Rangrezz

3.5
Rangrezz
「Rangrezz」

 2013年3月21日公開の「Rangrezz(染色屋)」は、駆け落ち結婚を巡る友情と裏切りの物語だ。通常、インド映画は恋愛を礼賛し、駆け落ち結婚にも前向きであるが、この「Rangrezz」はそんな安易な風潮に一石を投じ、一時の熱情に浮かされた駆け落ち結婚に警鐘を鳴らす内容になっている。

 監督はベテランのプリヤダルシャン。1990年代からマラヤーラム語映画、タミル語映画、ヒンディー語映画と言語を超えた活躍をしてきた元祖汎インド映画監督の一人である。また、基本的にはコメディー映画を得意とするものの、アクション映画から感動作まであらゆるジャンルの映画も作れる器用な監督だ。

 プロデューサーはヴァース・バグナーニーで、その息子ジャッキー・バグナーニーが主演である。他に、ヴィジャイ・ヴァルマー、アミトーシュ・ナーグパール、プリヤー・アーナンド、アクシャラー・ゴウダー、ラーガヴ・チャナーナー、パンカジ・トリパーティー、ルシン・ドゥベー、スシール・スィナー、ソーナー・ナーイル、サキー・ゴーカレーなどが出演している。

 音楽監督はサージド・ワージド。撮影監督をサントーシュ・シヴァンが務めている。プリヤダルシャン監督がサントーシュ・シヴァンと一緒に仕事をするのは「Kaalapani」(1996年)以来となる。

 「Rangrezz」は、タミル語映画「Naadodigal」(2009年)の公式リメイクである。

 ムンバイー在住のリシ・デーシュパーンデー(ジャッキー・バグナーニー)は正義感の強い青年だった。隣人のジョーシーにはメーガー(プリヤー・アーナンド)という娘がいた。リシの父親デーヴダッター(スニール・スィナー)とジョーシーは子供たちが幼い頃にリシとメーガーの結婚を決めていた。リシとメーガーもそのつもりだったが、ジョーシーはリシにひとつだけ条件を付けていた。それは公務員になることだった。そのため、リシは警察の採用試験を受けていたのだった。

 リシには、パキヤー(ヴィジャイ・ヴァルマー)とヴィノード(アミトーシュ・ナーグパール)という2人の親友がいた。パキヤーは短気な性格だったが、海外で一儲けするのが夢だった。ヴィノードはネットカフェを開くのが夢で銀行にローンの申請をしていた。ヴィノードは、リシの妹ヴェーヌ(サキー・ゴーカレー)と密かに付き合っていた。

 あるときリシのところにウッタル・プラデーシュ州ラリトプルから旧友のジョイ(ラーガヴ・チャナーナー)が訪ねて来る。ジョイは同州の有力政治家ラティ・チャトゥルヴェーディー(ルシン・ドゥベー)の息子で、ラティのライバルである実業家ブリジビハーリー・パーンデー(パンカジ・トリパーティー)の娘ジャスミン(アクシャラー・ゴウダー)と恋仲にあった。だが、パーンデーもラティも二人の結婚を認めようとしなかったため、思い悩んでムンバイーまでやって来たのだった。ジョイが自殺未遂をしたことでリシは事情を知り、彼に協力することになる。

 ジョイ、パキヤー、ヴィノードはラリトプルを訪れ、ジャスミンを連れ出してジョイと駆け落ち結婚させようとする。その過程でパキヤーは耳を殴られて聴覚を失い、ヴィノードはトラックに片脚を轢かれて切断することになる。また、警察に逮捕されたためにリシは警察になれなくなる。彼らは自分たちの人生や命を犠牲にしてまでジョイとジャスミンの駆け落ち結婚を応援した。そのおかげで二人は結婚後に脱出し、ゴアに逃れることができた。

 保釈され、ムンバイーに戻ったリシ、パキヤー、ヴィノードは、ラリトプルから同行してきたお世話になったマーン・スィン(ラージパール・ヤーダヴ)と共に食堂を経営を手伝う。ヴィノードはネットカフェを開くことができた。しかしながら、リシの祖母はパーンデーの息のかかった悪党に襲われて死に、リシは公務員の夢が絶たれたためにメーガーと結婚できないことになった。メーガーは別の男性と結婚してしまったが、その代わり、リシは妹のヴェーヌがヴィノードと結婚するのを助ける。

 裁判の決着を付けにラリトプルに戻った三人は、既に裁判が終了していることを知る。パーンデーもラティも訴えを取り下げたのである。調べてみると、ジョイとジャスミンはゴアで不仲になり、既に別居していて、離婚の手続きも進んでいた。しかもジョイは別の女性と再婚しようとしていた。三人は激怒し、ジョイとジャスミンを連れ去って、彼らを叱りつける。そして去って行く。

 2年後、リシは警官になっていた。

 細かい部分で粗があった。たとえばラリトプルで一人の謎の人物がリシ、パキヤー、ヴィノードのグループに加わり、ジョイとジャスミンの駆け落ち結婚を助けるが、その人物が何者なのか全く説明されていなかった。もうひとつ例を出すとすれば、片脚を失ってしまったヴィノードとヴェーヌの結婚だ。どうやらヴィノードのカーストはリシの家よりも低かったようだ。リシは「デーシュパーンデー」姓なのでブラーフマン(バラモン)であることは間違いないが、ヴィノードのカーストは明示されていなかった。それなのに、リシの両親はヴェーヌとヴィノードが恋仲にあると知るとカーストを理由に烈火の如く怒った。それまでヴィノードのカーストについては全く言及がなかったために唐突な展開だった。もしかしたら検閲でカットされたためにこのようになったのかもしれない。

 この映画でもっとも力が入れられていたのは、中盤にあるジョイとジャスミンの駆け落ちシーンだ。シヴァ神を礼賛する「Shiv Shambo」をBGMにして、パーンデーのグループとラティのグループが入り乱れる中、リシ、パキヤー、ヴィノードが連係プレイでジャスミンを連れ出しジョイと駆け落ちさせる過程が疾走感ある映像と共に描写されている。しかも、彼らは無私ばかりか全てを犠牲にして二人の駆け落ちを助けた。この出来事の影響でリシは警官になる夢を絶たれ、パキヤーは聴覚を失い、ヴィノードは片脚を失った。だが、彼らはちっとも後悔していなかった。なぜなら友情に勝るものはこの世にないからである。ここまでは「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)や「Kai Po Che」(2013年)に並ぶ友情物語であった。

 ジョイとジャスミンの駆け落ちに畳みかけるように、ヴィノードとヴェーヌのカーストを超えた結婚も描かれる。リシの両親はヴィノードとヴェーヌの結婚を差別たっぷりに「धर्मभ्रष्टダルムブラシュト」、つまり「理に反する」「カーストが下がる」と表現するが、リシは親友ヴィノードほど妹の結婚相手にふさわしい相手はいないと力説し、「友情は宗教に勝る」とまで宣言する。

 散々、自分が好きな相手と結婚することの大切さ、友情の素晴らしさ、そして友人のために全てを犠牲にする尊さが謳われた後で、ジョイとジャスミンの意外な結末が提示され、映画の雰囲気がガラリと変わる。リシ、パキヤー、ヴィノードは全く知らなかったのだが、とっくにジョイとジャスミンは破局し、各々の家に帰っていたのである。リシはジョイに電話するが、ジョイは出ようともしなかった。無私の友情が裏切られた瞬間だった。

 「Rangrezz」は、恋愛結婚に走ろうとする若い世代を不安がる親の世代への深い理解まで示す。そしてこの映画の主な観客層であろう若者たちに、安易な駆け落ち結婚を戒めるメッセージを送る。お説教臭いところは否めないが、こういう意外な結末の映画もあることは決してインド映画にとってマイナスにはならないと感じる。前向きに受け止めたい。

 駆け落ち結婚の是非にストーリーの主軸があったため、リシとメーガーの恋愛は結局実らずに終わってしまった。それも割り切りの良さと評せられるが、モヤモヤしたものが残る結末でもあった。

 主演のジャッキー・バグナーニーは、有力プロデューサーである父親の七光りによっていくつか主演作をもらえているが、スター俳優としては定着できていない。「Rangrezz」では好演していたものの、元々スターにふさわしいカリスマ性が備わっているわけでもなく、無理に背伸びをしているようにも見えた。むしろこの映画で光っていたのはヴィジャイ・ヴァルマーだ。短気なキャラを迫真の演技で演じ切った。女優陣には特に注目すべきものは見出せなかった。あるとすればリシの祖母役くらいだ。

 「Rangrezz」は、ベテラン監督プリヤダルシャンがタミル語映画をヒンディー語にリメイクしたものだ。名誉殺人が紙面を賑わす中、敢えて駆け落ち結婚に否定的なメッセージを送る映画を作ったのは見上げたものだ。しかしながら、メッセージ優先となり、映画を気持ちよく着地させることには部分的にしか成功していなかった。観て損はないが、モヤモヤしたものが残る映画だった。


https://www.youtube.com/watch?v=O1y1eBtjdBo