The Illegal (USA)

3.0
The Illegal
「The Illegal」

 「The Illegal」は、2019年10月18日にムンバイー映画祭でプレミア上映された米国映画である。監督はインド出身米国在住のダーニシュ・レーンズー、主演は「Life of Pi」(2012年/邦題:ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日)で有名なインド人俳優スーラジ・シャルマー。よって、実質的にはインド映画と見なすことが可能である。劇場一般公開はされておらず、2021年3月23日からAmazon Primeで配信開始された。

 他に、シュエーター・トリパーティー、アーディル・フサイン、ニーリマー・アズィーム、ジャイ・アリー、イクバール・テーバーなどが出演している。

 オールドデリーのダリヤーガンジで生まれ育ったハサン(スーラジ・シャルマー)は、映画監督になるのが夢で、ロサンゼルスの大学への留学をかなえる。ハサンは、妹のマーヒー(シュエーター・トリパーティー)や両親(アーディル・フサインとニーリマー・アズィーム)に見送られ、米国へ向かう。

 ロサンゼルスでは叔父叔母夫婦に迎えられるが、彼らは経済的に困窮しており、ハサンを居候させる余裕がなかった。それを理解したハサンは翌日、叔父叔母の家を出て路頭に迷うことになる。彼が見つけたのがインド料理レストラン、ニューデリー・カフェだった。従業員のバーバージー(イクバール・ターバー)に優しく招かれ、オーナーのアルフレッド・カーン(ジャイ・アリー)に紹介される。カーンはハサンが学生ヴィザで来ているのを知りながら彼を雇う。とりあえずハサンは住む場所と仕事を与えられた。

 ハサンは、昼は大学で映画を勉強し、夜はレストランで働く生活を始める。ハサンは米国人女性ジェシカとも仲良くなる。だが、ハサンはカーンの高圧的な態度に怒りを募らせ、同僚のメキシコ人グスタヴォとケンカし、レストランを飛び出してしまう。その後、モスクで寝泊まりしながら、新しい仕事を見つけて学業も続ける。だが、インドでは父親が倒れ、心臓手術をすることになった。その金を捻出するため、ハサンはカーンに頭を下げ、借金をする。ハサンは大学を辞め、借金を返すためにフルタイムでレストランで働くことになる。

 ところで、バーバージーはニューデリー・カフェで25年間働いていた。その間、彼は一度もインドに帰国を許されず、娘のギーターとの再会を夢見ていた。ギーターが結婚することになり、バーバージーは帰国を切望するが、しばらくして体調を崩し、死んでしまう。

 5年後。インドではマーヒーの結婚式が行われようとしていた。ハサンは一度もインドに帰れていなかったが、彼の仕送りのおかげで家族は生活できていた。ニューデリー・カフェには、新たに学生ヴィザで訪米した若いインド人の若者がやって来て働き出す。ハサンは彼にかつての自分の姿を重ねる。

 映画監督になるというアメリカンドリームをかなえるためにインドから米国に留学した若者が、現実に直面し夢破れ、不法滞在者に没落し、今度は帰郷そのものが夢になってしまうという皮肉を描いた悲しい作品だった。

 しかも、この不幸は世代を越えて連鎖している。バーバージーは25年間、不法滞在者として米国に住み、インドに住む家族に仕送りを続けていたが、娘の結婚式にも帰国を果たせず、孤独な死を迎える。バーバージーに迎え入れられて働き出した主人公ハサンも同じような運命をたどる。映画を学びに米国に来たはずが、父親の心臓手術代を捻出するために借金をし、その借金返済のために不法滞在者になってフルタイムで働き出す。ニューデリー・カフェで働いている内は家族に仕送りができるが、帰国しようとすると当局に見つかり強制送還となって二度と米国には戻れない。だから、ハサンは家族の生活を支えるために働き続けるしかなかった。ハサンの仕送りのおかげで妹マーヒーの結婚が決まる。インドの結婚式では新婦側家族が新郎側家族に多額の持参金を支払う必要があるのだ。だが、ハサン自身は妹の結婚式には参列できない。まだカーンへの借金を返せてないのだろう。不法滞在者であるため司法やセーフティーネットに頼ることもできない。もしくはカーンの借金を完済しても、パスポートを取り上げられているため、捕虜のような状態にあるのかもしれない。そんなハサンは、新たにニューデリー・カフェに就職した若いインド人留学生を複雑な思いで見つめる。また同じことが繰り返されるのである。

 バーバージー、ハサン、そしてこの若者の3人の連鎖は、インド人の不法滞在者化であるが、ニューデリー・カフェには他にもさまざまな国籍の不法滞在者がいた。イラク、韓国、メキシコなどである。そして、合法的に入国しながらも訳あって不法滞在者化し、家族のために不利な条件で奴隷のように働き続けている点でハサンたちと境遇は全く同じだった。

 かつて映画監督を志していたハサンは、米国で不法滞在者となった彼らを取材し、自分だけのストーリーを作り上げた。この「The Illegal」自体が擬似的なハサンの作品という体裁になっている。ただ、不法滞在者となった彼が、その後に映画監督になる未来は想像できない。グリーンカードの取得を目指しているようなことが述べられていたが、不法滞在者が永住権を獲得できる可能性は極めて低く、それも家族や自分を慰めるための嘘ではないかと想われる。

 一口に「不法滞在者」と聞くと犯罪者を思い浮かべるが、「The Illegal」では不法滞在者一人一人に顔を与え、それぞれの事情を語らせ、物事はそんな単純なものではないということを観客に分からせようとしている。インド人の多くは渡米して成功することを夢見ている。確かに成功する者もいる。だが、その裏には、ハサンのように不法滞在者になって永遠に帰郷できなくなっている者もいるという現実を忘れてはならない。基本的には、安易な留学や移民を戒める内容の作品だといえるだろう。

 決して一般的なインド娯楽映画の作りではないが、歌の使い方にインド映画の名残を感じた。ハサンがアメリカンドリームを夢見ているときは勢いのある英語の歌が流れるが、彼がホームシック気味になったときにはインドの曲が流れる傾向にあった。マーヒーの結婚式では少しだけダンスもあるが、お世辞にも上手なコレオグラフとはいえず、かえって安っぽさが出てしまっていた。

 言語は主に英語とヒンディー語のハイブリッドであり、少しだけスペイン語のセリフが入る。ヒングリッシュ映画の一種だと分類していいだろう。

 「The Illegal」は、米国に渡ったインド人留学生が経済的困難から不法就労を始め、やがて不法滞在者となって帰郷困難となる過程を追った映画で、アメリカンドリームの負の側面を描き出している。一般的なインド映画を脱却しようとしながらどこかインド映画性が残っているというような中途半端さが気になる作品だった。