2011年4月29日公開の「Naughty @ 40」は、40歳の童貞を主人公にしたアダルトコメディー映画である。米映画「40歳の童貞男」(2005年)のリメイクである。
監督はジャグモーハン・ムンドラー。「Bawandar」(2000年)のようなシリアスな映画も撮るが、「Tales of Kama Sutra」シリーズ(2000年・2001年)のようなエロティックな映画も撮る、揺れ幅の大きな監督だ。2011年9月4日に肺炎で亡くなっており、この映画が彼の遺作となった。
主演はゴーヴィンダー。他に、ユヴィカー・チャウダリー、アヌパム・ケール、シャクティ・カプール、スミター・ジャイカル、ハリーシュ・クマール、サンジャイ・ミシュラー、ラーケーシュ・ベーディー、サヤーリー・バガトなどが出演している。
公開当時はインド在住だったが、この映画は見逃していた。2024年3月20日に鑑賞し、このレビューを書いている。
ロンドン在住のハッピー(ゴーヴィンダー)は40歳になってもまだ独身で、しかも童貞だった。また、夢遊病を患っていた。父親のLNカプール(アヌパム・ケール)は心配し、彼をインドに送ってお見合いをさせる。山間の町スンダルナガルに住むチャトゥル叔父さん(サンジャイ・ミシュラー)がその役を引き受け、兄ダヤーシャンカル(ラーケーシュ・ベーディー)の娘ガウリー(ユヴィカー・チャウダリー)をお見合い結婚をさせる。 ハッピーは早速初夜に童貞を捨てようとするが、ガウリーは子供っぽい性格で、何もできなかった。ハッピーはスンダルナガルにロケに来ていた英国人モデル、シャロンと仲良くなり、遂に彼女とベッドを共にしてしまう。ハッピーは罪悪感を感じながらも、大人になりきれていないガウリーとは暮らせないと感じ、彼女を捨てる。 ところがシャロンはインドでの仕事が終わるとあっけなくハッピーを振って去って行ってしまった。ハッピーに捨てられたガウリーは自殺をしようとするが、ハッピーはそれを止め、二人は仲直りする。5年後、ハッピーとガウリーは多くの子供をもうけ、幸せな家庭を築いていた。
主人公ハッピーは奥手な性格で40歳になっても独身かつ童貞だったが、夜になって眠ると夢遊病の症状が出て、夜の街を徘徊しながら女性を追いかけるという設定であった。一方、ハッピーと結婚することになるガウリーは知的障害があるのではないかと思えるほど幼稚な性格で、結婚の意味もよく分かっていなかった。ハッピーは結婚後もなかなか童貞を捨てることができず、ガウリーを捨てて英国人モデルのシャロンと接近する。
ハッピーとガウリーは単体でもかなりユニークなキャラであり、この二人がくっ付くことでさらなるドタバタ劇が期待された。だが、どちらのキャラも煮詰め切れていなかった。ハッピーは内向的な性格だったはずだが、途中から童貞を捨てたくて捨てたくてたまらない性欲モンスターに豹変する。ガウリーはハッピーに捨てられて初めて自分の幼稚さを自覚するのだが、それが自覚できるほどの理性があるとは思っていなかった。二人の関係もすれ違い気味だったし、そのすれ違いがギャグとして活かされているわけでもなかった。キャラとストーリーが全く噛み合っておらず、完全なる失敗作である。これが遺作になるとはムンドラー監督にとっても誤算だったのではなかろうか。
ただ、ゴーヴィンダー、サンジャイ・ミシュラー、シャクティ・カプール、アヌパム・ケールといったコメディーを得意とする俳優たちが揃っており、彼らが本領を発揮しているおかげで、部分的には笑いを取ることができていた。特にセリフは秀逸で、早口言葉のようなセリフが何度も出て来て観客を楽しませてくれた。それがせめてもの救いになっていた。
1990年代はヒット作に恵まれていたゴーヴィンダーは、2000年代に入ると低迷するようになる。彼は思いきって2004年に政治家に転向し国会議員になったが、国会にほとんど出席せずに映画の仕事ばかりをしていて批判を浴びた。「Partner」(2007年)が大ヒットしたことで再び俳優としてのキャリアにチャンスを見出し、2008年に辞表を提出した。だが、以前のようなスターダムを取り戻すことはできなかった。「Naughty @ 40」はそんなどん底のときに出演した映画であろうが、やはりスターとしてのオーラは感じなかった。ちなみに撮影時ゴーヴィンダーは既に40代後半に差し掛かっていた。
一方、ユヴィカー・チャウダリーはなかなか目立っていた。知的障害スレスレの幼稚な女性役ということで役柄としてはあまり良くなかったのだが、「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)のおかげでセカンドヒロイン役が定着してしまい、以後、そのイメージを払拭するのに苦労していた。「Naughty @ 40」での彼女は堂々のメインヒロインである。
「Naughty @ 40」は、ゴーヴィンダー主演のアダルトコメディー映画だが、彼にかつての勢いはなく、映画もあらゆる要素が噛み合っておらず、失敗作に終わっている。だが、個々の俳優の実力があるために、笑えるシーンは笑える。非常にアンバランスな作品である。無理に観る必要はない。