルを盗み出し、行方をくらます。ヴィジャイは彼女の息子タミーの助けを得てサミーラーを探し出そうとするが、彼女は遺体で発見される。警察は自殺と断定したが、ヴィジャイは殺人だと考える。彼はサミーラーのPCなどから証拠を集め、「ワン・インディア・ワン・パイプライン」の陰謀について知る。

 ヴィジャイとシャーリニーは、サミーラーが会う予定だったカラパンプーチ(ユギ・セートゥ)と会おうとするが、彼は刺客に殺される。カラパンプーチの遺品からバングラデシュのチッタゴンにある刑務所の住所を見つける。タミーもその住所に赤い封筒を送っていたのを思い出す。その刑務所には、「サルダール」と呼ばれる囚人が32年間服役していた。サルダールは、タミーから送られた封筒に入っていた「ラフィング・ブッダ」の絵を見て覚醒し、脱獄する。また、ヴィジャイはカラパンプーチのSIMカードから廃ガソリンスタンドの地下にある隠れ家を特定し、そこで極秘ファイルを見つけ出す。

 そのファイルには、「サルダール」と呼ばれるRAWエージェントの秘密が記されていた。サルダールはヴィジャイの父親であった。彼は、普段は劇団員をしながら、当時はRAWのエージェントだったラートールの指令があるとミッションを遂行していた。彼はパーキスターンでの作戦において、中国がインドの水資源を支配しようとしていることを察知し、また、中国との内通者「ラフィング・ブッダ」がアブラハム国防顧問であることも突き止める。ラートールはサルダールにアブラハム暗殺命令を出す。サルダールは、国防顧問を暗殺することで永遠に売国奴の汚名を着ることを理解しながら作戦を実行する。ところがラートールは中国からラフィング・ブッダに支払われる予定の裏金に目がくらみ、アブラハムの死後にRAWを辞し、自ら新しいラフィング・ブッダとなって中国側に寝返った。ラートールはオアシス社を立ち上げ、「ワン・インディア・ワン・パイプライン」プロジェクトを推し進めた。

 インドに上陸したサルダールは、サミーラーを影で操っていたヴィクター(アヴィナーシュ)に扮してRAWの南インド支部に潜入し、自身の無実を証明する証拠を盗む。また、ヴィジャイもパーヴァダイサーミーの裏切りにより逮捕され、同じ建物に囚われていた。サルダールはタミーと共にソディウムを満載したトラックと共に「ワン・インディア・ワン・パイプライン」の要となるダムに突入する。そして、ラートールもろとも爆破する。駆けつけたヴィジャイはサルダールと相まみえるが、サルダールは姿を消す。RAWのチャンドラ・モーハン局長(ヨーグ・ジャピー)はヴィジャイをRAWエージェントに採用し、彼をカンボジアへ送る。

 物語のスケールは壮大で、中国やパーキスターンを絡めた国際的な陰謀を背景にしている。オアシス社のラートール社長はインドの水資源をパイプラインで結ぶことで先進的な管理システムを構築する一大プロジェクトを提案し、実行に移す。このプロジェクトは「ワン・インディア・ワン・パイプライン」と呼ばれていたが、明らかに習近平主席の提唱する「一帯一路(ワン・ベルト・ワン・ロード)」のもじりであろう。だが、これは生物が生きていく上で欠かせない水を完全に支配下に置き、人々をボトルウォーターの日常的な購入なしには生活できないような状態に追い込んで巨額の利益を得ようとする恐ろしい計画であった。しかも、その裏にはインドの支配を狙う中国がいた。

 ただ、そのスケールの割には主要登場人物はサルダールとヴィジャイという父子に凝縮され、主演のカールティがどちらも演じる。サルダールは1970年代から80年代に掛けて活躍したスパイであり、ヴィジャイはSNSかぶれの警察官という設定である。そして、「運命の悪戯」という「脚本上の都合」によって、この父子はどちらも「ワン・インディア・ワン・パイプライン」の阻止に関与することになる。よって、「Sardar」は一本でスパイアクションと警察アクションの両方を楽しむことができる欲張りな作りになっている。サービス精神旺盛なインド娯楽映画の名に恥じないパッケージングである。

 ただ、それ以外にもいろいろな要素を詰め込み過ぎて収拾が付かなくなっているきらいもあった。たとえばタミー少年は、プラスチックボトルに含まれたビスフェノールA(BPA)という化学物質の影響でサルコイドーシスという難病を患い、余命が少なかった。これが原因で母親のサミーラーは「ワン・インディア・ワン・パイプライン」プロジェクト中止に向けた活動を主導していたという設定だったのだが、物語がカールティ演じるヒーローたちを中心に盛り上がっていくのと反比例してこのトピックは影に押しやられてしまった。

 肝心の「ワン・インディア・ワン・パイプライン」プロジェクトにしても、金を儲けるのが目的なのか、インドを支配するのが目的なのか、いまいち不明瞭だった。いろいろな要素が散らかってしまっていて、心をひとつの方向に向けることが難しかった。

 ストーリーの飾りとなるこれらの要素が散らかっていた一方で、ストーリーの骨格はタミル語映画の黄金パターンを踏襲していた。行方不明になった父親、トラウマを抱えて生きる息子、そして父親と息子の再会など、「Muthu」(1995年/邦題:ムトゥ 踊るマハラジャ)と同じ作りであることに気付く人は少なくないだろう。映画が始まった時点で大体の筋書きは予想できてしまった。

 「Sardar」のキャスティングには主に2点、特筆すべきことがある。まずはヒンディー語映画俳優のチャンキー・パーンデーイがタミル語映画デビューをしていることだ。チャンキーは物語進行の中心となる悪役ラートールを演じ、存在感を示していた。「ラートール」という名前も北インド的である。また、2000年代に南インド映画界を中心に活躍したライラーが16年振りに銀幕復帰を果たした。サミーラー役を演じていたのがライラーである。

 「Sardar」は、主演カールティが一人でスパイの父親と警察の息子の二役を演じ、巨悪に立ち向かう筋書きのアクション映画である。一粒で二度おいしい作りになっているのはいいが、話が分かりにくい上に、物語の骨格はタミル語映画で使い古されてきたパターンを踏襲しているだけで、爽快感や目新しさに乏しい。興行的には「スーパーヒット」とされているが、世界興行収入を総計してやっと10億ルピーを越えたくらいで、それほど大成功したとは思えない。