Mere Husband Ki Biwi

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Mere Husband Ki Biwi
「Mere Husband Ki Biwi」

 2025年2月21日公開の「Mere Husband Ki Biwi(私の夫の妻)」は、意味深な題名を掲げたラブコメ映画である。一人の男性の妻だった女性とこれから妻になる女性の間で起こる「恋の三角関係」ならぬ「恋の円関係」を描いている。

 監督は「Happy Bhag Jayegi」(2016年)などのムダッサル・アズィーズ。主演はアルジュン・カプール、ブーミ・ペードネーカル、ラクル・プリート・スィンの3人。他に、アーディティヤ・スィール、ディノ・モレア、シャクティ・カプール、カヴィター・カプール、ムケーシュ・リシ、カンワルジート・スィン、アニーター・ラージ、ティクー・タルサーニヤー、アルカー・カウシャル、ハルシュ・グジュラール、ナヴァルディープ・スィン、スプリート・ベーディー、ニーラム・ダースワーニーなどが出演している。

 デリー在住のアンクル・チャッダー(アルジュン・カプール)は、友人の結婚式で出会った破天荒な女性プラブリーン・カウル・ディッローン(ブーミ・ペードネーカル)と恋に落ち、彼女に派手なプロポーズをして警察に逮捕されながらも彼女の心を射止める。だが、仲睦まじい期間は長続きせず、毎日ケンカをするようになる。プラブリーンの妊娠により一時は関係が回復するが、彼女の仕事を巡ってやはりケンカが始まり、最終的には自暴自棄になったプラブリーンが勝手に中絶をしてしまい、それがきっかけになって離婚に至る。

 アンクルはプラブリーンとの離婚から立ち直れずに過ごしてきた。父親(シャクティ・カプール)に頼まれて仕事の関係で彼はリシケーシュへ行き、そこで高校時代のマドンナだったアンタラー・カンナー(ラクル・プリート・スィン)と再会する。アンクルはデリーに帰った後もアンタラーと会うようになり、兄のリッキー(ディノ・モレア)にも認められ、やがて彼女にプロポーズする。アンクルの過去を知っていたアンタラーはすぐには返事をしなかった。実は大学時代にアンタラーはプラブリーンと因縁があった。

 アンクルがアンタラーにプロポーズした日、アンクルはプラブリーンが交通事故に遭ったという知らせを受け、病院へ行く。プラブリーンの命に別状はなかったが、頭を強く打っており、過去5年間の記憶を失っていた。5年前といえばアンクルがプラブリーンにプロポーズした日だった。プラブリーンはアンクルからプロポーズされた直後だと考えていた。アンクルは彼女に、自分たちは離婚したことを伝えたが、どうして離婚したのかまでは伝えなかった。医者から強いショックを与えないように言われていたためである。

 プラブリーンが記憶喪失になったと聞いたアンタラーは嫌な予感を感じる。プラブリーンは理学療法士をするアンタラーの診療所を訪れ、仲直りしたように見せかけて、アンクルを奪い取ろうと画策していた。その意図をアンタラーも察知し、彼女を妨害しようとする。アンタラーはアンクルの両親の結婚記念日に公衆の面前でアンクルのプロポーズを受け入れ、プラブリーンとその家族もスコットランドで行われる結婚式に招待する。また、プラブリーンの恋人を自称するラージーヴ(アーディティヤ・スィール)も同行させる。

 スコットランドでもアンタラーとプラブリーンは火花を散らす。だが、プラブリーンが飲酒をして倒れたことでアンタラーはアンクルに、プラブリーンの記憶が戻っており、彼を巡って競い合っていたことを明かす。アンクルは彼女を叱りつける。プラブリーンが目を覚ますと、アンクルとアンタラーの結婚は中止となっており、アンタラーは空港へ向かっているところだった。プラブリーンはアンクルに、同じ失敗を二度としてはいけないと諭し、アンタラーを追わせる。空港でプラブリーンはアンクルに代わってアンタラーの前でひざまずき、元夫と結婚してくれるように頼む。こうしてアンクルとアンタラーの結婚が予定通り行われることになった。

 1人の男性を2人の女性が奪い合うという構成のラブコメ映画はヒンディー語映画界でもそれほど珍しくないが、この「Mere Husband Ki Biwi」がユニークだったのは、女性目線の物語であったことだ。アルジュン・カプール演じるアンクルは、いわゆるボンボンであり、時々瞬発力を見せるが、普段はあまり主体性のない男性として描かれていた。それに比べてブーミ・ペードネーカル演じるプラブリーンとラクル・プリート・スィン演じるアンタラーはどちらも主体的な女性であり、アンクルとの恋愛や関係をリードするのも基本的には彼女たちである。結末でプラブリーンはアンクルのためにアンタラーにプロポーズするが、その時点でこの映画の主人公がプラブリーンであったことがはっきりする。2010年代以降、ヒンディー語映画界で支配的な女性中心映画に位置づけることができる。

 離婚が描かれている点でも注目される。物語開始時から既にアンクルはバツイチであった。その後、アンタラーと出会い、プロポーズするが、その日にプラブリーンとも再開し、三角関係が形成される。映画の中ではそれを「円関係」と呼んでいた。さて、最終的にアンクルはどちらと結ばれるのか、見ものであったが、前述の通り、プラブリーンが元夫を新しい妻に譲るという形で結末としていて新鮮だった。従来のインド映画では、離婚したカップルが再び同じ相手と再婚する、いわゆる元鞘系のプロットが定番であったが、もはやその法則は2010年代に崩れており、この「Mere Husband Ki Biwi」でも名残を全く感じない。

 プラブリーンとアンタラーによるアンクルの奪い合いを面白く見せるために、プラブリーンがアンクルからプロポーズされた後の記憶を失うという仕掛けを用意していた。これはよく工夫された仕掛けであった。しかもプラブリーンは早めに記憶を取り戻していながら、アンクルとよりを戻すために記憶喪失を装い、アンクルを引き寄せようとする。アンタラーもそれに気付きながら、負けず嫌いであるため、プラブリーンに競り勝ってアンクルの心を手にしようとする。プラブリーンとアンタラーとの間の「女と女」の戦いであり、これも面白かった。従来の映画でよく描かれた「男と男」の戦いの逆バージョンであろう。

 面白い仕掛けがいくつもちりばめられていた映画であったが、残念ながらそれをうまく並べることができていなかった。たとえばアンクルとプラブリーンの結婚生活がなぜ破綻したのかもひとつ面白いエピソードであったが、断片的にしか見せておらず、もったいなかった。記憶喪失になったプラブリーンにショックを与えてはならないという医者のアドバイスがあったものの、割と簡単に離婚の事実を教えてしまっていた。もしかしたら時間の関係でカットされたシーンがあったのかもしれないが、唐突な展開に感じた。

 アルジュン・カプール、ブーミ・ペードネーカル、ラクル・プリート・スィンの相性も良かったとはいえなかった。ブーミとラクルは方向性が異なる女優だと感じるし、男性の好みも違いそうだ。彼女たちがアルジュンを巡って女の戦いを繰り広げる様子はどこか芝居じみていた。この映画で大きなサプライズはディノ・モレアがチョイ役で出演していたことだ。久々にスクリーンで観たが、かつてのハンサム男優もかなり年を取っており、渋い俳優になっていた。チョイ役といえばアーディティヤ・スィールもいたが、彼の演じたラージーヴはアンクル以上に主体性のない情けない男性であった。

 「Mere Husband Ki Biwi」は、バツイチ男性を巡って元妻と結婚相手が女の戦いを繰り広げる女性主体のラブコメ映画である。着想や仕掛けは悪くないが、それらの組み合わせで失敗しており、興行的にもフロップに終わった。無理して観る必要のない映画である。