「Khichdi」は、2002年から04年までStar Plusで放映されたTVドラマである。ムンバイー在住グジャラーティー一家、パーレーク家の面々が引き起こす騒動を面白おかしく描いたファミリー・コメディーだ。題名の「キチュリー」とはインド式お粥のことで、文脈によっては「ごちゃ混ぜ」などという意味にもなる。「Khichdi」は人気番組となり、その後、「Instant Khichdi」(2005年)、「Khichdi Returns」(2018年)とシリーズ化された。2010年10月1日公開の「Khichdi: The Movie」はその映画版となる。インドにおいてTVドラマから映画が派生したのはこれが初である。
監督はTVドラマと同じアーティシュ・カパーリヤー。ほぼ「Khichdi」シリーズを専門に撮っている監督で、TVドラマが主なフィールドである。キャストもTVドラマとほぼ共通している。アナング・デーサーイー、ラージーヴ・メヘター、スプリヤー・パータク、ジャムナーダース・マジェーティヤー、ニミシャー・ヴァカーリヤー、ギリーシュ・サハデーヴなどはお馴染みのキャストである。それに加えて新人のキールティ・クルハリ、特別出演のファラー・カーン、サティーシュ・シャーなどが起用されている。
ちなみに、映画中でヒマーンシュを演じたジャムナーダース・マジェーティヤーがこの映画のプロデューサーでもある。
映画公開当時インドに滞在していたが、この映画は見逃していた。2024年3月3日に観賞しこのレビューを書いている。
ムンバイー在住のグジャラーティー一家、パーレーク家は、トゥルスィーダース・パーレーク(アナング・デーサーイー)、彼の息子プラッフル(ラージーヴ・メヘター)、その妻ハンサー(スプリヤー・パータク)、彼女の弟ヒマーンシュ(ジャムナーダース・マジェーティヤー)、トゥルスィーダースの亡き息子バラトの寡婦ジャイシュリー(ニミシャー・ヴァカーリヤー)、プラッフルとハンサーの娘チャッキー、バラトとジャイシュリーの息子ジャッキーで構成されていた。 ある日、ハンサーの実父チャンドラカーントが危篤状態になる。パーレーク一家が駆けつけるとチャンドラカーントは、ヒマーンシュの夢を叶えてやって欲しいと言い残して息を引き取る。ヒマーンシュの夢は大恋愛をして結婚することだった。そこでジャイシュリーはお見合いをセッティングしてヒマーンシュの結婚相手を探そうとするが、パーレーク家の人々にあまりに奇行が多いことからなかなか縁談はまとまらない。 ところでパーレーク家の隣にはパンジャービーの一家が住んでいた。彼らの名前は皆パルミンダルだった。一家の主パルミンダル・スィンは妹のパルミンダル・カウル、通称パンミー(キールティ・クルハリ)の縁談をパーレーク家に持ち込む。こうしてトントン拍子にヒマーンシュとパンミーの結婚が決まった。 ところがヒマーンシュは、自分たちの結婚にあまりに障害がなさすぎて、これは大恋愛ではないと言い出す。そこでトゥルスィーダースたちは心臓発作を起こした振りをして結婚式を延期させ、その間にわざと破談になるような事件を起こそうとする。なかなかうまくいかなかったが、パルミンダルの親友チャックーを見ていいことを思い付く。パーレーク家はチャックーの家に忍び込み盗みを働こうとしたのである。ところが彼らはチャックーが胸にナイフを刺されて気を失っているのを発見する。容疑者としてヒマーンシュが警察に逮捕されてしまう。パルミンダルは激怒し、縁談を破談にしてパンミーを別のパルミンダルと結婚させようとする。 ヒマーンシュの裁判が行われることになった。ハンサーが弁護士として現れ、さんざん裁判をかき乱した後、実はチャックーは自殺未遂をしただけだと言い出す。ちゃんとチャックーの遺書もあったし、病院ではチャックーが意識を取り戻しており、自殺をしようとしたことを明かす。こうしてヒマーンシュは無罪放免となった。 チャンディーガルでパンミーの結婚式が行われようとしていた。パーレーク家はチャンディーガルに急ぎ、結婚を止める。パンミーの結婚相手だったパルミンダルは式場に現れておらず、彼らもヒマーンシュが無罪だと知っていた。こうしてヒマーンシュとパンミーはめでたく結婚した。
パーレーク家のメンバーは皆が皆エキセントリックな性格をしており、まともな会話が成り立たない。神様ですら彼らと意思の疎通をすることができなかったくらいだ。彼らの奇妙奇天烈な言動が「Khichdi」シリーズの笑いの原動力である。不条理系の笑いに分類していいだろう。ただ、パーレーク家の中でまともな人間もいる。それはチャッキーとジャッキーという子供たちだ。彼らがナレーターとなって自分の家族について語るというのが「Khichdi: The Movie」の大枠になっている。
基本的にはパーレーク家の面々が発する常軌を逸した発言で笑いを取っていくスタイルだが、ストーリーにも大きなお笑いポイントがあった。通常、ヒンディー語のロマンス映画では、男女が困難を乗り越えて結婚をする。だが、ヒマーンシュはパンミーとの結婚があまりにトントン拍子で進んでいったことに不満を感じ、わざとそこに苦難を設けて大恋愛を演出したいと言い出す。それにパーレーク家の人々が嬉々として協力したものだから、無用なトラブルが発生し、爆笑ポイントにもなっていくのである。
ヒンディー語映画のパロディーが目立つ映画でもあった。追悼式のシーンで「Murder」(2004年)の「Bheege Hoth Tere」や「Omkara」(2006年)の「Beedi」のようなエロティックな曲が鎮魂歌的にアレンジされて歌われていたし、「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)のファラー・カーン監督が特別出演してヒマーンシュの映画を撮っていた。
「Khichdi: The Movie」は、TVで人気を博したドラマから派生したコメディー映画である。TVドラマが映画化されたのはインドではこれが初となる。キャラが確立されており、爆笑できるシーンも多い。不条理系のギャグが大半だが、有無を言わせぬ力技の展開で押し切ることに成功している。どうしてもTVドラマの延長を抜け切れておらず安っぽいところはあるが、コメディー映画として一定の水準に達した映画である。