
「Incognite(盗撮)」は、2022年9月29日にアルバニアのティラナ国際映画祭でプレミア上映された25分ほどの短編映画である。監督・脚本は新人のラヴィ・ムッパー。エグゼクティブ・プロデューサーに、アヌラーグ・カシヤプやヴィクラマーディティヤ・モートワーネーなどが名を連ねている。
キャストは、ヴィクラム・スィン、アーユシ・ネーマー、デーヴ・チャウハーン、ラーフル・チャウダリー、カージャル・チャウハーン、アミト・クマール、ミテーシュ・シャーである。
短編映画である上に、おそらく意図的に、登場人物に名前は付けられていない。
とあるゲストハウスの受付(ヴィクラム・スィン)は、201号室の寝室とトイレに盗撮用カメラを設置し、カップルの情事を録画して、ポルノサイトにアップロードするのを趣味としていた。
あるとき、一人の男性(デーヴ・チャウハーン)と少女(アーユシ・ネーマー)が2泊3日の予定で部屋を求めてやって来る。受付は彼らを201号室に通し、早速彼らの様子を監視し始める。
どうやら少女は人身売買で連れて来られたらしく、男性は彼女に売春をさせていた。少女はトイレから逃げようとするが、高すぎて地上に降りられないようだった。受付は何とか彼女を助けたいと考える。
2日目の夜、男性がトイレに閉じこもっている時間帯があった。受付は寝室にいる少女にメッセージを渡し、トイレの外にハシゴを掛けたと伝える。少女は男性が寝ている間にトイレからハシゴをつたって地上に降りる。受付は少女を控室にかくまう。
だが、少女は受付が部屋の様子を盗撮しているのを知り、逃げ出す。男性にも受付が盗撮をしていることがばれてしまい、隙を見て首を絞められる。
隠しカメラによる盗撮は、シャロン・ストーン主演「氷の微笑」(1992年)が有名だ。インドでも、「Love Sex Aur Dhokha」(2010年)が盗撮映像を映画に取り込んでいた。よって、その点で「Incognite」に新規性はない。
25分間の上映時間の中で起こるのは、ゲストハウスの部屋に宿泊するカップルの性行為を盗撮してポルノサイトにアップロードしていた受付が、その隠しカメラによって、少女が無理やり売春させられている現場を目撃し、何とか助けようとするという出来事である。
受付は、レセプションに置かれたPCで隠しカメラが映し出すライブ映像を見て楽しんでいた。そして、いい映像が撮れるとポルノサイトにアップロードし、コメントが付くのを楽しみにしていた。いってみれば小悪党である。
そんな彼が、たまたま目撃した犯罪行為によって正義感を呼び起こされ、少女を助けようとする。少女は首尾良く脱出するが、少女を逃がしてしまった男性にとっては大失態であり、途方に暮れる。だが、その手引きを受付がしていたのに気付き、彼を絞め殺す。受付は結局、悪事の中でなまじっか善行に手を出したことで命を落とすことになった。善は善でも中途半端な善は身を滅ぼすという教訓を我々に伝えようとしたのであろうか。
セリフは必要最小限しかなく、大部分の物語が映像によって語られる。特に、受付を演じるヴィクラム・スィンの目を見開いた表情が、物語を前に進める原動力になっている。映像の力を最大限にして一本の映画を作るという挑戦を行った作品だと評価できる。ただ、救いがなく、後味は良くない映画だ。
「Incognite」は、いかにもアヌラーグ・カシヤプ好みの、キレの鋭い映像によってリアルに描写された短編映画だ。もしこの短い物語から何かメッセージを読み取るとしたら、悪因悪果はちょっとした思い付きの善行では覆らないということだろうか。
