カラン・ジョーハルが2012年に送り出した学園ロマンス映画「Student of the Year」は、彼が自ら監督するにはあまりに若すぎ、かつ、ナンセンスな映画ではあったが、アーリヤー・バット、スィッダールト・マロートラー、ヴァルン・ダワンの三人をデビューさせた功績は否定できない。三人は2010年代を牽引する俳優に成長し、2020年代も快進撃が続きそうだ。その続編、「Student of the Year 2」は2019年5月10日に公開された。前作で舞台となったセントテレサ校は変わらないが、監督とキャストは総入れ替えとなっており、しかも多数の新人俳優がデビューとなった。今後、「Student of the Year」シリーズは断続的に作られ、若い俳優たちの登竜門となるかもしれない。
「Student of the Year 2」の監督は、「I Hate Luv Storys」(2010年)や「Gori Tere Pyaar Mein」(2013年)のプニート・マロートラー。前作で監督を務めたカラン・ジョーハルは、今回はプロデューサーに専念している。主演はタイガー・シュロフ、ターラー・スターリヤー、アナンニャー・パーンデーイ。ジャッキー・シュロフの息子タイガーは「Heropanti」(2014年)でデビューしており、既に人気俳優となっているが、他の2人はこれがデビュー作である。ターラーはディズニー・チャンネルのVJとして活躍している。アナンニャーは、個性派俳優チャンキー・パーンデーイの娘である。彼ら3人の他に、アーディティヤ・スィール、グル・パナーグ、マノージ・パーワーなどが出演している。さらに、前作で主演を務めたアーリヤー・バット、脇役を務めたマンジョート・スィンとサーヒル・アーナンドも特別出演している。振付師・監督のファラー・カーンも、ダンスコンペティションの審査員としてカメオ出演している。さらにさらに、なんとハリウッド・スターのウィル・スミスが前作でも使われた「Radha」のダンスシーンで何の脈絡もなく登場しカメオ出演する。ウィル・スミスがインドを訪れたときに、たまたまこの映画の撮影を行っていて実現したらしい。豪華なキャスティングだ。
舞台はウッタラーカンド州の州都デヘラードゥーンの名門校セントテレサ。ミア(ターラー・スターリヤー)はマスーリーの田舎町からこの名門校に入学した。ミアと12年間付き合って来たローハン(タイガー・シュロフ)も、スポーツ奨学金を勝ち取って、ミアの後を追いセントテレサに転校する。 セントテレサでは、学校の理事の息子であるマーナヴ(アーディティヤ・スィール)が過去2年間、スチューデント・オブ・ザ・イヤーの栄冠を勝ち取っており、学校の英雄となっていた。マーナヴの妹シュレーヤー(アナンニャー・パーンデーイ)も在学していたが、高慢な性格で、ローハンと対立する。マーナヴは当初、ローハンを温かく迎え入れる。だが、彼は本心では田舎者で庶民のローハンを見下しており、密かにミアと関係していた。それを知ったローハンはマーナヴを殴るが、それが原因でローハンはセント・テレサを追放されてしまう。ローハンは、元々通っていたピショーリーラール・チャマンダース大学に戻る。 ウッタラーカンド州の大学同士で競われるディグニティー・カップが始まった。ローハンは、ピショーリーラール校の仲間たちと共に、常勝校のセント・テレサに挑む。ローハンに恋するようになっていたシュレーヤーは、セント・テレサに通いながらも、ローハンを応援する。だが、マーナヴに捨てられたミアがローハンとよりを戻そうとしたため、シュレーヤーと対立することになる。このような物語である。
単なる「Student of the Year」の焼き直しではなく、結構なドラマがあり、しかもアクションやダンスが盛りだくさんの娯楽作となっていた。インド映画の鑑である。半分スポ根ドラマであったが、敢えてクリケットなど、インドで人気のスポーツを出さず、インド伝統のカバッディーを主体にしているのが良かった。さらに、ローハン、ミア、シュレーヤーの三角関係が意外な展開を迎え、新鮮だった。
ローハンとミアは12年間付き合って来た仲である。インド映画の一般的なフォーミラを適用するならば、この二人が結ばれて然るべきだ。だが、ミアはローハンとは別の大学に進学し、ローハンをあっさり捨てて、マーナヴと恋に落ちる。しかも、ミアを追ってセント・テレサに入学して来たローハンを当初は冷たくあしらう。ミアは一転して「嫌な女」になってしまったのである。一方、最初は「嫌な女」として登場したシュレーヤーは、当初はローハンと対立し、彼に悪戯するものの、やがてローハンに惹かれるようになり、彼にアプローチを始める。マーナヴに裏切られたミアはローハンの元に戻って来るが、シュレーヤーがそれを妨害する。とは言え、ローハンが12年間ミアと付き合って来たことを知っているシュレーヤーは自ら身を引く。同時に、彼女が父親から愛されていないことなど、可哀想な境遇も明らかになって行き、一気に好感度が上がる。最後にはローハンはミアではなくシュレーヤーを選ぶ。メインヒロインとサブヒロインが途中で転換するような、不思議な展開だった。
ただ、ターラー・スターリヤーとアナンニャー・パーンデーイ、二人のスター・オーラを比べると、アナンニャーの方が圧倒的に勝っている。背がすらりと高く、色白で、目が大きく、とても魅力的だ。演技力もあり、現在急成長中である。
ターラー・スターリヤーとアナンニャー・パーンデーイのデビュー作となった本作だが、元々はディシャー・パータニー、サーラー・アリー・カーン、ジャーンヴィー・カプールのデビュー作として想定されていたようである。紆余曲折の上、最終的にこの2人が起用されることとなった。
とは言っても、「Student of the Year 2」はタイガー・シュロフの映画だ。彼のネコ科の動物のようなしなやかな身のこなしが今回も存分に発揮され、彼のスター性がますます磨かれていた。
前作ではローニト・ロイがゲイの体育教師を演じていたが、本作ではグル・パナーグがレズの体育教師を演じていた。これは同性愛者と噂されるカラン・ジョーハルの差し金であろう。彼の関わる映画には同性愛のモチーフがよく登場する。
「Student of the Year 2」は、カラン・ジョーハル監督による前作「Student of the Year」を受けて、タイガー・シュロフ、ターラー・スターリヤー、そしてアナンニャー・パーンデーイの三人を新たに主演に据えて作られた学園ロマンス映画である。学園モノと言っても勉強のシーンはほとんどなく、「3 Idiots」(2009年)などのように教育問題を扱った映画でもない。代わりに学園生活はスポーツとダンスで埋め尽くされている。だが、若い俳優たちのフレッシュな演技が心地よく、目と心の保養になる映画となっている。