
2024年9月27日公開の「Binny and Family」は、3世代のジェネレーションギャップを題材にしたハートウォーミングなファミリードラマである。
監督は「Club 60」(2013年)のサンジャイ・トリパーティー。主演の新人アンジニー・ダワンは、「コメディーの帝王」の異名を持つデーヴィッド・ダワン監督などに関連したダワン一族の新顔だ。デーヴィッドの兄で俳優アニル・ダワンの孫娘であり、ヴァルン・ダワンの姪にあたる。他に、パンカジ・カプール、ヒマーニー・シヴプリー、ラージェーシュ・クマール、チャール・シャンカル、ナマン・トリパーティー、ターイー・カーン、アリヤー・ラールカルなどが出演している。
ビンディヤー・スィン、通称ビニー(アンジニー・ダワン)は英国ロンドン在住のインド人ティーネージャーだった。5年前にインドから移住し新生活を始め、現在は高校に通っていた。ビニーの父親ヴィナイ(ラージェーシュ・クマール)はロンドンで教師をしており、母親ラーディカー(チャール・シャンカル)も働いていた。
ヴィナイの父親SNスィン(パンカジ・カプール)と母親シャラダー(ヒマーニー・シヴプリー)はビハール州に住んでいた。二人は息子の家族に会うために年に1度ロンドンを訪れ、2ヶ月ほど滞在していた。今年も二人はロンドンに来るが、ビニーは祖父母の訪問を快く思っていなかった。なぜなら祖父母はビニーの部屋に泊まることになり、自由が奪われてしまうからだ。しかも、12年生の大切な試験が近づいていた。さらに嫌だったのは、ヴィナイとラーディカーがSNとシャラダーの前で敬虔なヒンドゥー教徒に豹変してしまい、自分もそれに従わなくてはならないことであった。案の定、SNはビニーが夜遅くまで帰宅しないことを知り、彼女を叱る。
シャラダーは肺に病気を抱えていた。ある晩、シャラダーは息苦しさを訴える。ロンドンで掛かり付けの医師ゴーシュは薬を処方し、安静を指示する。ヴィナイはしばらくロンドンに留まるように言うが、SNとシャラダーは予定通りインドに帰る。彼らがいなくなったことでヴィナイ、ラーディカー、ビニーはやっとリラックスできる。
それからしばらく経った後、ヴィナイはビハール州の実家から電話があり、シャラダーが倒れたとの連絡を受ける。ヴィナイは父親に、母親を連れてすぐにロンドンに来るように言う。だが、ビニーは再び自由を奪われると考えて反発する。ヴィナイは仕方なく父親に嘘を付き、ゴーシュがビハール州の州都パトナーで治療を受けた方がいいと言っていたと伝える。SNはロンドン行きを止め、シャラダーをパトナーの病院に入院させる。ヴィナイはパトナーへ向かい、母親と面会する。それからすぐにシャラダーは心臓発作を起こして息を引き取る。
ラーディカーとビニーもパトナーにやって来て、シャラダーの葬儀に参列する。ビニーは祖母の死の責任を感じ、自ら進んでSNをロンドンに呼び寄せる。長年連れ添った妻を失ったSNはふさぎ込んでいた。ビニーは祖父を元気づけるため、彼の誕生日を祝ったり、外に連れ出したり、スマートフォンの使い方を教えたりした。次第にSNは元気を取り戻す。だが、彼はゴーシュから、ヴィナイがシャラダーの治療に関して嘘を付いたことを知ってしまう。ビニーは泣いて祖父を引き留めるが、怒ったSNはパトナーに帰ってしまう。
ところで、ビニーは高校の演劇部で監督を務めていた。彼女はSNとの思い出を元に「Indian Summer」と題した演劇の脚本を書き、採用される。演劇コンクールで上演され高い評価を得る。ビニーはSNの不在を残念に思ったが、実はSNは密かにロンドン入りして演劇を観ていた。そして、彼女の演劇を絶賛する。SNはヴィナイやラーディカーとも仲直りし、再びロンドンで暮らし始める。
祖父母の世代にあたるSNは68歳、孫の世代にあたるビニーは18歳という設定だったため、その間の世代にあたるヴィナイは間を取って40代半ばくらいのイメージであろうか。ビニーはいわゆるZ世代であり、しかも英国にしばらく住んですっかり西洋文化に感化されている。四文字言葉連発のラップを愛好し、リップドジーンズを履き、堂々とタバコを吸う。ヴィナイと妻ラーディカーもタバコや酒をたしなむ程度に西洋化されてはいるが、まだ上の世代に対する畏敬の念は残っており、SNとシャラダーがロンドンに来るときには猫をかぶって敬虔なヒンドゥー教徒を演じている。
かつてとあるTV番組でアーミル・カーンが漏らしていたが、現在40-50代の世代がもっとも損をしているという。この世代は、上の世代から厳しく躾られてきており、親の前で常にかしこまっていなければならない。だが、下の世代は既に両親に対するそのような尊敬や配慮から自由になっており、コントロールが利かない。よって、40-50代の世代は上の世代からも下の世代からもプレッシャーを受け、一番損な役回りを演じているのである。「Binny and Family」で描かれたスィン家もまさにそんな3世代であった。
ただ、この映画はそんなジェネレーションギャップを面白おかしく提示するだけで終わっていなかった。転機になったのは祖母シャラダーの死であった。ビニーは自身の自由を最優先し、病気で倒れた祖母がロンドンに来るのを激しく拒絶した。ヴィナイは、妻からも糾弾され、仕方なく母親をインドに留めることにした。その後、シャラダーは死んでしまう。ビニーは、もし祖母をロンドンに来させていたら死ななかったかもしれないと考え、罪悪感にさいなまれる。それ以来、ビニーは妻に先立たれて孤独になった祖父に優しく接するようになり、なるべく多くの時間を祖父とともに過ごそうとする。
観客は自身の年齢によって3世代の内のどれかに感情移入してこの映画を鑑賞することになるだろう。SNとシャラダーの世代に感情移入して観れば、下の世代を恐怖で抑え付けることは最終的には家族に不幸をもたらすことを学ぶだろう。ヴィナイとラーディカーの世代に感情移入して観れば、上の世代の前でいい格好をするために下の世代を犠牲にしていないか確認したくなるだろう。ビニーの世代に感情移入して観れば、祖父母とより多くの時間を過ごしたくなるだろう。かつてインドでは兄弟が親や子と同居するジョイントファミリー(合同家族)が主流だったが、次第に各世代・各家庭が別々に生活するのが一般化している。そんな時代に、3世代がコミュニケーションをきちんと取ればジェネレーションギャップを解消でき、それが人生を豊かにすると真摯に訴えるこの映画の存在は、インド人に伝統的な価値を見直すきっかけを与えてくれるに違いない。
キャストの中でもっとも有名なのはSNを演じたパンカジ・カプールだ。主演ビニー役を演じたアンジニー・ダワンは新人であるし、全くスターパワーに頼っていない作品である。だが、スターがいなくても脚本さえ良ければ映画は優れたものになるという事実を「Binny and Family」は再確認させてくれる。インド映画は昔から家族の大切さを繰り返し繰り返し訴えてきたが、現代に合わせた設定にすることで、新鮮さすら感じるような作品に仕上がっている。
「Binny and Family」は、祖父母、父母、そして孫娘と、3世代にわたるジェネレーションギャップとコミュニケーションギャップ、そしてそこから生じる軋轢を巧みに映し出すと同時に、その解消にも踏み込みながら、最終的には心温まる結末に着地させることに成功した優れたファミリードラマだ。スター不在の弱みを全く感じさせない見事な構成であった。必見の映画である。
