Akaash Vani

2.5
Akaash Vani
「Akaash Vani」

 2013年1月25日公開の「Akaash Vani」は、サプライズヒットしたロマンス映画「Pyaar Ka Punchnama」(2011年)のクルーとキャストが再集結して作られたロマンス映画である。題名になっている「Akaash Vani(आकाश वाणी)」とは直訳すれば「空の言葉」で、これは「ラジオ」のヒンディー語訳である。ただし、この映画では「アーカーシュ」と「ワーニー」という主人公の名前になっている。二人の運命的な出会いを象徴した題名だ。

 監督は「Pyaar Ka Punchnama」のラヴ・ランジャン。主演はカールティク・ティワーリー(後のカールティク・アーリヤン)とヌスラト・バルチャー。助演としてファーティマー・サナー・シェーク、悪役としてサニー・スィンが出演しているが、この内、カールティク、ヌスラト、サニーは「Pyaar Ka Punchnaama」のキャストである。他に、キラン・クマール、プラーチー・シャー、ガウタム・メヘラー、マヘーシュ・タークルなどが出演している。

 映画公開当時インドに住んでいたが、この映画は見逃していた。2024年2月24日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 アーカーシュ・カプール(カールティク・ティワーリー)とヴァーニー・メヘラー(ヌスラト・バルチャー)はデリーのセント・ステファン・カレッジ英文学科の同期だった。アーカーシュは大学1日目にヴァーニーに出会って一目惚れし、ずっと口説き続ける。二人は付き合い始め、楽しい大学生活を送る。スンブル・ヤクーブ(ファーティマー・サナー・シェーク)とシェーカル・ロイ(ガウタム・メヘラー)も同期であり、彼らの親友だった。

 あっという間に大学時代が過ぎ去った。アーカーシュはMBAを修めるために英国に留学し、ヴァーニーは故郷デヘラードゥーンに戻る。ヴァーニーの姉シヴァーニーの結婚式があり、ヴァーニーはその慶事に両親にアーカーシュのことを話すつもりだった。ところがシヴァーニーは結婚式前日に別の男性と駆け落ちしてしまう。父親(キラン・クマール)はショックを受け、しばらく立ち直れなかった。そんな様子を見てヴァーニーはアーカーシュとの関係を打ち明ける勇気をなくしてしまう。そして半年後、ヴァーニーはとうとう英国にいるアーカーシュに電話で別れを告げる。アーカーシュは裏切られた気持ちになった。

 ヴァーニーは父親の勧めるがまま、ラヴィ(サニー・スィン)とお見合い結婚する。だが、ラヴィはヴァーニーを家政婦扱いする亭主関白の男性だった。ヴァーニーの結婚生活は幸せではなく、一度は実家に帰ってしまったこともあった。

 セント・ステファン・カレッジで同窓会が開かれることになった。ヴァーニーの叔父ヴィシャール(マヘーシュ・タークル)が口利きをしてくれたおかげでラヴィから許可が下り、ヴァーニーはデリーに行くことができる。そこでスンブル、シェーカル、そしてアーカーシュと再会する。突然別れを切り出したヴァーニーに対してアーカーシュの怒りは収まっていなかったが、久しぶりに会った二人は仲直りをし、かつての関係を取り戻す。

 アーカーシュはヴァーニーが幸せでないのを見て、彼女を取り戻す決意をする。両親に呼び戻されたヴァーニーを追ってデヘラードゥーンまで行くが、そこでラヴィと対面する。ヴァーニーは思い切って父親に対し、ラヴィと離婚をすると宣言する。ラヴィは、アーカーシュこそがヴァーニーの昔の恋人だと悟るが、もはや彼女の離婚を止めることはできなかった。ラヴィとヴァーニーの離婚が成立し、アーカーシュとヴァーニーは結婚する。

 ラヴ・ランジャンはモダンなラブストーリーを得意とする監督で、しかもユニークな観点からストーリーを組み立てることに長けている。彼の監督デビュー作「Pyaar Ka Punchnaama」には、必ずしも恋愛を成就させずにハッピーに終わる斬新さがありヒットした。「Akaash Vani」は彼の第2作になる。

 「Akaash Vani」に見出される新しさは、ヒロインが第三の男と一度結婚してから離婚し、彼女のことを一途に愛してきたヒーローと最後には再婚することだ。ヒンディー語映画には、一度成立した結婚を何としてでも維持しようとする強い力が働いており、離婚という選択肢はほとんど採られない。たとえ望まない結婚だったとしても、一度結婚してしまうと、何らかのきっかけによりその結婚を肯定的に捉えるようになるという筋書きが定番である。「Hum Dil De Chuke Sanam」(1999年/邦題:ミモラ)はその典型例だ。しかしながら、「Akaash Vani」は「結婚はやり直せる」「うまくいかない結婚はやめてもいい」というメッセージを発信しており、ヒンディー語映画の新境地を開拓しようとしている。

 インド人は一般に家族を非常に大切にし、結婚相手を決める際も家族の意向を最優先する傾向にある。ヒロインのヴァーニーが恋人のアーカーシュに一方的に別れを告げるシーンがある。そのときの彼女の言葉は、「あなたのことを愛しているけど、私の両親よりは愛していない」であった。実はこれが大半のインド人に共通する考え方である。だから、いくら真剣に付き合っている人がいたとしても、親から他の結婚相手を決められてしまうと、ほとんど抵抗もせずにお見合い結婚をしてしまうケースが多い。とはいえ、本当に家族を優先して自分を犠牲にすることで幸せになれるのかと問い掛けたのがこの映画になる。

 そのメッセージ性ははっきりしていたが、映画自体は非常にスローテンポで、中盤まで方向性が見えなかった。心が重くなる時間帯も長く、観ていて心を締め付けられた。特にヴァーニーが、愛するアーカーシュではなく、親の決めた結婚相手ラヴィと初夜を過ごすシーンは苦しすぎる。中盤までの展開も、従来のヒンディー語映画で散々使い古されてきたものであり、余計にそのスローな進み方にイライラした。

 ラヴ・ランジャン監督作は音楽の良さでも知られている。「Akaash Vani」は青春賛歌といった感じの若々しい曲が多く、映画の雰囲気に合っていたが、後々まで歌い継がれるような名曲には乏しかった。音楽監督は「Pyaar Ka Punchnaama」でも一部の曲を作曲していたヒテーシュ・ソーニクである。作詞はランジャン監督自身が行っている。

 後に「カールティク・アーリヤン」を名乗ることになるカールティク・ティワーリーと、ヌスラト・バルチャーの相性は良く、演技力も申し分なかった。サニー・スィンが演じたラヴィ役は極端すぎると感じたが、彼の演技自体は問題なかった。後に「Dangal」(2016年/邦題:ダンガル きっと、強くなる)で有名になるファーティマー・サナー・シェークが助演で出ているのにも注目である。

 「Akaash Vani」は、ロマンス映画を得意とするラヴ・ランジャン監督の2作目である。女性の離婚と再婚を肯定的に描いていることで、ロマンス映画の新たな地平を見せてくれる作品ではあるが、その主題がはっきりするのは終盤になってからで、それまではスローテンポかつありきたりな展開が続き、しかも苦しい気持ちになる時間帯が長い。メッセージ性のあるロマンス映画である点は評価できるが、バランスは悪い作品である。


Kartik Aryan & Nushrat Bharucha's Love Story : Akaash Vani (2013) | Full Movie | Bollywood Romance