Darling (Pakistan)

3.0
Darling
「Darling」

 パキスタンのナーイム・サーディク監督の短編映画「Darling」は、2019年にパキスタン映画として初めてヴェネツィア国際映画祭で上映された作品として記録されている。プレミア上映はコロンビア大学映画祭においてで、2019年5月18日だ。カンヌ映画祭で「ある視点」審査員賞を受賞したサーディク監督「Joyland」(2022年)の前日譚ともいえる作品であり、セットで鑑賞するべきである。

 16分ほどの作品であり、主な登場人物は、アブドゥッラー・マリク演じるシャーニーと、アリーナー・カーン演じるアリーナー・ダーリンの2人だ。アリーナー・カーンはトランスジェンダー俳優であり、「Darling」の中でもダンサー志望のヒジュラーを演じる。「Joyland」に登場するヒジュラー、ビーバーは、アリーナー・ダーリンの後の姿と受け止めることができる。

 「Darling」は、アリーナーが恋人のシャーニーに連れられて、ムジュラーを公演する劇場にオーディションを受けにいくところから始まる。その劇場にはシャッボーという女性スターダンサーがおり、男性客は彼女の踊りを観に来ていた。女性ダンサーを引き立てるためにバックダンサーには男性が起用されていたが、トランスジェンダーのアリーナーはお呼びではなかった。

 それでもアリーナーは食い下がり、長い髪を布で覆って、男性バックダンサーとして踊り出す。だが、シャーニーは彼女に対するこの扱いに耐えられず、ショーの途中で踊りを止めてしまう。

 「Darling」はパーキスターン社会においてトランスジェンダーが伝統的な仕事以外の職業に就こうとすると、まだまだいくつもの困難に直面するということを、短い映像の中で端的に示した映画だといえるだろう。

 パーキスターンでは、2009年にヒジュラーを含むトランスジェンダーが「第三の性」として認められたのに続き、2018年にはトランスジェンダー保護法が施行されて、男性と女性の狭間に位置する人々の権利が認められた。

 「Darling」では、ヒジュラーに対する露骨な差別が描かれていたわけではない。ただ単にダンサーのオーディションでヒジュラーとしては合格しなかっただけだ。だが、どうしてもダンサーになりたかったアリーナーは、ありのままの自分としてではなく、男性として踊る選択肢を採る。それは彼女にとって屈辱的なことだったが、夢を叶え、生計を立ていくためには仕方のないことだった。

 映画で描かれていたムジュラー劇場のような興行が本当に行われているのかは分からない。劇中のセリフによれば、パーキスターンで映画産業が衰退した後、映画館は経営のために、このようなエロティックなダンスを公演するようになったようである。雰囲気としては、ウッタル・プラデーシュ州の田舎町などで興行されるナウタンキーに似ている。

 「Darling」は、「Joyland」の前日譚となる短編映画である。「Joyland」で野心的なダンサーとして描かれていたビーバーが、ムジュラー劇場に雇われた経緯を知ることができる。「Joyland」のときとは異なり、ヒジュラーとしてステージに立つことは許されず、男装してバックダンサーをすることになっていた。「Darling」から「Joyland」までの間に何が起こったのかも知りたいところである。「Joyland」を鑑賞した人にはお勧めの作品だ。


Darling Dir. Saim Sadiq | IFP Student Short Film Showcase Finalist