
2025年1月24日からDisney+ Hotstarで配信開始された「Sweet Dreams」は、夢で出会った男女がお互いを求め合い、現実世界で探し合うという一見するとファンタジックなロマンス映画である。だが、現代の映画らしく、ファンタジー性をきちんと理屈で解決し、道理にかなった映画になっている。
監督は「Lakadbaggha」(2023年)のヴィクター・バナルジー。メインキャストは、「Cash」(2021年)などのアモール・パラーシャル、「Tribhanga」(2021年)などのミティラー・パールカル、「Badmaash Company」(2010年)などのメイヤン・チャン、ベンガル語映画女優のサウラセーニー・マイトラーの4人。他に、モーヒニー・シンピー、アーイシャー・アドラカー、スカラン・ヴァッツなどが出演している。
ムンバイー在住のインフルエンサー、ケネス・フェルナンデス(アモール・パラーシャル)は、毎晩同じ夢を見るようになった。その夢で彼は見知らぬ女性とカフェで会話をしていた。ケネスは元彼女のシーリーンに振られたショックから立ち直れておらず、精神科医は失恋が原因だと診断するが、ケネスは夢の女性を探し始める。
ケネスが夢で見ていた女性は、プネー在住のディヤー・ジャイスィン(ミティラー・パールカル)であった。ディヤーもケネスと同じ時期から夢の中でケネスを見るようになり、気になっていた。ディヤーにはイシャーン・チェートリー(メイヤン・チャン)という恋人がおり、一緒にカナダに移住しようと誘われていた。ディヤーはあれこれ手を出すタイプの女性で人生に確固たる目標を持てずにいたが、カナダ行きには気が乗らなかった。
ケネスは同僚のアーカーシュ・メヘラー(スカラン・ヴァッツ)やヌブラー・アハマド(アーイシャー・アドラカー)と共にアリーバーグへ気晴らしにバカンスへ行く。そこで彼は夢の中の女性とそっくりの女性を見掛け、追いかけるが追いつけなかった。そこでケネスはループ・ダッター(サウラセーニー・マイトラー)という女性と出会う。なかなか夢の中の女性を見つけられなかったケネスはループに悩みを打ち明ける。ループは親身になって聞いてくれ、いろいろ手も貸してくれる。
ムンバイーに戻ったケネスは、またも夢の中でその女性を見たが、今度は彼女と会っている場所と時間を特定することができた。ケネスはそのカフェへ行って待ち続けるが、彼女は現れなかった。ちょうど同じ頃ディヤーもプネーのカフェで彼を待ち続けていた。
そのようなすれ違いがあった後、SNSを通じてケネスはディヤーの親友タヌシュリー・ディークシト(モーヒニー・シンピー)とコンタクトを取ることに成功する。彼女からディヤーがプネーで初めてのギグを行うと聞き、ループと共に訪れる。ようやくケネスはディヤーと出会うことができた。だが、このときケネスは、自分の運命の人はディヤーではなくループだと気付いていた。ディヤーもイシャーンとの仲を精算できていなかった。また、以前、ケネスがシーリーンに振られた日、二人はムンバイーのカフェで顔を合わせていたことを思い出す。これで二人がお互いを夢に見る理由も分かったのだった。
監督がまだほとんど無名ということもあってか、売り出し中の俳優たちを多数起用して撮られたロマンス映画である。このキャスティングはフレッシュで良かった。また、最近はまともなロマンス映画が少なくなっているため、その意味でも恋愛にフォーカスしているこの作品が新鮮に感じられた。
導入部は非常にありきたりだ。主人公のケネスとディヤーは夢の中でお互いを見るようになり、二人とも相手を探すようになるというものだ。二人はかなり接近もするのだが、ギリギリのところですれ違いを繰り返し、なかなか会うことができない。だが、SNSも使いながらお互いの素性を確かめていき、最終的には顔を合わすことができる。これでこの二人が恋に落ちるという流れだったら、本当に何のひねりもないド直球のロマンス映画になっていたところだった。
「Sweet Dreams」が新しかったのは、ケネスとディヤーをあえてくっ付けなかったことである。ディヤーのはイシャーンという恋人がいたし、ケネスはディヤーを探す中でループという女性と出会い、彼女の中に夢の中で出会う女性の特質を見出す。必ずしも夢に現れる異性が運命の人ではない、現実世界の出会いをもっと大事にしようというメッセージが発信されていた。
全く別の街に住み、知り合いでもない男女が毎晩夢の中で顔を合わせるというのは不思議な現象だ。だが、それにも一応の理由付けがされている。本人たちは気付かなかったが、実はケネスとディヤーは以前、ムンバイーのカフェで顔を合わせていたのだった。そのときの印象があったためにお互いを夢に見ていたと説明されていた。ただ、そうはいってもその二人が同時期に同じような夢を見るというのはまだ説明し尽くされていなかった。若干の不足はあるものの、完全にファンタジーで終わらせなかったのはこの映画を現代的なロマンス映画にしていた。
現代的といえば、「Sweet Dreams」ではSNSが大活躍する。既にSNSはインドの現代劇では欠かせないコミュニケーションツールになっており、登場しない方が珍しい。それでも「Sweet Dreams」では、顔見知りではない男女がお互いを探すという設定になっており、そこにSNSが大きく貢献する様子が描かれていてユニークだった。たとえばケネスとディヤーはどうやら同じ日にアリーバーグにいたようだった。それが分かると、「#alibaug」などで検索し、その日に相手が写真や動画を挙げていないか探すのである。いかにも現代的な人探し法だ。
「Sweet Dreams」のキーパーソンはループだった。ループはケネスのドリームガール探しに献身的に協力する。だが、誰の目にもループがケネスを好いていることが分かった。それでもループはケネスがディヤーと会えるように支援を続ける。ケネスもループの自己犠牲的な優しさを感じ取り、最終的には彼女こそ自分の運命の人だと気付くのである。観客の誰もがループを応援したくなるような作りであり、ケネスとループがくっ付く未来を暗示しての終わり方は秀逸であった。ただ、この映画でもっとも弱いキャラもループだった。謎の女性として現れ、大して素性が描かれない内に、謎の女性として終わってしまう。もう少しループの描写に時間を割くべきであった。
ケネス役を演じたアモール・パラーシャル、ディヤー役を演じたミティラー・パールカル、イシャーン役を演じたメイヤン・チャン、そしてループ役を演じたサウラセーニー・マイトラーは皆好演していた。アモールは今のところ押しが弱い印象で、スターまで登り詰めるのは難しいかもしれないが、作品に恵まれればどこかに自分の居場所を確保できるはずだ。もっともパワフルな演技を見せていたのはミティラーで、彼女は今後も伸びる可能性がある。メイヤンは世にも珍しい中華系インド人俳優であり、以前から動向が気になっていた。本作では彼のエスニシティーが話題に上がることはなく、普通のインド人と同じ扱いであったことが特筆される。サウラセーニーにとってはこの作品がヒンディー語デビュー作となるはずである。笑顔が素敵な女優という印象だ。
「Sweet Dreams」は、最近では珍しくなった直球のロマンス映画だが、序盤で見られるファンタジー要素の大部分は終盤に解決され、逆に現実に目を向ける方向性の恋愛に落ち着いているのが目新しかった。SNSの使い方がうまかった作品でもある。若い俳優たちのフレッシュな演技が見られたのも良かった。観て損はない映画である。