MFフサイン(1915-2011年)は20世紀のインドを代表する現代芸術家であり、キュビズムに影響を受けたスタイルで知られる。彼は生涯に何本か映画も撮っており、中でも「Meenaxi: Tale of 3 Cities」(2004年)がもっとも有名だが、2000年12月1日に公開された「Gaja Gamini(象のように歩く女性)」はその前に発表された作品である。
主演はマードゥリー・ディークシト。MFフサインはマードゥリーの大ファンだったとされる。出演時間は短いものの、シャールク・カーンも共演している。他に、シャバーナー・アーズミー、ナスィールッディーン・シャー、シルパー・シロードカル、インダル・クマール、テージ・サプルー、ファリーダー・ジャラール、モーハン・アーガーシェー、カルパナー・パンディト、ライサー・フサイン、アリーハサン・トゥラービー、スニーター・クマールなどが出演している。
2024年5月14日に鑑賞しこのレビューを書いているので、MFフサインの死からだいぶ時間が経ってから回顧してこのレビューを書いていることになる。
芸術家が撮った映画なだけあって、ストーリーは非常に象徴的かつ難解である。物語の中心になるのは「ガジャ・ガーミニー」と呼ばれる女性だ。どんな男性も虜にしてしまう魅惑の女性である。これをマードゥリー・ディークシトが演じている。ガジャ・ガーミニーは包みを抱えているが、この中には「女性の秘密」が隠されているとされる。物語には、ガジャ・ガーミニーを愛する2人の男性が登場する。一人はカームデーヴ(インダル・クマール)、愛の神である。もう一人はレオナルド・ダ・ビンチ(ナスィールッディーン・シャー)。そう、あのイタリアの芸術家である。
ガジャ・ガーミニーをマードゥリーが演じているのは分かるのだが、ガジャ・ガーミニーとして登場している間は、背中ばかりを見せて顔を見せようとしない。その代わり、マードゥリーは他の女性役を演じる。バナーラスのダール・マンディーに住む盲目の女性サンギーター、詩聖カーリダース(モーハン・アーガーシェー)が生み出した、ケーララ地方の森の中に住むシャークンタル、ダ・ビンチが創造した女性モナリザ、そして現代の女性モニカである。
4-5世紀のインドに生きたカーリダースや、15-16世紀のイタリアに生きたレオナルド・ダ・ビンチなどが時空を超えて登場することからも分かるように、リアリズムを放棄した非常に観念的な映画である。セットで撮影が行われているのだが、かなりチープなセットであり、映画というよりも舞台劇に近い印象を受ける。マードゥリーが演じる5人の女性によって、女性の礼賛が行われていると解釈していいのだろうが、そこから先を深読みしようとすると路頭に迷ってしまう。
20世紀の最後の年である2000年の最後の月に公開されたことからも分かるように、新しいミレニアムに期待を向けた作品だとも感じた。
カメオ出演のシャールク・カーンは、シャールクという名前の写真家を演じていた。モニカの友人という役柄で、モニカの写真を撮りながら彼女と雑談をする。MFフサイン自身も冒頭に出演しており、トレードマークとなる馬の絵などを壁に白いペンキで描いていた。また、映画の中で牛の頭の模型が使われていたが、これはMFフサインと並び称されるインド人現代芸術家タイヤブ・メヘター(1925-2009年)の作品「Head of a Bull(牛の頭)」を模したものだと思われる。
音楽はブーペーン・ハザーリカー。カーリダースのシュローカ詩に音楽を付けた「Sloka」や、MFフサイン自身が作詞をし歌も歌っている「Yeh Ghatri Taj Ki Tarah」など、バラエティーに富んでいる。
ちなみにMFフサインは、ヒンドゥー教の女神のヌードを描いたことなどで訴えられ、2006年からカタールや英国で亡命生活を送ることになった。帰国を望みながらも叶わず、2011年にロンドンで心臓発作により没した。
「Gaja Gamini」は、いかにも芸術家が撮ったような前衛的かつ観念的な作品だ。1990年代を代表する女優であるマードゥリー・ディークシトの美をとことん追求し、女性を礼賛する内容だと解釈していいだろうが、監督の想像力を感覚的に形にして詰め込んだ作品であり、ひとつの解釈に留めることは不可能だ。シャールク・カーンがカメオ出演していることは特筆すべきである。決して気楽に観られる映画ではないが、インドを代表する芸術家の映画ということで、無視できない作品である。