
2015年1月16日公開の「Alone」は、結合双生児の片割れが主人公のホラー映画である。同名のタイ映画(2007年)をリメイクした作品だが、それ自体が米国のTVドラマ「Tales from the Crypt」(1989-96年)の1話からインスパイアされている。また、テルグ語映画「Chaarulatha」(2012年)との類似性も指摘されている。
監督は「Ragini MMS 2」(2014年)などホラー映画を得意とするブーシャン・パテール。主演はビパーシャー・バス。相手役はモデル出身でTVドラマで名を馳せた俳優カラン・スィン・グローヴァー。本作が彼にとって映画デビューのひとつとなる。また、ビパーシャーとカランはこの映画での共演後に結婚している。
他に、ザーキル・フサイン、ニーナー・グプター、スルバー・アーリヤ、ニーリマー・プリヤーなどが出演している。
ムンバイー在住のサンジャナー(ビパーシャー・バス)は、夫のカビール(カラン・スィン・グローヴァー)が仕事に多忙で孤独を感じていた。サンジャナーの実家はケーララ州にあり、母親(ニーナー・グプター)が住んでいた。母親が頭を打って倒れたという知らせを受け、カビールとサンジャナーはケーララ州へ向かった。
母親は全身不随となり病院に入院していた。カビールとサンジャナーはしばらく彼女の実家に滞在することになった。そこでサンジャナーは異常な現象に悩まされ、奇行に走るようになる。彼女は死んだ姉妹アンジャナー(ビパーシャー・バス)の存在を感じ取っていたが、カビールは信じない。サンジャナーはカビールの知己の精神科医ナミト・プラカーシュ(ザーキル・フサイン)のカウンセリングを受けることになる。
サンジャナーはナミトに対し、アンジャナーとの思い出を語り出す。サンジャナーとアンジャナーは結合双生児として生まれ、常に一緒だった。サンジャナーとアンジャナーは学校でカビールと出会い、同時に恋に落ちる。だが、カビールが好きになったのはサンジャナーの方だった。アンジャナーは嫉妬を抱くようになる。ただ、カビールはロンドンに移住してしまい、しばらく離れ離れになる。
それから10年後、カビールはインドに帰国した。その知らせを受けてサンジャナーは喜ぶが、アンジャナーは再び嫉妬を燃やす。空港までカビールを迎えに行こうとするサンジャナーにアンジャナーは襲い掛かる。とっさにサンジャナーは反撃し、アンジャナーを殺してしまった。母親はアンジャナーを切り離す手術をし、アンジャナーの死を隠した。サンジャナーはカビールと結婚したが、罪の意識にさいなまれることになった。
ナミトはサンジャナーの心からアンジャナーに対する罪の意識が消えたときにアンジャナーの亡霊に悩まされることはなくなると診断する。あるときを境にサンジャナーの奇行がなくなり、カビールに対する愛情も深まる。カビールは妻が全快したと考えナミトに感謝するが、ナミトはまだサンジャナーに異常があると感じていた。使用人のマングラー(スルバー・アーリヤ)とその嫁ジャヤー(ニーリマー・プリヤー)は、サンジャナーの身体にアンジャナーの亡霊が憑依したことを突き止める。呪術師が呼ばれ、儀式が行われた。サンジャナーの体内からアンジャナーの亡霊が退散するが、呪術師は、アンジャナーの亡霊がまだどこかにいると忠告する。
カビールは、サンジャナーがアンジャナーに関して何か隠しているのではないかと疑い出す。だが、サンジャナーは何も明かさなかった。アンジャナーの遺物がまだどこかに残っていると聞き、カビールは探し出す。そして、廃屋の地下にアンジャナーの遺体を見つける。カビールはその遺体を燃やそうとするが、亡霊はナミトに取りつき、彼らを襲い出す。カビールはそれをかわしながらアンジャナーの遺体をよく調べるが、そこで彼は決定的な証拠を見つける。実は今までサンジャナーだと思って結婚までした相手はアンジャナーであり、彼がロンドンから帰って来た日、殺されたのはアンジャナーではなくサンジャナーだった。アンジャナーはサンジャナーを殺して彼女に成り代わり、彼と結婚していたのだった。サンジャナー、つまりアンジャナーはカビールを殺そうとするが、サンジャナーの亡霊が現れ彼女を止める。そしてアンジャナーは火に包まれる。
2010年代のトップ女優の一人だったビパーシャー・バスは、そもそもホラー映画「Raaz」(2002年)でデビューし、一気にスターダムを駆け上った。だが、イメージの固定化を嫌ったのか、その後、彼女がホラー映画に出演する機会はそれほど多くなかった。30代になり、人気に陰りが出て来たことを意識したのか、「Alone」でのホラー映画出演は、彼女にとって原点回帰ともいえる。しかも、彼女は主演であり、一人二役もこなす。やり応えのある映画と役だったといえる。
結合双生児として生まれ、常に一緒に過ごした姉妹サンジャナーとアンジャナーは、思春期になって同じ男性カビールを好きになった。カビールは、いじめられがちだったサンジャナーとアンジャナーを守る心優しい少年であった。カビールはどちらとも仲が良かったが、彼が恋をしたのはサンジャナーの方だった。これが姉妹の間に亀裂を生じさせる。原作であるタイ映画から引き継いだ設定であるが、とてもよく考えられたものだと感じる。
サンジャナーは当初、分離手術の失敗によってアンジャナーは死んでしまったとカビールに説明していた。だが、実際にはサンジャナーに嫉妬したアンジャナーがサンジャナーを殺そうとしたため、サンジャナーが反撃し、誤ってアンジャナーを殺してしまったのだった。アンジャナーは亡霊となって実家の廃屋に閉じこめられていたが、その封印が解かれ、母親を襲ったりサンジャナーに取りついたりしていた。だが、これも事実とは異なった。あのとき殺されたのはアンジャナーではなくサンジャナーで、亡霊となって彼女を悩ませていたのはサンジャナーだったのである。この三重のどんでん返しがこの映画の肝になっている。
これでホラーシーンに緻密さがあれば完成されていたが、映像と音声で観客を物理的に怖がらせる稚拙な手法が踏襲されており、よくあるインド製ホラー映画の領域を脱していなかった。
結合双生児というとヴェトナムの「ベトちゃんドクちゃん」を思い出す。ベトちゃんドクちゃんはヴェトナム戦争中の枯れ葉剤の影響で下半身がつながった結合双生児として生まれた兄弟である。8歳の頃に分離手術が行われ、ドクちゃんの方は自立できたが、ベトの方は脳障害を抱えたまま寝たきりの生活となり、26歳で死亡した。この事例から、結合双生児の分離手術は簡単ではないことが分かる。だが、「Alone」ではいとも簡単にサンジャナーとアンジャナーの分離手術が行われており、その点で多少の疑問は感じた。
ビパーシャー・バスの演技もオーバーアクティング気味であった。サンジャナーとアンジャナーの演じ分けもないに等しく、ただメガネを掛けているか否かで見分けるしかなかった。かといってカラン・スィン・グローヴァーにこの映画を背負うような実力はなかった。
ビパーシャー・バスとホラー映画というと、「Raaz」ばりのエロティックなシーンも期待される。なにしろビパーシャーは「Raaz」で「セックスシンボル」として有名になったのである。ビパーシャーは「Alone」の中で一貫して露出度高めの服装をしていたが、それ以上のエロティシズムを醸し出すようなシーンはなく、この点でも肩透かしだった。そういうことも影響してか、興行的にはフロップの評価を受けている。
「Alone」は、結合双生児を主題にした変わり種のホラー映画である。プロットに仕込まれた三重のどんでん返しはよく工夫されていたが、ホラー映画としては原始的なレベルにとどまっている。ビパーシャー・バスや新人カラン・スィン・グローヴァーの演技も映画の質の向上にはつながっていなかった。それなりに楽しめる映画だが、それ以上の何かを期待できるような作品ではない。