人と出会ったときにまず最初に尋ねるのは相手の調子だ。ヒンディー語の会話でも、「नमस्ते」などの出会い頭の挨拶を済ませた後は、「お元気ですか?」「ご機嫌いかがですか?」にあたる次の挨拶をお互いに交わすのが通例である。
相手の状態を尋ねるもっとも一般的かつシンプルなフレーズは、「क्या हाल है?」だ。直訳すれば「状態は何ですか?」になる。少し古い映画になるが、「Sunehra Sansar」(1975年)から「Hello Hello, Kya Haal Hai」を聞いてみよう。
हेलो हेलो क्या हाल है
बड़ा बुरा यह साल है
बहकी हुई सी चाल है
こんにちは ご機嫌いかがですか
今年はとても悪い年です
まともに歩けません
「お元気ですか?」と聞かれてこの歌詞のように答えることはあまりない。韻を踏むためにこうなっている上に、「悪い年」「まともに歩けない」というのは恋に陥ってまともな状態ではなくなっているというその後の歌詞の展開につなげるためのものであって、日常会話の中では「ठीक हूँ(元気です)」などで返すことがほとんどである。
「क्या हाल है?」よりさらにシンプルな「कैसे हैं?」という挨拶もある。こちらは直訳すると「どうですか?」になる。他にも様々な言い方があり、「お元気ですか?」系の挨拶がひとつまたは少数に固定・限定されているわけではない。
たとえば、「お元気ですか?」のかなり気取った言い方が「आपके कैसे मिज़ाज हैं?」だ。直訳すると「あなたの調子はいかがですか?」である。「Dil Hai Ki Manta Nahin」(1991年)の「Kaise Mizaj Aapke Hain」は、倒置はあるものの、正にこのフレーズで始まる歌だ。しかも、冒頭の一節がちゃんと会話になっている。
कैसे मिज़ाज आपके हैंं फ़रमाइए
हम तो हैं ख़ैरियत से अपनी सुनाइए
ご機嫌いかがですか 聞かせてください
私は元気にしています あなたはいかがですか
ヒンディー語映画は当然のことながらヒンディー語の映画なのだが、他の北インド主要言語がセリフや歌詞の中にアクセントとして使われることも少なくない。特に各主要言語の「お元気ですか?」くらいの簡単なフレーズならば全国的によく知られており、問題なくセリフや歌詞に入れ込むことができる。
パンジャービー語では「ਕੀ ਹਾਲ ਹੈ?」、ベンガル語では「কেমন আছিস?」などになるが、意外にヒンディー語映画でよく耳にするのがグジャラーティー語の「કેમ છો?」だ。現在のマハーラーシュトラ州とグジャラート州は元々同じボンベイ管区であり、ヒンディー語映画の本拠地ムンバイーにはグジャラート人が多いことがその理由だと思われる。ゾロアスター教を信仰する拝火教徒たちも歴史的な理由からグジャラーティー語を母語とすることが多く、彼らが登場するとグジャラーティー語を話すのが常である。
「Baazaar」(2018年)という映画には「Kem Cho」という歌があった。サビにこのフレーズが使われている。さらに、「કેમ છો?」と必ずといっていいほどセットででてくる「મજામાં?(元気?)」が続く。