Tere Bin Laden Dead or Alive

3.5
Tere Bin Laden Dead or Alive
「Tere Bin Laden Dead or Alive」

 まだウサーマ・ビン・ラーディンが生きていた頃、2010年に公開された「Tere Bin Laden」は、ビン・ラーディンのそっくりさんが繰り広げるドタバタ劇を描いた傑作コメディー映画であった。インド映画ながらパーキスターンが舞台という変わった映画でもあった。その映画の公開から約1年後の2011年5月2日にビン・ラーディンはパーキスターンのアボッターバードで米軍によって射殺された。その様子は、早くもハリウッド映画「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年)で映画化された。2016年2月26日公開の「Tere Bin Laden: Dead or Alive」は、「Tere Bin Laden」の続編となる。もちろん、ビン・ラーディン死亡後に作られているため、ストーリーにもその内容が盛り込まれている。

 「Tere Bin Laden: Dead or Alive」の監督は前作と同じアビシェーク・シャルマー。ビン・ラーディンのそっくりさんであるプラドゥマン・スィン・モールをはじめ、スガンダー・ガルグ、ラーフル・スィン、チラーグ・ヴォーラー、ピーユーシュ・ミシュラーなど、多くのキャストは前作から変わっていないが、主演としてTV俳優のマニーシュ・ポールが新たにキャスティングされている。前作の主演だったアリー・ザファルは脇役出演に留まっていた。他に、スィカンダル・ケールが重要な役を演じている。

 物語は2009年、まだビン・ラーディンが生きていた頃から始まる。チャーンドニー・チョウクのジャレービー屋だったシャルマー(マニーシュ・ポール)は、一念発起して映画監督になるためにムンバイーに向かう。そこで偶然出会ったビン・ラーディンのそっくりさん、パッディー・スィンを主演にして「Tere Bin Laden」を撮る。アリー・ザファルを主演にしたこの映画は大ヒットとなるが、シャルマーは続編の監督から外されそうになる。しかも、強行して続編の撮影を始めた矢先にビン・ラーディン死亡のニュースが飛び込んで来る。シャルマーの計画は暗礁に乗り上げてしまった。

 所変わって米国では、オバマ大統領が、ビン・ラーディン死亡の証拠映像を欲しがっていた。CIAのデーヴィッド(スィカンダル・ケール)は、インドにビン・ラーディンのそっくりさんがいるという情報を聞きつけ、彼を使って証拠映像のでっち上げをしようとする。一方、アフガニスタンでは、ビン・ラーディンを失って悲しみに打ちひしがれるムジャーヒディーンを元気づけるため、テロリストのカリーリー(ピーユーシュ・ミシュラー)は、インドにいるビン・ラーディンそっくりさんの拉致を計画する。

 デーヴィッドはハリウッド映画プロデューサーに変身してシャルマーやパッディー・スィンに接近する一方、カリーリーは勘違いした彼らをアフガニスタンまで連行する。そこへデーヴィッド率いる米軍が駆けつけ、大騒動となる。

 前作「Tere Bin Laden」に続き、安っぽいコント劇のような作りの映画ではあるが、それが妙にはまっていて、全編に渡って爆笑シーンが連続する。基本的には何も考えずに楽しめる娯楽作だ。

 続編ではあるが、普通の続編ではなく、前作のメイキングシーンから入っていて、前作で俳優として出演していたスガンダー・ガルグ、ラーフル・スィン、チラーグ・ヴォーラー、そしてアリー・ザファルらが、本人役で出演して、新たなドタバタ劇を繰り広げる構成としたのは賢い選択であった。また、前作のプロデューサーは、マンモーハン・シェッティーの2人の娘、プージャー・シェッティーとアールティ・シェッティーであったが、本作では二人が引き続きプロデューサーを務める上に、出演もしている。また、マニーシュ・ポールが演じたシャルマーは、言わずもがな、アビシェーク・シャルマー監督の分身である。ただ、彼はデリー生まれではあるが、実家はジャレービー屋ではない。

 アリー・ザファルはパーキスターン人俳優であるが、この頃はまだパーキスターン人俳優のインド映画出演は認められていた。この後、両国の関係が悪化し、現在は映画業界の交流がストップしてしまっている。アリー・ザファルがやたら高慢なスターを演じており、続編からシャルマーを外そうとするシーンもあったが、これは何となく「Dabangg 2」(2012年)あたりのゴタゴタをイメージしていそうだ。そうでなくとも、インドの映画業界では男性スターの力が強く、監督やプロデューサーを超越した権限を発動することがある。

 おそらく、ハリウッド映画「ゼロ・ダーク・サーティ」も、この映画のアイデア源になったことだろう。同作で描かれていたステルス・ヘリコプターや、暗視ゴーグルを装着した特殊部隊など、そっくりそのまま「Tere Bin Laden: Dead or Alive」でも踏襲されていた。

 「Tere Bin Laden: Dead or Alive」は、2010年の大ヒット・コメディー映画「Tere Bin Laden」の続編で、同作で監督デビューしたアビシェーク・シャルマーが引き続き監督をしている。安っぽさはあるが、わざと安っぽくしているところもあり、気楽に104分間の上映時間を楽しむことができる軽快な作品だ。