コーター

 ヒンディー語映画を観ていて、「コーター」という言葉を聞いたことがないだろうか。ヒンディー語で書くと「कोठा」、アルファベットで書くと「Kotha」になる。これは建築様式の一種といえるが、タワーイフ(芸妓)と切っても切れない関係にある単語で、単なる建築様式ではない。コーターには一定の特徴が観察されるものの、そこにタワーイフが住み、商売をすることで初めて「コーター」が成立するといっていい。

 コーターは、デリー、ラクナウー、ハイダラーバード、ラホールなど、ムガル朝時代に宮廷文化が栄えた都市で特に盛んに建てられることになった。これらの都市には「花街」があり、タワーイフの住むコーターが集まる一角があった。たとえば、デリーのチャーウリー・バーザールやラホールのヒーラーマンディーが有名だ。

 典型的なコーターは2階建てである。上階にはバルコニー付きの広々とした大広間があり、その床には白い敷物や豪華なガウタキヤー(ボルスタークッション)が置かれ、そこでパトロンをもてなす「メヘフィル(Mehfil)」と呼ばれる宴が開かれた。メヘフィルの目玉は「ムジュラー(Mujra)」だが、これはタワーイフによる舞踊パフォーマンスである。1階部分は居住空間になっていることが多い。

 タワーイフは、古典舞踊「カッタク(Kathak)」、抒情詩「ガザル(Ghazal)」、歌唱「トゥムリ(Thumri)」などの高度な訓練を受けた一流の芸術家でありパフォーマーであった。その高い教養と芸能によって王侯貴族や知識人たちを魅了した。また、彼女たちは「テヘズィーブ(Tehzeeb)」と呼ばれる雅な礼儀作法の実践者でもあった。上流階級の親たちが、テヘズィーブを学ばせるために子女をコーターに送ることも稀ではなかった。

 ただ、中世から近代にかけてインドの宮廷文化を彩ったタワーイフであったが、英領時代に規制が厳しくなり、パトロンを失った後、娼婦に零落する者が多かった。タワーイフ文化が廃れた現代では、「コーター」といえば売春婦が集住する売春宿と同義になってしまった。人身売買によって売春をさせられている女性が集住しているコーターでは、女性を逃がさないために、女性の居住空間となる上階が隔離され、狭い階段で地階と接続されている構造であることが多い。女性に対して「コーター」という言葉を出すことは、その人を売春婦扱いしていることになり、非常に汚い罵り言葉になる。

 コーターは、その歴史的・文化的背景を無視して単純に訳してしまえば「娼館」になる。だが、文脈によって印象が180度変わる言葉でもあり、使用には注意が必要である。

 優雅な宮廷文化を支えた在りし日のコーターの様子がよく分かるヒンディー語映画は以下の通りである。

  • 「Pakeezah」(1979年)
  • 「Umrao Jaan」(1981年)
  • Devdas」(2002年)
  • Heeramandi」(2024年)

 一方、コーターが娼館と化した後の様子が分かるヒンディー語映画は以下の通りである。