2021年10月22日公開の「Babloo Bachelor」は、35歳独身男性が人生の伴侶を見つけるまでを描いたコメディータッチのロマンス映画だ。ヒンディー語映画界では過去に同じような映画が腐るほど作られてきたが、その積み重ねの上にどんな新規性のある作品を提供できるのか、見ものである。
監督はアグニデーヴ・チャタルジー。主にベンガル語映画界で映画を撮ってきた監督である。主演は「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)や「Ferrari Ki Sawaari」(2012年/邦題:フェラーリの運ぶ夢)などに出演していた「いい人」俳優シャルマン・ジョーシー。ヒロインは「Commando: A One Man Army」(2013年)のプージャー・チョープラーとマラーティー語映画女優テージャシュリー・プラダーン。他に、ラージェーシュ・シャルマー、リーナー・プラブ、マノージ・ジョーシー、アスラーニー、アーカーシュ・ダーバーデー、スミト・グラーティーなどが出演している。
ウッタル・プラデーシュ州ラクナウー在住のバブルー(シャルマン・ジョーシー)は35歳になるまで独身だった。父親のタークル(ラージェーシュ・シャルマー)によって無理矢理お見合いをさせられたバブルーは、アヴァンティカー(プージャー・チョープラー)という女性と出会い、好感を抱く。ところが、バブルーは裕福な家に生まれたため何不自由なく育ってきており、野心がなかった。アヴァンティカーは彼のそんな部分を気に入らず、彼との結婚を拒否する。
バブルーは従妹の結婚式でスワーティー(テージャシュリー・プラダーン)という女性と出会う。スワーティーはムンバイーで女優になることを夢見ていたが、父親からは結婚を強要されていた。スワーティーは突然バブルーと結婚すると言い出し、バブルーとは幼馴染みだったと嘘を付く。バブルーは驚くが、彼女との結婚を受け入れる。こうして二人の結婚式も行われた。
初夜にてスワーティーはバブルーにセックスは後にしようと言う。バブルーはそれを受け入れる。ハネムーンで彼らはラージャスターン州ウダイプルへ行く。そこでセックスをしようとしたが、バブルーは睡眠薬で眠らされ、翌朝起きたときには一人だった。スワーティーはホテルから逃げ出しムンバイーに行ってしまった。
バブルーは傷つき、タークルは名誉を汚された。一方、スワーティーはムンバイーで成功し、人気TV女優になっていた。スワーティーはTV番組の企画で「スワヤンヴァル(花婿自選式)」を行う。それを見たバブルーは単身ムンバイーに乗り込みスワーティーを連れ戻そうとする。
バブルーはなかなかスワーティーに近づけず、ガードマンを殴ってしまい、警察に逮捕される。彼を救い出したのが、ムンバイーでTV局に勤めていたアヴァンティカーだった。アヴァンティカーはバブルーがスワーティーの夫であると知り、彼に協力する。アヴァンティカーはバブルーをスワーティーに引き合わせるが、スワーティーは他人行儀な反応しかしなかった。アヴァンティカーはバブルーと時間を過ごす内に彼の良さに気付く。
スワーティーから拒絶されたことでバブルーは彼女を連れ戻すのを諦め、ラクナウーに戻る。ちょうどその頃、スワーティーが既婚であることはメディアによってすっぱ抜かれていた。バブルーがラクナウーに戻るとスワーティーが待っており、彼と改めて結婚したいと言い出す。ところがその場にはアヴァンティカーも来ていた。アヴァンティカーはバブルーに気持ちを伝えた後、去って行く。それを見たスワーティーはバブルーをアヴァンティカーに譲る。こうしてバブルーとアヴァンティカーの結婚式が行われ、バブルーは無事に独身を卒業した。
まず、人物設定で失敗している映画である。主人公のバブルーはいわゆる「金持ちのボンボン」だが、35歳まで独身だった。しかしながら、女性にもてなかったから独身なのか、結婚を拒否していたから独身なのか、設定が曖昧であった。確かに主体性のない性格で、何の仕事をしているのかもよく分からなかったが、経済力だけはあるので、もてないということはないだろう。シャルマン・ジョーシーが演じたことで温厚な性格が滲み出ており、結婚相手として決して悪くはない。現に映画の終盤では2人の女性から結婚を求められていた。とすると、35年間もてなかったという経歴に疑問符が付く。
ヒロインのアヴァンティカーとスワーティーの設定も芯が通っておらず非常に弱い。アヴァンティカーはバブルーとお見合いし、彼の野心のなさを理由に彼との結婚を拒絶した。だが、ムンバイーで再会した後は一転して彼に惹かれるようになる。バブルーに大きな変化は見られず、アヴァンティカーがなぜ彼との結婚まで考えるようになったのか全く分からない。スワーティーはこの映画でもっとも挙動不審なキャラだ。女優になりたいという夢を叶えるためにバブルーを結婚に巻き込む。ムンバイーで女優として成功するが、そんなに有名になってしまって、バブルーが追いかけてこないとでも思っていたのだろうか。しかもTV番組の企画で伴侶の公募までしてしまう。常軌を逸した行動だ。しかも最終的にバブルーともう一度結婚しようとする。彼女の行動には一貫性が欠如している。
ストーリーが時々飛ぶのも気になった点だ。たとえばハネムーン中にスワーティーが逃げてから彼女がムンバイーでTV女優になるまでには一定の時間が掛かったはずだが、映画を観ていると、あたかも彼女がムンバイーに到着した途端に成功したような印象を受ける。シーンとシーンのつなぎ方が下手で、損をしていた。
それでも、俳優たちは与えられた役割をしっかりこなしていたといえる。主役級のシャルマン・ジョーシー、プージャー・チョープラー、テージャシュリー・プラダーンの演技は良かったし、タークルを演じたラージェーシュ・シャルマーも絶妙だった。
ちなみに「スワヤンヴァル」とは、古代インドのクシャトリヤ・コミュニティーで行われていたとされる、王族の娘など高貴な女性が自分の夫を自分で決める儀式である。儀式というよりも競技会のようなもので、集まった求婚者の中でもっとも優れた者がその女性と結婚する権利を獲得する。「ラーマーヤナ」でもスィーターがスワヤンヴァルを行い、ラーマ王子が勝ったために彼女と結婚することになった。スワーティーはTV番組でスワヤンヴァルを行おうとしたが、これはインドで実際にあった企画である。たとえばラーキー・サーワントという女優がTVのリアリティーショーでスワヤンヴァルを行ったことがあった。
「Babloo Bachelor」は、散々使い古されたストーリーラインを、人物設定に失敗したキャラたちを使って映画にした作品であり、出来が悪くなることは撮影前からある程度分かっていたのではないかと思われる。それでも、主演のシャルマン・ジョーシーをはじめ、俳優たちの演技は悪くなく、彼らに罪はない。無理して観る必要のない作品である。