Rakht Charitra

4.0
Rakht Charitra
「Rakht Charitra」

 ラーム・ゴーパール・ヴァルマーは非常に多作な映画監督・プロデューサーで、今まで数々の名作を送り出して来たが、特に得意とするのがアンダーワールドを舞台にした暴力映画である。「Satya」(1998年)、「Company」(2002年)、「Sarkar」(2005年)、「Contract」(2008年)などによって、世の中の変化に従って変容して行くアンダーワールドの有様を描き続けて来た。そのラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の最新作が、2010年10月22日公開の「Rakht Charitra」である。この映画は実話に基づいて作られた作品で、主人公プラタープのモデルとなっているのは、アーンドラ・プラデーシュ州の政治家パリターラ・ラヴィーンドラである。パリターラ・ラヴィーンドラはナクサライト(極左反政府ゲリラ)出身で後にテルグ国民党(TDP)の政治家となり、2005年に暗殺された人物である。また、この映画は最初から2部作として作られており、「Rakht Charitra 2」は2010年11月19日公開予定となっている。「Rakht Charitra 2」では、パリターラ・ラヴィーンドラを暗殺したスーリーをモデルにしたスーリヤを主人公にした作品になるようだ。また、「Rakht Charitra」はヒンディー語版の他、テルグ語版とタミル語版も同時制作されている。

監督:ラーム・ゴーパール・ヴァルマー
制作:マドゥ・マンテーナー、シータル・ヴィノード・タルワール、チンナ・ヴァースデーヴァ・レッディー、ラージクマール
音楽:スクヴィンダル・スィン、イムラーン・ヴィクラム、ダラム・サンディープ、バッピー・トゥトゥル
歌詞:ループ、シャッビール・アハマド、ヴァーユ、アビシェーク・チャタルジー、サリーム・モーミン
出演:ヴィヴェーク・オーベローイ、アビマンニュ・スィン、コーター・シュリーニヴァース・ラーオ、アーシーシュ・ヴィディヤールティー、ラーディカー・アプテー、シャトゥルガン・スィナー、ザリーナー・ワヒーブ、ラージェーンドラ・グプター、スシャーント・スィン、タニケッラ・バラニ、スディープ、ダルシャン・ジャリーワーラー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 血で血を洗う闘争が日常茶飯事となった町アーナンドプル。この町を支配していたのはナラスィンハデーヴ・レッディー(タニケッラ・バラニ)という政治家であった。そして不可触民出身ながら奉仕と忠誠によりナラスィンハデーヴ・レッディーの信頼を勝ち得ていたのがヴィールバドラ(ラージェーンドラ・グプター)であった。選挙が近づきつつある中、ヴィールバドラは自らの所属するカーストの候補者を全選挙区で擁立し、コミュニティーの地位向上を図っていた。ところがナラスィンハデーヴの兄ナーガマニ・レッディー(コーター・シュリーニヴァース・ラーオ)は、ヴィールバドラのことをよく思っておらず、ナラスィンハデーヴにヴィールバドラの悪口を吹き込む。惑わされたナラスィンハデーヴはヴィールバドラを遠ざけるが、ヴィールバドラはそれで引き下がる男ではなく、同カーストの仲間たちを率いてナラスィンハデーヴに牙をむいた。そこでナラスィンハデーヴとナーガマニは、ヴィールバドラの右腕マンダー(アーシーシュ・ヴィディヤールティー)を誘拐して脅し、彼にヴィールバドラを暗殺させる。

 ところでヴィールバドラには2人の息子がいた。兄のシャンカル(スシャーント・スィン)は父のそばに常に付き添っており、父の暗殺後はゲリラとなってナラスィンハデーヴの仲間たちに復讐を開始した。ナーガマニの息子で「羅刹」と恐れられていたブッカー・レッディー(アビマンニュ・スィン)は父以上に残忍な男で、ヴィールバドラの血縁を根絶やしにするために行動を開始する。一方、弟のプラタープ・ラヴィ(ヴィヴェーク・オベロイ)は都市で大学に通っていた。プラタープにはナンディニー(ラーディカー・アプテー)という恋人がおり、結婚を希望していたが、彼女の両親は彼のカーストなどを理由に認めようとしていなかった。プラタープは父が殺されたことを知り、急いでアーナンドプルへ向かう。プラタープはシャンカルと再会するが、その直後にシャンカルはナーガマニの息のかかった警察に捕まってしまい、殺されてしまう。父と兄を失ったプラタープは、ナラスィンハデーヴ、ナーガマニ、ブッカーの三人を一人一人殺すことを誓い、復讐を開始する。まずはナラスィンハデーヴを白昼堂々殺害し、次にナーガマニを殺害した。また、プラタープはナンディニーと結婚し、共にゲリラ生活をし始める。

 ナラスィンハデーヴとナーガマニが死んだことで、ブッカーの兄プル・レッディーが後継者となり、選挙に立候補する。同時にブッカーは対立候補者の殺害を部下たちに命じる。折しも、映画スターのシヴァージーラーオ(シャトルガン・スィナー)が新党民国党(PDP)を立ち上げ、キャンペーンを開始していた。シヴァージーラーオはアーナンドプルでも選挙ラリーを行ったが、ブッカーは爆弾テロを行い、シヴァージーラーオに挑戦する。そこでシヴァージーラーオは、ブッカーのライバル、プラタープと密会し、仲間に引き入れる。暗殺だけでは何も変わらないことに気付いていたプラタープは、システムの中からシステムを変えることを決意し、シヴァージーラーオと手を結ぶ。プラタープはシヴァージーラーオの政党の公認候補者としてアーナンドプルの選挙区から立候補し、プルを破って当選した。シヴァージーラーオの政党は州で第一党となり、シヴァージーラーオは州首相に就任した。党内にはプラタープを面白く思わない人物もいたが、シヴァージーラーオは彼を大臣に抜擢する。プラタープはすぐに州内のマフィアを呼び寄せて引き締めを行う。

 プルが落選したことで立場を弱くしたブッカーは警察に逮捕されてしまうが、プルがシヴァージーラーオのライバル政党に働きかけを行ったことで、ブッカーはすぐに釈放されてしまう。自由の身となったブッカーは姿をくらまし、プラタープへの復讐を練っていた。それを耳にしたプラタープは、ブッカーの居所を突き止め、先手を打ってブッカーを暗殺する。向かうところ敵なしとなったプラタープであったが、彼の前にひとつの大きな障害が立ちはだかろうとしていた・・・。

 根が映画オタクであるラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の作品は当たり外れが大きく、観る前に慎重にならなければならないのだが、「Rakht Charitra」は暴力が嫌いでなければ当たりに分類される作品だと言えるだろう。復讐が復讐を呼ぶ復讐の負のサイクルを、実話に基づいたストーリーによって淡々と語る映画で、俳優陣の好演や台詞の格好良さもあり、非常に重厚なドラマとなっていた。登場人物に完全なる善人は存在せず、モラルも何もない中、復讐のみが正義として存在し、登場人物たちを突き動かす。よって、映画の真の主人公は復讐と言ってもいいだろう。インド映画では、腐敗したシステムを変えるために、システムの外から変えるべきか、システムの中から変えるべきか、ということが時々語られるが、「Rakht Charitra」のストーリーは、システムの中からシステムを変える手段を是としていた。主人公プラタープ・ラヴィは最初システムの外からシステムをひっくり返そうとする。ナラスィンハデーヴを殺し、ナーガマニを殺したが、次々と後継者が現れ、大きな変化は生まれなかった。そこでプラタープは、復讐相手を一人一人暗殺するという直接的手段ではなく、政治という巨大なシステムの中に入って、不可触民を弾圧し続けて来たシステムそのものを根本から覆すため、映画スターから政治家に転身したシヴァージーラーオと手を結ぶのであった。

 実話に基づいているだけあり、主要登場人物の何人かは実在の人物がモデルとなっている。主人公プラタープ・ラヴィのモデルは前述の通りパリターラ・ラヴィーンドラである。他にモデルとなった著名人は何と言ってもNTラーマラーオ(NTR)だ。NTRはテルグ語映画界の大スターで、テルグ国民党(TDP)の創設者でもあり、アーンドラ・プラデーシュ州の州首相を3期に渡って務めた。劇中ではシヴァージーラーオとなっており、同じく俳優から政治家に転身したシャトルガン・スィナーが演じている。とりあえず「Rakht Charitra」を見れば、1980年代にアーンドラ・プラデーシュ州の政界で起こった激変のエッセンスを理解できる。また、劇中でシヴァージーラーオのライバル政党として描写されながら具体的な言及がなかった政党(プルがブッカー釈放のために懇願しに行った)はおそらく当時中央で与党となっていた国民会議派であろう。

 復讐劇自体は手に汗を握る展開で楽しめたのだが、映画としての完成度は決して高くなかった。もっとも気になったのは、専らナレーションでストーリーを進めていく手法である。全2部作中の第1部ながら、まだ多くの要素を詰め込み過ぎていた。映画という媒体はまず映像で物を語るべきであり、映像に凝ることで知られるラーム・ゴーパール・ヴァルマーはそのことを重々承知のはずであるが、「Rakht Charitra」ではストーリー進行上重要な部分はほとんどナレーションで手っ取り早く説明して済まされており、手抜きを感じた。ただ、ナレーションの語り口は独特で面白かった。ナレーションの問題と関連していると思われるが、シーンが中途半端にカットされてしまっている部分がいくつかあった。昔のインド映画によくあった、音楽が途中でぶつ切りされて次のシーンへ以降する現象が「Rakht Charitra」でも見られた。ラーム・ゴーパール・ヴァルマー映画の最大の欠点は音楽や音響の大袈裟な使用である。特に彼のホラー映画では、観客を怖がらせるために音響に大きく依存してる。「Rakht Charitra」でも音楽がうるさすぎて映像の力をそいでいた。

 主人公ヴィヴェーク・オーベローイの演技は素晴らしかった。元々彼はラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の「Company」でブレイクした男優であるが、徐々に凋落して行った。だが、この「Rakht Charitra」によって改めて実力を知らしめることに成功した。ヴィヴェークはラーム・ゴーパール・ヴァルマーに頭が上がらないだろう。極悪の悪役ブッカー・レッディーを演じたアビマンニュ・スィンの存在感も際立っていた。最近は「Gulaal」(2009年)で好演していたが、それを越える好演だと言える。名優シャトルガン・スィナーも貫禄の演技であったし、ナーガマニ・レッディーを演じたコーター・シュリーニヴァース・ラーオも良かった。他にもスディープ、スシャーント・スィン、ラージェーンドラ・グプターなども端役ではあったが印象深かった。

 インド映画の伝統的フォーマットに従い、挿入歌がいくつか入っていたが、大したものはなかった。音楽や効果音のうるささに加えて音楽の弱さもこの映画の欠点に数えられるだろう。

 劇中では舞台となっているアーナンドプルがどの州の町なのか明言がなかったが、看板の文字や自動車のナンバーから、アーンドラ・プラデーシュ州であることが分かった。だが、登場人物のしゃべる言語はビハーリー方言訛りで、多少そのギャップが気になった。ちなみにアーナンドプルのモデルとなっているのは、アーンドラ・プラデーシュ州のアナントプルである。

 「Rakht Charitra」はラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督渾身の暴力映画。復讐のみが正義の世界が淡々と描写される。全2部作の内の第1部であるため、最終的な評価は第2部の方を観てからでないとできないが、これだけでも一応完結しており、十分楽しめる。いくつか欠点はあるが、それを補って余りある俳優陣の演技が見所。特にヴィヴェーク・オーベローイのファンは見逃せないだろう。


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