Ganapath

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Ganapath
「Ganapath」

 2023年10月20日公開の「Gapanath」は、核戦争で多くの人類が死滅し、富裕層と貧困層が完全に分断されたディストピア的な近未来を舞台にしたSFアクション映画である。題名になっている「ガナパト」とはゾウの頭をしたガネーシャ神の別名だが、映画の中では予言された貧者の救世主の名前になっている。

 プロデューサーはヴァース・バグナーニーやジャッキー・バグナーニーなど。監督は「Queen」(2014年/邦題:クイーン 旅立つわたしのハネムーン)や「Super 30」(2019年/邦題:スーパー30 アーナンド先生の教室)のヴィカース・ベヘル。

 主演はタイガー・シュロフとクリティ・サノン。二人の共演は両者にとってのデビュー作「Heropanti」(2014年)以来となる。共にデビューしたタイガーとクリティは、現在ではヒンディー語映画界の第一線で活躍するスターになっている。

 他に、レヘマーン、ジャミール・カーン、シュルティ・メーナン、エリ・アヴラム、ズィヤード・バクリー、ジェス・リアウディン、ブラヒム・チャブなどが出演している。国際的な人材が起用されており、エリはギリシア人の血を引くスウェーデン人女優、ズィヤードはパレスチナ人監督、ジェス・リアウディンとブラヒム・チャブはフランス人格闘家である。また、アミターブ・バッチャンとガウハル・カーンが特別出演している。

 核戦争で人類の大半が死滅した後、世界は富裕層の住むシルバーシティーと貧困層の住むスラムに分かれ、2つの世界は堅固な壁と門で分断されて往き来が厳しく制限されていた。世界の支配者ダリーニーは、使者のシャーイナー(シュルティ・メーナン)を使って代理人ジョン・ジ・イングリッシュ(ズィヤード・バクリー)を操っていた。

 グッドゥー(タイガー・シュロフ)は孤児だったが、カイザード(ジャミール・カーン)に拾われ、ジョンに気に入られて、彼のアシスタントをしていた。グッドゥーの仕事は、スラムのファイトクラブへ行って有能なファイターを探すことだった。シルバーシティーではファイターたちの戦いが賭博の対象になっており、ジョンは八百長試合によって巨額の利益を得ていた。

 あるときグッドゥーはジョンの恋人ディンプル(エリ・アヴラム)に誘惑され、それが原因でジョンの不興を買ってしまう。グッドゥーは捕らえられ、ディンプルともども生き埋めにされる。だが、グッドゥーは死なず、地中からはい上がった。カイザードから助言を受けたグッドゥーは、壁の向こうへ行き、シヴァーという人物を探す。

 シヴァーを探し歩いていたグッドゥーは、突然ジャッスィー(クリティ・サノン)というヌンチャクの使い手に連行される。グッドゥーが行き着いた荒野には集落があり、そこでは多くの人々が格闘技の訓練をしていた。この訓練場を束ねていたのがシヴァー(レヘマーン)であった。

 スラムのファイトクラブは、シルバーシティーの支配者層に立ち向かう戦士を育てるため、ダラパティ(アミターブ・バッチャン)によって建設されたものだった。だが、ジョンによって蹂躙され、シルバーシティーの闘技場で戦うファイターをスカウトする場に成り下がっていた。ダラパティは、いつか「ガナパティ」という救世主が現れると予言して息を引き取る。実はシヴァーはダルパティの息子であり、グッドゥーはシヴァーの生き別れた息子であった。シヴァーはグッドゥーこそがガナパティだと直感するが、シルバーシティーで悠々自適の生活を送ってきたグッドゥーはすっかり怠け者になっており、女の子と踊りにしか興味がなかった。ジャッスィーもこれではガナパティを覚醒できないとため息をつく。

 それでも、グッドゥーと一緒に過ごす内にジャッスィーは彼に惹かれるようになり、やがて二人は恋仲となる。あるときジャッスィーはファイトクラブの主タバーヒー(ジェス・リアウディン)に誘拐されてしまう。グッドゥーはジャッスィーを助け出すためにタバーヒーに挑戦するが返り討ちにされてしまう。ほうほうの体で逃げ帰ったグッドゥーはシヴァーに特訓を申し出る。シヴァーはグッドゥーに格闘技の奥義を教える。

 すっかり強くなったグッドゥーは再びタバーヒーに挑戦し打ち負かす。だが、その試合をジョンも観戦していた。ジョンはグッドゥーをシルバーシティーに連れて行く。グッドゥーの裏切りを見たジャッスィーは失望する。

 シルバーシティーに戻ったグッドゥーはファイターとなってジョンのために戦い出す。グッドゥーは瞬く間に人気ファイターとなる。グッドゥーはジョンに、スラムの人々にも賭博を解放し大儲けすることを提案する。ジャッスィーはグッドゥーに、シヴァーこそが彼の父親だと伝えに行くが、グッドゥーは彼女を冷たくあしらう。

 グッドゥーは最強のファイター、ブラッドバスと対戦する。ジョンにはわざと負けると言ってあった。スラムの人々はなけなしの金を全額グッドゥーに賭け、試合を見守った。グッドゥーは負けると見せかけてブラッドバスをリングに沈め、スラムの人々に多額の賞金をもたらす。一方、ジョンは全財産を失う。実は全てグッドゥーの作戦であった。そこにグッドゥーとそっくりなダリーニー(タイガー・シュロフ)が現れ、彼の挑戦を受け入れる。

 企画は完全に大予算型映画を思わせる規模のものだった。核戦争で人類の大半が死滅し、生き残った人々は富裕層と貧困層に分断されて生きる退廃した近未来を舞台にしている。どこかで聞いたような設定ではあるが、野心的なスケールは十分に感じる。昨今の大作では定番となった多言語展開も行われており、オリジナルのヒンディー語版に加え、タミル語、テルグ語、マラヤーラム語、カンナダ語の吹替版も同時公開された。

 しかしながら、肝心のCGがチープであり、近未来の世界観が台無しになっていた。当初期待していたスケールの大きさは映画が始まってしばらくするとほとんど感じなくなり、いつの間にか格闘映画に落ち着いていた。それならば別に近未来を舞台にしなくても成立したストーリーであった。

 富裕層と貧困層が分断された世界において、貧困層の救世主として「ガナパト」が現れると予言されていた。当然、主演のタイガー・シュロフがガナパトだということは容易に想像できる。そして、彼が演じる役はスラムの方で生活していると考える。それはいい意味で裏切られていた。タイガー演じるグッドゥーは、富裕層の住むシルバーシティーの住人であり、貧困層のことなど全く歯牙にもかけない悠々自適の生活を送っていた。その彼が、ボスのジョンから濡れ衣を着せられて殺されかけ、シルバーシティーを出奔したことから物語は動き出す。

 それでもグッドゥーの覚醒は遅く、シヴァーに会った後ものほほんとしている。シヴァーの下で格闘技の訓練を行うジャッスィーがリスクを冒したことでようやく彼の気持ちも変化し、ガナパトにふさわしい戦闘力を身に付ける。ここまでが長かった。

 この映画に緊迫感がないのは、ひとつはグッドゥーの覚醒が遅いことであるが、もうひとつはシヴァーが安全圏にいて、しかも存在意義が謎であることである。通常ならばシヴァーはレジスタンスのリーダーと目され、シルバーシティーの支配者から追われる身であるはずだが、なぜかシヴァーはほとんど無視されていた。しかもシヴァーがなぜ人々を訓練しているのかよく分からなかった。いずれ反乱を起こそうとしていたのだろうか。だが、結局グッドゥーがファイターとしてジョンを破滅に追い込むことになり、シヴァーと彼の兵士たちが動くことはなかった。グッドゥーがジョン側に寝返ったと見せて実はスラムの人々のために動いていたというどんでん返しも全くどんでん返しになっておらず、予想の範囲内だった。

 実は「Ganapath」は元々二部構成であり、本作も「Part 1: A Hero Is Born」という副題が付けられていた。映画の最後ではパート2の予告がされていたが、パート1がヒットしなかったため、未完のまま終わりそうだ。

 インドでは「Koi… Mil Gaya」(2003年)から始まったSF映画の系譜だが、必ずしもヒット率は高くない。かつて「Love Story 2050」(2008年)や「Drona」(2008年)といったとんでもない失敗作を送り出してきた。この「Ganapath」も盛大にこけてしまったSF映画のひとつだ。一目観ればその失敗の理由が分かるだろう。相変わらずタイガー・シュロフは運動神経を活かして機敏に動き回っていたし、クリティ・サノンもヌンチャクの使い手としてアクションシーンをかっこよく決めていた。だが、大風呂敷を広げすぎて予算と手が回らなかったと見え、演技でカバーできないほどの欠陥があちこちに見られる失敗作になってしまっていた。特別な目的がなければ観る必要のない映画である。