カタカナ表記規則

 「Filmsaagar」はインド映画を題材にしたブログであるため、必然的にインドの人名や地名などの固有名詞を多く扱うことになる。その際、インドの固有名詞をどのように日本語に落とし込むのかは重要な懸案となる。アルファベットのままやり過ごすという手段もあるにはあるが、本ブログでは原則としてそれらをカタカナに変換して表記している。

 もちろん、ヒンディー語をはじめとしたインドの言語の音韻は日本語の音韻と一対一で対応しておらず、必ずどこかで妥協しなくてはならない。どこまで妥協するのかの判断に個人差が出て来るものだが、本ブログでは、長年の蓄積の上で、以下のような規則にもとづいてカタカナ表記をしている。

 端的に説明するならば、インドの連邦公用語であるヒンディー語を主基準とし、補助公用語である英語を補助基準とし、さらに日本語として据わりの良い表記になるようにも配慮したというものである。だが、インドは広く、深く、これだけ長くインドに関わってきてもまだインドの固有名詞の全貌を見た気には到底ならない。よって、この規則に当てはまらないものもまだまだあるだろうし、規則自体も完璧ではない。そこはご容赦いただいた上で、インドの固有名詞のカタカナ表記を考える際に参考にしていただけたら幸いである。


1. 基本原則

1-1. 短母音と長母音の区別は、ヒンディー語表記に忠実に表記する。1

  • Bharat भारत→バーラト(国名)
  • Agra आगरा→アーグラー(地名)
  • Tata टाटा→ターター(社名)

1-2. 日本語にない音は区別しない。例えば、有気音(「ka क」に対する「kha ख」など)、反舌音(「ta त」に対する「ta ट」など)、「ra la ra(da) rha(dha) र ल ड़ ढ़」を区別しない。

  • Dudh दूध→ドゥード(普通名詞:ミルク)
  • Tirthraj तीर्थराज→ティールトラージ(地名)
  • Tatparganj तटपरगंज→タトパルガンジ(地名)
  • Ladaai लड़ाई→ララーイー(普通名詞:争い)

1-3. 鼻母音「ं ँ」は全て「ン」で表記する。

  • Mangetar मँगेतर→マンゲータル(普通名詞:許婚)
  • Gandhi गाँधी→ガーンディー(人名)

1-4.(カタカナ表記対応表)デーヴァナーガリー文字(ヒンディー文字)とカタカナ表記の基本的対応は以下の表の通り。

  • 母音
デーヴァナーガリー文字カタカナ表記
オー
アー
イー
ウー
アイ
アウ
  • 子音
デーヴァナーガリー文字カタカナ表記(○ ि ु ृ े ो ा ी ू ‍‍ै ौ ्)
क क़ ख ख़カ キ ク クリ ケー コー カー キー クー カイ カウ ク
ग घガ ギ グ グリ ゲー ゴー ガー ギー グー ガイ ガウ グ
च छチャ チ チュ × チェー チョー チャー チー チュー チャイ チャウ チュ
ज झジャ ジ ジュ × ジェー ジョー ジャー ジー ジュー ジェー ジャウ ジ
ザ ズィ ズ × ゼー ゾー ザー ズィー ズー ザイ ザウ ズ
ट ठ त थタ ティ トゥ トリ テー トー ター ティー トゥー タイ タウ ト
ड ढ द धダ ディ ドゥ ドリ デー ドー ダー ディー ドゥー ダイ ダウ ド
ण नナ ニ ヌ ヌリ ネー ノー ナー ニー ヌー ナイ ナウ ン
प फパ ピ プ プリ ペー ポー パー ピー プー パイ パウ プ
ファ フィ フ × フェー フォー ファー フィー フー ファイ ファウ フ
ब भバ ビ ブ ブリ べー ボー バー ビー ブー バイ バウ ブ
マ ミ ム ムリ メー モー マー ミー ムー マイ マウ ム
ヤ イ ユ × イェー ヨー ヤー イー ユー ヤイ ヤウ ★
र ल ड़ ढ़ラ リ ル × レー ロー ラー リー ルー ライ ラウ ル
व(va)ヴァ ヴィ ヴ ヴリ ヴェー ヴォー ヴァー ヴィー ヴー ヴァイ ヴァウ ★
व(wa)ワ ウィ ウ × ウェー ウォー ワー ウィー ウー ワイ ワウ ★
श षシャ シ シュ シュリ シェー ショー シャー シー シュー シャイ シャウ シュ
サ スィ ス スリ セー ソー サー スィー スー サイ サウ ス
ハ ヒ フ フリ ヘー ホー ハー ヒー フー ハイ ハウ ハ
  • 結合子音
デーヴァナーガリー文字カタカナ表記(○ ि ु ृ े ो ा ी ू ‍‍ै ौ ्)
क्षクシャ クシ クシュ クシェー クショー クシャー クシー クシュー クシャイ クシャウ クシュ
ज्ञギャ × × ギェー ギョー ギャー × × × × ×
द्वドワ ドイ ドウ ドエー × ドワー ドイー × ドエイ × ドワ
श्रシュラ シュリ シュル シュレー シュロー シュラー シュリー シュルー × × シュラ

2. ヒンディー語至上主義、英語は補助・参照

2-1. カタカナ表記の際、複数の候補が出てきた場合はヒンディー語表記至上主義を適用し、英語表記はヒンディー語の表記や読みに揺れが見られる場合のみ、補助・参照のために利用する。潜在母音の規則13-1や例外規則16-1、16-2も参照。

  • Srinagar श्रीनगर→シュリーナガル(地名;ヒンディー語基準)
  • Allahabad इलाहाबाद→イラーハーバード(地名;ヒンディー語基準)
  • Gwalior ग्वालियर→グワーリヤル(地名;ヒンディー語基準)
  • Dharamshala धर्मशाला/धरमशाला→ダラムシャーラー(地名;英語参照)

2-2. ベンガル地方の人名や地名など、ヒンディー語表記と英語アルファベット表記でズレがある場合があるが、ヒンディー語表記に合わせる。ただし、潜在母音の規則13-2や例外規則16-1も参照。

  • Benarjee बनर्जी→バナルジー(人名) ×ベナルジー
  • Mukherjee मुखर्जी→ムカルジー(人名) ×ムケルジー

2-3. パンジャーブ州、グジャラート州、オリシャー州、マハーラーシュトラ州の人名や地名など、ヒンディー語表記と現地語表記でズレがある場合があるが、ヒンディー語表記に合わせる。

  • Sonepur सोनापुर ସୋନପୁର→ソーナープル(地名;OR) ×ソーナプル
  • Surat सूरत સુરત→スーラト(地名;GJ) ×スラト
  • Sholapur/Solapur सोलापुर सोलापूर→ソーラープル(地名;MH) ×ソーラープール

2-4. 母音「 ौ」は、英語アルファベット表記で一般的に「o」になっている場合は、「オー」で表記する。2

  • Rathore राठौड़→ラートール(人名) ×ラータウル
  • Johar जौहर→ジョーハル(人名) ×ジャウハル

2-5. デーヴァナーガリー文字には「エ」と「オ」の音に長短の区別がなく、大半の場合は長母音で発音されるが、南インド諸語の文字では長短の区別がある。南インド特有の固有名詞をカタカナ表記する際、「エ」と「オ」を短母音化することもある。

  • Venkataraman वेंकटरामन வெங்கட்ராமன்→ヴェンカトラーマン(人名) ×ヴェーンカトラーマン
  • Kodaikanal कोडैकानल கொடைக்கானல்→ダイカーナル(地名) ×コーダイカーナル

2-6. ヒンディー語では、語末の母音は基本的に長母音となる。だが、南インドの固有名詞は語末の母音が短母音になることがある。南インド特有の固有名詞ならば短母音にするが、北インドと共通する固有名詞ならば長母音にする。

  • Yogi Babu योगी बाबू யோகி பாபு→ヨーギ・バーブ(人名) ×ヨーギ・バーブ

3. 子音のみの音の表記に関する規則

3-1. ヒンディー語表記で、母音記号のない子音字が、語中で母音を読む子音字の前に来た場合、または語末に来た場合、または半子音字になっている場合、ヒンディー語の規則ではその子音字は子音のみを発音する。基本的にカタカナ表記でもそれに準じ、子音の音をそれに対応したカタカナで表記する。多くの場合、「子音+ウ」でカタカナ表記する。ただし、「ट ठ त थ」と「ड ढ द ध」はそれぞれ「ト」、「ド」と表記する。また、【4】以降の項目も参照。

  • Agra आगरा→アーラー(地名)
  • Sapna सपना→サナー(普通名詞:夢)
  • Ashok अशोक→アショー(人名)
  • Kumar कुमार→クマー(人名)
  • Patna पटना→パナー(地名)
  • Jodhpur जोधपुर→ジョー(地名)
  • Panipat पानीपत→パーニーパ(地名)
  • Prasad प्रसाद→プラサー(人名)

4. 「cha chha च छ」の規則

4-1. 「cha च」と「chha छ」を子音のみ表記する場合は、「チュ」「チ」の二通りのカタカナ表記の可能性があるが、語中の場合は「チュ」で、語末の場合は「チ」で表記する。

  • Kachra कचरा→カチュラー(普通名詞:ゴミ)
  • Machhli मछली→マチュリー(普通名詞:魚)
  • Mirch मिर्च→ミル(普通名詞:チリ)
  • Kutch/Kachchh कच्छ→カッ(地名)

5. 「ja jha ज झ」の規則

5-1. 「ja ज」と「jha झ」を子音のみ表記する場合は、日本語では「ジュ」「ジ」の二通りの表記の可能性があるが、基本的に「ジ」で統一していく。

  • Ajmer अजमेर→アメール(地名)
  • Bhojpuri भोजपुरी→ボープリー(言語名)
  • Raj राज→ラー(人名)
  • Bajrangbali बजरंगबली→バラングバリー(人名)
  • Taj Mahal ताज महल→ターマハル(建物名)

5-2. ただし、半子音字「j ज्」と「jh झ्」の後に子音字が続く場合、「ジュ」と表記する。「jya ज्य」も参照(7-4)。

  • Jwalamukhi ज्वालामुखी→ジュワーラームキー(普通名詞:火山)
  • Vajrendra वज्रेंद्र→ヴァジュレーンドラ(人名)

6. 「na ma न ण म」の規則

6-1. 「na न ण」を子音のみ表記する場合は「ン」、「ma म」を子音のみ表記する場合は「ム」と表記する。ただし、「pa pha ba bha ma प फ ब भ म」の前の「म」を子音のみ表記する場合、「ン」と表記する。「nna न्न」と「mma म्म」の項目も参照(14-3)。

  • Janta/Janata जनता→ジャター(普通名詞:人民)
  • Hindi हिन्दी→ヒディー(言語名)
  • Hanuman हनुमान→ハヌマー(人名)
  • Ravan रावण→ラーヴァ(人名)
  • Ram राम→ラー(人名)
  • Champaner चंपानेर→チャパーネール(地名)
  • Chidambaram चिदम्बरम/चिदंबरम→チダバラム(人名・地名)

6-2. ただし、「म」と「प फ ब भ म」の間で単語の節が切れている場合は、「म」は「ム」と表記する。

  • Rampal रामपाल→ラーパール(人名) ※ram+pal

7. 「ya य」の規則

7-1. 「ya य」を子音のみ表記する場合、「ヤ」「イ」「エ」など数通りの表記の可能性があるが、基本的に英語表記の通例に従う。英語表記で語末に「y」が来たら、「イ」と読む。

  • Meghalaya मेघालय→メーガーラ(州名)
  • Jayalalitha जयललिता→ジャラリター(人名)
  • Rai राय→ラー(人名)
  • Chai चाय→チャー(食品名)
  • Jaipur जयपुर→ジャプル(地名)
  • Uday उदय→ウダ(人名)
  • Agyey अज्ञेय→アギェー(人名)
  • Koel कोयल→コール(人名)
  • Nair नायर→ナール(人名)

7-2. 英語表記にも揺れがある場合は「イ」を優先する。

  • Kaimkhani/Kayamkhani कायमखानी→カームカーニー(人名)
  • Gaikwad/Gaekwad गायकवाड→ガークワード(人名)
  • Rai Barelly/Rae Barelly रायबरेली→ラー・バレーリー(地名)

7-3. 語中の「-iya- -इय-」と「-iyaa- -इया-」はアルファベット表記では「-ia-」と表記される傾向にあるが、ヒンディー語表記に従って「イヤ」および「イヤー」と表記する。

  • Sania सानिया→サーニー(人名)
  • Bhutia भूटिया→ブーティー(人名)
  • Ghaziabad ग़ाज़ियाबाद→ガーズィーバード(地名)

7-4. 半子音字+「ya य」は基本的に拗音で表記する。なお、「shya श्य」は「シャ」、「chya च्य」は「チャ」、「jya ज्य」は「ジャ」、「tya त्य」は「ティヤ」、「dya द्य」と「dhya ध्य」は「ディヤ」、「nya न्य」は「ンニャ」と表記する。「rya र्य」と「lya ल्य」については8-1を参照。

  • Chanakya चाणक्य→チャーナキャ(人名)
  • Pyaar प्यार→ピャール(普通名詞:恋愛)
  • Shyaam श्याम→シャーム(人名)
  • Chyuti च्युति→チュティ(普通名詞:落下)
  • Jyotishi ज्योतिषी→ジョーティシー(普通名詞:占星術師)
  • Satya सत्य→サティヤ(普通名詞:真実)
  • Vidyalaya विद्यालय→ヴィディヤーラヤ(普通名詞:大学)
  • Dhyan ध्यान→ディヤーン(普通名詞:集中)
  • Kanyakumari कन्याकुमारी→カンニャークマーリー(地名)

8. 「ra la र ल」の規則

8-1. 「ra र」と「la ल」を子音のみ表記する場合、「リ」「ル」の二通りの表記の可能性がある。基本的には「ル」で統一していくが、後に「ya य」が続く場合のみ「リ」で表記する。

  • Arvind अरविंद→アヴィンド(人名)
  • Sharma शर्मा→シャマー(人名)
  • Shilpa शिल्पा→シパー(人名)
  • Aishwarya ऐश्वर्या→アイシュワヤー(人名)
  • Maurya मौर्य→マウヤ(人名)
  • Kaushalya कौशल्या→カウシャヤー(人名)

9. 「va/wa व」の規則

9-1. 「va/wa व」はワ行、ヴァ行、ときにバ行のカタカナ表記の可能性がある。また、「व」を子音のみ表記する場合、「ヴァ」「ヴ」「ワ」「ウ」「オ」など数通りのカタカナ表記の可能性がある。それらのカタカナ表記の選択は基本的に英語表記の通例を参考にする。

  • Varma/Verma वर्मा→ヴァルマー(人名)
  • Varanasi वाराणसी→ヴァーラーナスィー(地名)
  • Motwani मोटवानी→モートーニー(人名)
  • Advani आडवानी→アードヴァーニー(人名)
  • Yadav यादव→ヤーダ(人名)
  • Diu दीव→ディー(地名)
  • Baoli बावली→バーリー(普通名詞:井戸)
  • Rao राव→ラー(人名)
  • Nabarangpur नवरंगपुर→ナラングプル(地名)

9-2. 複数の英語表記がある際は「ヴァ」または「ヴ」を優先する。「ヴァ」と「ヴ」で揺れている場合は「ヴァ」を優先する。

  • Namdev/Namdeo नामदेव→ナームデー(人名)
  • Shiva/Shiv शिव→シヴァ(人名)

9-3. 語末の「-wat/vat -वत」と「-wati/vati -वती」は「ワト」と「ワティー」で、「-wala/vala -वाला」は「ワーラー」で、「-shwar/shvar -श्वर」は「シュワル」で統一する。

  • Parwati/Parvati पारवती→パールティー(人名)
  • Saraswati/Sarasvati सरस्वती→サラスティー(人名)
  • Sabziwala सब्ज़ीवाला→サブズィーーラー(普通名詞:野菜屋)
  • Bikanervala बीकानेरवाला→ビーカーネールーラー(店名)
  • Maheshwar महेश्वर→マヘーシュル(人名)

9-4. 半子音字の後に「व」が来た場合、「व」は基本的にワ行で表記する。ただし、「vi वि」または「vii वी」は、「イ」または「イー」で、「ve वे」の場合は、「エー」で表記する。

  • Dvivedi/Dwivedi द्विवेदी→ドヴェーディー(人名)
  • Lakshadweep लक्षद्वीप→ラクシャドープ(地名)
  • Shweta श्वेता→シューター(人名)

10. 「sha श ष」の規則

10-1. 「sha श ष」を子音のみ表記する場合、日本語では「シュ」「シ」の二通りの表記の可能性があるが、基本的に「シュ」で統一していく。

  • Kashmir कश्मीर→カシュミール(地名)
  • Uttar Pradesh उत्तर प्रदेश→ウッタル・プラデーシュ(州名)
  • Maheshwar महेश्वर→マヘーシュワル(人名)
  • Ganesh गणेष→ガネーシュ(人名)

11. 「si zi सि सी ज़ि ज़ी」の規則

11-1. 「si सि」と「sii सी」はそれぞれ「シ」、「シー」と表記する方法もあるが、それぞれ「スィ」、「スィー」と表記することにする。同じく「ji ज़ि」と「jii ज़ी」もそれぞれ「ズィ」、「ズィー」と表記する。

  • Sindh सिंध→スィンド(地名) ×シンド
  • Sita सीता→スィーター(人名) ×シーター
  • Zinta ज़िंटा→ズィンター(人名) ×ジンター
  • Zeenat ज़ीनत→ズィーナト(人名) ×ジーナト

11-2. 「si सि」と「shi शि」で表記の揺れがある場合は、「シ」を優先する。補足事項17-4も参照のこと。

  • Nashik/Nasik नाशिक/नासिक→ナーク(地名) ×ナースィク

12. 「ha ह」の規則

12-1. 原則として、「ha ह」を子音のみ表記する場合は、基本的に語中では「フ」、語末では「ハ」と表記する。

  • Ahlawat अहलावत→アラーワト(人名)
  • Griha गृह→グリ(普通名詞:家)
  • Satyagraha सत्याग्रह→サティヤーグラ(運動名)

12-2. ただし、長母音の後に来た母音記号を伴わない「ह」は表記しない。

  • Shahrukh Khan शाहरुख़ ख़ान→シャルク・カーン(人名)
  • Giridih गिरीडीह→ギリーディ(地名)
  • Fatehpur Sikri फ़तेहपुर सीकरी→ファテプル・スィークリー(地名)
  • Lohri लोहड़ी→ロリー(祭り名)

12-3. ただし、鼻音の後に来た母音記号を伴わない「ह」は英語表記に従い、「h」の場合は表記せず、「ha」の場合は「ハ」と表記する。

  • Singh सिंह→スィ(人名)
  • Narsimhapur नरसिंहपुर→ナルスィンハプル(地名)

12-4. 「nha न्ह」はナ行で、「mha म्ह」はマ行で、「lha ल्ह」はラ行で表記する(参照)。

  • Kanha कान्हा→カーー(人名) ×カーンハー
  • Kumhar कुम्हार→クール(普通名詞:壺職人) ×クムハール
  • Kolhapur कोल्हापुर→コーープル(地名) ×コールハープル
  • Malhotra मल्होत्रा→マートラー(人名) ×マルホートラー

12-5. 語頭の子音字が、母音記号を伴っていない、もしくは「e ए」の母音記号を伴った子音で、その後に母音記号を伴わない「ha ह」が続く場合は、カタカナ表記は「子音+エヘ」になる。ただし、語頭が子音字ではなく、母音字「a अ」の場合は「アハ」と表記する。

  • Mahansar महनसर→メヘンサル(地名) ×マハンサル
  • Rahman/Rehman रहमान→レヘマーン(人名) ×ラフマーン
  • Mehta मेहता→メヘター(人名) ×メーヘター
  • Ahmedabad अहमदाबाद→アハマダーバード(地名) ×エヘメダーバード

13. 潜在母音の規則

13-1. ヒンディー語の発音規則では発音されないはずの潜在母音「a अ」が、英語アルファベットで表記されている場合は「ア」を表記する。英語アルファベット表記で「a」が付いたり付かなかったりする場合は、「ア」を表記する。例外規則16-2も参照。

  • Dharmendra धर्मेंद्र→ダルメーンド(人名)
  • Krishna कृष्ण→クリシュ(人名)
  • Matsya मत्स्य→マツ(地名)
  • Mishra मिश्र→ミシュ(人名)
  • Bhishma भीष्म→ビーシュ(人名)
  • Gautam Buddha Nagar गौतम बुद्ध नगर ガウタム・ブッ・ナガル(地名)
  • Panaji/Panjim पणजी→パジー(地名)
  • Antra/Antara अंतरा→アンラー(人名)

13-2. 潜在母音が「a」以外の母音でアルファベット表記されることがある。例えばベンガル人の名前の潜在母音は「o」になることがある。この場合はアルファベット表記されている母音に従ってカタカナ表記をする。

  • Chakraborty चक्रवर्ती→チャクラルティー(人名;WB)
  • Konkona कोंकणा→コーンナー(人名;WB)
  • Kiron किरण→キン(人名;WB)

14. 促音の規則

14-1. カタカナ表記の際、促音は極力使用しない。ヒンディー語表記で同一の子音字の半子音字+子音字の連続が来た場合のみ「ッ」を利用する。

  • Madhya Pradesh मध्य प्रदेश→マディヤ・プラデーシュ(地名) ×マッディヤ・プラデーシュ
  • Pandit पंडित→パンディト(普通名詞:僧侶) ×パンディット
  • Masjid मस्ज़िद→マスジド(普通名詞:モスク) ×マスジッド
  • Dutt दत्त→ダト(人名)
  • Chhattisgarh छत्तीसगढ़→チャティースガル(州名)
  • Mallika मल्लिका→マリカー(人名)

14-2. 長母音の後に来た促音が来た場合、長母音を短母音化する。

  • Shetty शेट्टी→シェッティー(人名)
  • Reddy रेड्डी→レッディー(人名)
  • Koppikar कोप्पिकर→コッピカル(人名)

14-3. 「nna न्न」は「ンナ」、「mma म्म」は「ンマ」と表記する。

  • Khanna खन्ना→カンナー(人名)
  • Samman सम्मान→サンマーン(普通名詞:名誉)

15. その他の特殊な表記

15-1. 「tsa त्स」は「ツァ、ツィ、ツ、ツェー、ツォー」と表記する。

  • Utsav उत्सव→ウツァヴ(普通名詞:祭り)
  • Chikitsa चिकित्सा→チキツァー(普通名詞:医療)

15-2. 英語の「of」に当たる「-i-」または「-e-」(イザーファト)は基本的に「+エ・」で、「-ul-」は「+ウル・」で表記するが、英語表記も参照する。

  • Mughal-e-Azam मुग़ले आज़म→ムガレ・アーザム(映画名)
  • Kohinoor कोहेनूर→コーヌール(宝石名) ※英語表記参照
  • Diwan-e-Khas दीवाने ख़ास→ディーワーネ・カース(普通名詞:貴賓謁見の間)
  • Eid-ul-Fitr ईद उल-फ़ित्र→イードゥル・フィトル(祭り名)

15-3. 英語の頭文字が地名になり、十分に普及している場合は、アルファベットをローマ字読みする。

  • Noida नोएडा→ノイダ(地名) ※New Okhla Industrial Development Area

15-4. 地名などの中に、方角を示す単語やその他日本語に訳して差し支えない単語が入っている場合、その部分だけ翻訳して表記する。ただし、その単語が既に地名の一部となっていると判断される場合は翻訳せずに残す。

  • Uttara Kannada उत्तर कन्नड→カンナダ(地名)
  • Lower Dibang Valley नीची दिबंग घाटी ディバン谷(地名)
  • Uttarkashi उत्तरकाशी→ウッタルカーシー(地名) ×北カーシー

15-5. ヒンディー語の単語で特殊な発音をするものは、カタカナ表記の際もそれに従う。

  • Gurugaon गुड़गाँव→グルガーオン(地名)
  • Janamashtmi जन्माष्टमी→ジャマーシュトミー(祭り名)

15-6. アラビア語・ペルシア語起源の単語で、「u」と「o」どちらでも表記される母音を持つものがある。この場合は英語表記に合わせ、英語表記でも決められない場合は「オ」にする。

  • Sohail सुहैल→ハイル(人名)
  • Mohabbat मुहब्बत/मोहब्बत→ハッバト(普通名詞:恋愛)
  • Mohar मुहर/मोहर→ハル(普通名詞:金貨)

16. 例外規則

16-1.(外国語の固有名詞) インド国内のヨーロッパ語(特に英語)の人名、地名、またはインド固有の名詞でありながら英語化した単語などに関しては上記の原則を適用せず、英語アルファベットのカタカナ表記の通例に従う。

  • Delhi दिल्ली/दहली→デリー(地名)
  • New Delhi नई दिल्ली→ニューデリー(地名)
  • Old Delhi पुरानी दिल्ली→オールドデリー(地名)
  • Connaught Place कनाट प्लेस→コンノート・プレイス(地名)
  • Ellora एलोरा/वेलूर→エローラ(地名)
  • Sonia Gandhi सोनिया गांधी→ソニア・ガーンディー(人名)
  • Tagore ठाकुर→タゴール(人名)
  • George Fernandes जॉर्ज फर्नांडिस→ジョージ・フェルナンデス(人名)
  • John Abraham जॉन अब्राहम→ジョン・アブラハム(人名)
  • Dino Morea दीनो मोरिया→ディノ・モレア(人名) ※イタリア名
  • Robertsganj राबर्ट्सगंज ロバーツガンジ(地名) ※Roberts(英語人名)+ganj(市場)
  • Mahe/Mahé माहे→マエ(地名) ※フランス語
  • Vasco da Gama वास्को डि गामा→ヴァスコ・ダ・ガマ(地名) ※ポルトガル語

16-2.(印欧諸語以外の固有名詞) 南インドのドラヴィダ語族系、インド北部のシナ・チベット語族系およびオーストロアジア語族系の固有名詞(特に地名)などには上記の原則を適用せず、ヒンディー語表記と各言語の表記(特に長母音と短母音の区別)を参考にしながら、英語アルファベットをもとに、英語アルファベットのカタカナ表記の通例に従ってカタカナ表記をする。注意点は以下の通り。

  1. その際、11-1は適用しない。
  2. シナ・チベット語族系またはオーストロアジア語族系の固有名詞に頻出する音節末尾の「-ng」は「ング」ではなく「ン」と表記する。
  3. 明らかにインド・アーリヤ語族からの借用語である場合はヒンディー語表記を最優先するが、発音しないはずの潜在母音が英語表記に書かれている場合は潜在母音も含めて表記する(13-1と13-2も参照)。
  4. 南インドの固有名詞の末尾の「+an」と「+am」はそれぞれ「+アン」、「+アム」で表記していく。
  5. タミル語やマラヤーラム語の英語アルファベット表記によく出て来る「zh」はラ行で表記する。
  • Chennai चेन्नई சென்னை→チェンナイ(地名;TN) ×チェーンナイー
  • Darjeeling दार्जिलिंग→ダージリン(地名;WB) ×ダールジリング
  • Gangtok गंगटोक→ガントク(地名;SK) ×ガーングトーク
  • Shillong शिलोंग→シロン(地名;ML) ×シローング
  • Hyderabad हैदराबाद హైదరాబాదు→ハイダラーバード(地名;AP) ×ハイダラーバードゥ(テルグ語読み)
  • Ramanathapuram रामनाथपुरम இராமநாதபுரம் ラーマナータプラム(地名;TN) ×ラームナートプラム/イラーマナータプラム
  • Bagalkot बागलकोट ಬಾಗಲಕೋಟೆ→バーガルコート(地名;KA) ×バーガルコーテ(カンナダ語読み)
  • Alappuzha अलापेझा ആലപ്പുഴ→アーラップラー(地名;KL) ×アーラップザー
原則全面適用の州
ウッタラーンチャル州、パンジャーブ州、チャンディーガル準州、ハリヤーナー州、デリー、ウッタル・プラデーシュ州、ビハール州、ジャールカンド州、ラージャスターン州、マディヤ・プラデーシュ州、チャッティースガル州、アッサム州、トリプラー州、オリシャー州、グジャラート州、マハーラーシュトラ州、ダマン&ディーウ準州、ダードラー&ナガル・ハヴェーリー準州、ゴア州
原則大部分適用の州
ジャンムー&カシュミール準州、ヒマーチャル・プラデーシュ州(ラーハウル&スピティ地方は適用外)、西ベンガル州(北部に適用外の地名あり)
原則部分的適用の州(ヒンディー語と共通の語彙のみ適用)
アルナーチャル・プラデーシュ州、ナガランド州、マニプル州、アーンドラ・プラデーシュ州、カルナータカ州、ケーララ州、タミル・ナードゥ州
原則適用外の州
スィッキム州、メーガーラヤ州、ミゾラム州、ラダック準州、ポンディチェリー準州、ラクシャドイープ準州、アンダマン&ニコバル諸島準州

16-3.(日本語になった固有名詞) 日本語に定着していると判断される単語については、日本語に定着したカタカナ表記を利用する。ただし、短母音と長母音の区別については原則を死守する。

  • Mahal महल→メヘル→マハル(普通名詞:宮殿)
  • Nehru नेहरू→ネヘルー→ネルー(人名)
  • Deccan दक्खिन→ダッキン→デカン(地名)
  • Sanskrit संस्कृत→サンスクリト→サンスクリット(言語名)
  • Ramayan रामायण→ラーマーヤン→ラーマーヤナ(書物名)
  • Bazaar बाज़ार→バーザール(普通名詞:市場) ×バザール
  • Yog/Yoga योग→ヨーガ(普通名詞) ×ヨガ

16-4.(文法基本単語) ヒンディー語の文章の基本構成単位である単語(代名詞/後置詞/コピュラ動詞など)については、以下のような表記する。

  • main मैं→マェン
  • hai/hain है/हैं→ハェ/ハェン
  • ka/ke/ki का/के/की→カ/ケ/キ
  • mein/ko/se में/को/से→メン/コ/セ
  • ne ने→ネ

17. 補足事項

17-1.(南アジア諸国の固有名詞) 南アジアの他国の固有名詞については上記の原則を適用せず、通例に従う。ただし、ヒンディー語の姉妹語ウルドゥー語が国語のパーキスターンの固有名詞にだけは基本的に原則を適用(17-2も参照)。

  • Bangladesh बांग्लादेश→バングラデシュ(国名) ×バーングラーデーシュ
  • Nepal नेपाल→ネパール(国名) ×ネーパール
  • Bhutan भूटान→ブータン(国名) ×ブーターン
  • Pakistan پاکستان पाकिस्तान→パーキスターン(国名) ×パキスタン

17-2.(イスラーム関係の固有名詞) ムスリムの人名などに関しては、インドではヒンディー語表記を、パーキスターンではウルドゥー語表記を適用する。具体的には以下の通り。

  1. インドの固有名詞では語末の「ヘー(ہまたは ح)」を長母音で表記し、パーキスターンの固有名詞では語末の「ヘー」を省略する。
  2. インドの固有名詞ではカ(ख़)をカ行で表し、パーキスターンの固有名詞では「ケー(خ)」をハ行で表す。
  • Fatehpur Sikri फ़तेहपुर सीकरी→ファテープル・スィークリー(地名;印)
  • Shahrukh Khan शाहरुख़ ख़ान→シャールク・カーン(人名;印)
  • Nusrat Fateh Ali Khan نصرت فتح علی خان नुसरत फ़तेह अली ख़ान→ヌスラト・ファテ・アリー・ハーン(人名;パ)

17-3.(新旧名の使い分け) 都市名の新名と旧名の使い分けについては、文脈を見て決定する。例えばまだ都市名が旧名の頃を題材にした小説にその都市名が出てきた際には旧名を利用する。また、旧名は英語だと判断し、例外事項16-1を適用する。

  • Calcutta कलकत्ता→カルカッタ(地名;旧名) ※英語扱い
  • Kolkata कोलकाता→コールカーター(地名;新名)
  • Bombay बोम्बे→ボンベイ(地名;旧名) ※英語扱い
  • Mumbai मुंबई→ムンバイー(地名:新名)

17-4.(ぶれ) ヒンディー語表記をはじめとした現地語表記や英語表記などにぶれがあり、どちらも同じくらい使われていて、どちらかひとつに定められないことがある。その場合は字数が少なくなる方を優先する。規則11-2も参照のこと。

  • Kochi कोच्चि കൊച്ചി/കോച്ചി→コチ(地名) ×コーチ
  • Nashik/Nasik नाशिक/नासिक→ナーシク(地名) ×ナースィク

  1. インド諸語において短母音と長母音の区別は重要である。たとえば、「ヴァースデーヴァ」という人名があるが、これは「ヴァスデーヴァの息子」という意味である。「ヴァースデーヴァ」と「ヴァスデーヴァ」の音引きを割愛して「ヴァスデヴァ」などにしてしまうと、父子の区別が付かなくなってしまう。このような混乱を避けるために、必ず短母音と長母音の区別を付ける習慣を付けるべきである。 ↩︎
  2. 母音「 ौ」の発音は、ヒンディー語圏内で違いがある。大まかにいえば、東部では「アウ」と発音し、西部では「オー」と発音する。英語表記にその違いが反映されることがある。 ↩︎